↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界保育士は異世界で休みたい~戦力外の私ですが、子守唄で騎士団を救っているようです~  作者: 蜜豆
第5章「声」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/87

第一節

 次の日から、村の形が変わった。


 団長さんが決めた。壁の修理を最優先にする。人手を全部そこへ回す。三日で終わらせる。


 三日というのは、根拠のある数字だった。


 痕跡が半月前と、最近のもの。一度来て、戻って、また来ている。次が来るとすれば、その周期から計算できる、とシリルさんならたぶん言う。ここにあの人はいないので、団長さんが自分で計算した。


「十日から十五日」


 その人は、集会所でそう言った。


「一度目から二度目まで、十八日だった。二度目から今日で、十四日だ」


 アリオスさんが頷いた。


「では、すぐにでも」


「明日でもおかしくない」


 私は、その話を隅で聞いていた。

 聞きながら、頭の中で数を並べていた。


 十四日。今日が十五日目。


 朝から、人が壁へ集まった。

 村の大人が二十七人。隊が十九人。合わせて四十六人で、崩れた箇所を直す。


 私は、水を運んだ。

 運びながら、気づいたことがあった。


 子どもが、外に出てきている。


 壁のところに大人が全員いるので、家にいる意味がなくなったらしい。上の子が下の子を連れて、壁の近くまで来ていた。


 数えた。十九人。

 残りは家にいるか、寝ているのだと思う。


 昼過ぎに、ジャスミンさんのところへ行った。


「ジャスミンさん」


「なに」


「子どもが、外に出てます」


「見てる」


「あの、危なくないですか」


「危ないよ」


 あっさり言われた。


「でも、家に入れる人手がない。──全員、壁にいるから」


 私は、その言葉を受け取った。

 受け取って、少し考えた。


 考えて、聞いた。


「私が見てても、いいですか」


 その人が、こちらを見た。


「集めるのはなしだよ」


「集めないです」


「じゃあ、どうやって」


「あの」


 私は、紙を出した。

 昨日の夜、書いたものだった。

 絵ではない。字で書いた。この人は読めると言ったので、字にした。


 壁の近くに、四か所。一か所に五人まで。私が回ります。

 その人は、紙を見た。


「四か所」


「はい。離れてるので、一度に全部はやられないです」


「ばらすってことか」


「はい」


「それは、今やってる」


「はい。でも、今は場所が決まってないです」


 私は、続けた。


「決めておくと、探さなくて済みます。何かあったとき、四か所見れば全員です」


 その人は、しばらく紙を見ていた。

 見て、それから、顔を上げた。


「五人までってのは」


「一か所に六人以上いると、数えるのが遅くなります」


「そんなもんかい」


「はい。五人までなら、見た瞬間に分かります」


 その人は、私を見た。

 見て、それから、少し笑った。


「あんた、本当にそういう仕事してたんだね」


「はい」


「じゃあ、やりな」


 四か所は、その日のうちに決めた。

 ジャスミンさんが場所を選んだ。壁から近くて、家の陰になるところ。私が選ぶと、たぶん間違える。


 私は、そこに石を置いた。

 四か所に、それぞれ五つずつ。目印だった。


 子どもには、白い布を配った。城から持ってきたやつだ。四十一本あった。三十九人に配って、二本余った。


「これ、なに」


 九つの子が聞いた。

 私は、自分の髪を指した。同じ布が巻いてある。ティアが巻かせたやつだ。


「おそろい」


 その子が言った。

 私は、頷いた。

 頷いて、それから、書いた紙を見せた。よるにみえます。


 その子は、読めなかった。読めなかったので、私は絵を描いた。暗い中で、白いところだけが見えている絵。


「わかった」


 その子は、そう言って、自分の腕に巻いた。

 巻いてから、隣の子にも巻いてやった。


 夕方までに、三十九人全員が巻いていた。

 配ったのは私ではない。上の子が、下の子に巻いた。


 二日目。壁の修理が進んだ。


 三日目。終わった。


 終わった日の夕方、団長さんが壁の上に立って、外を見ていた。

 私は、下から見ていた。


 その人は、長いこと立っていた。動かずに、同じ方向を見ていた。

 降りてきたとき、顔が少し変わっていた。


「団長さん」


「ナナセ殿」


「あの、何か」


「風が変わった」


 その人は、そう言った。


「西からだ。──匂いが来る」


 私は、息を吸った。

 分からなかった。土と、草と、煙。それだけだった。


「今夜か、明日だ」


 その人は、集会所のほうへ歩き出した。


「アリオス殿を呼べ。それから、村の者を全員集める」


 夜、集会所に人が入りきらなかった。

 外にも立っている。松明が四本。その明かりで、顔が見えた。


 団長さんが、前に立った。


「今夜、来る可能性がある」


 ざわめきが起きた。

 起きて、すぐに収まった。この村の人は、こういうことに慣れている。


「壁は直った。だが、直したばかりだ。強度は元より落ちる」


「破られますか」


 誰かが聞いた。


「破られる前提で動く」


 その人は、そう言った。


「全員、集会所と隣の二軒に入れ。三箇所に分ける。──動くな。物音を立てるな」


 私は、そこで顔を上げた。


 三箇所。


 集めることになる。

 ジャスミンさんを見た。その人も、こちらを見ていた。


「団長」


 ジャスミンさんが、声を上げた。


「集めるのは、駄目です」


 部屋が、静かになった。


「一度目のとき、集めて四人死にました」


「知っている」


「じゃあ」


「昼と夜は違う」


 団長さんは、そう言った。


「昼なら散る。夜は散らせん。──暗い中で散らせば、見失った者から死ぬ」


 ジャスミンさんは、口を閉じた。


「それに、今日は十九人いる」


 その人は、隊のほうを見た。


「三箇所に、それぞれ六人つける。──一度目とは違う」


 誰も、何も言わなかった。

 しばらくして、ジャスミンさんが頷いた。


「分かりました」


「ジャスミン殿」


「はい」


「あなたの判断は正しかった。三十日、あれで守ってきたのだろう」


「……はい」


「今日だけだ。今日だけ、変える」


 その人は、そう言った。

 それから、私のほうを見た。


「ナナセ殿」


「はい」


「子どもは、どこだ」


 私は、答えた。


「四か所に分けてます。今から集めます」


「何人だ」


「三十九人です」


「全員の名前は」


 私は、そこで一度、息を吸った。


「覚えました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。