第一節
次の日から、村の形が変わった。
団長さんが決めた。壁の修理を最優先にする。人手を全部そこへ回す。三日で終わらせる。
三日というのは、根拠のある数字だった。
痕跡が半月前と、最近のもの。一度来て、戻って、また来ている。次が来るとすれば、その周期から計算できる、とシリルさんならたぶん言う。ここにあの人はいないので、団長さんが自分で計算した。
「十日から十五日」
その人は、集会所でそう言った。
「一度目から二度目まで、十八日だった。二度目から今日で、十四日だ」
アリオスさんが頷いた。
「では、すぐにでも」
「明日でもおかしくない」
私は、その話を隅で聞いていた。
聞きながら、頭の中で数を並べていた。
十四日。今日が十五日目。
朝から、人が壁へ集まった。
村の大人が二十七人。隊が十九人。合わせて四十六人で、崩れた箇所を直す。
私は、水を運んだ。
運びながら、気づいたことがあった。
子どもが、外に出てきている。
壁のところに大人が全員いるので、家にいる意味がなくなったらしい。上の子が下の子を連れて、壁の近くまで来ていた。
数えた。十九人。
残りは家にいるか、寝ているのだと思う。
昼過ぎに、ジャスミンさんのところへ行った。
「ジャスミンさん」
「なに」
「子どもが、外に出てます」
「見てる」
「あの、危なくないですか」
「危ないよ」
あっさり言われた。
「でも、家に入れる人手がない。──全員、壁にいるから」
私は、その言葉を受け取った。
受け取って、少し考えた。
考えて、聞いた。
「私が見てても、いいですか」
その人が、こちらを見た。
「集めるのはなしだよ」
「集めないです」
「じゃあ、どうやって」
「あの」
私は、紙を出した。
昨日の夜、書いたものだった。
絵ではない。字で書いた。この人は読めると言ったので、字にした。
壁の近くに、四か所。一か所に五人まで。私が回ります。
その人は、紙を見た。
「四か所」
「はい。離れてるので、一度に全部はやられないです」
「ばらすってことか」
「はい」
「それは、今やってる」
「はい。でも、今は場所が決まってないです」
私は、続けた。
「決めておくと、探さなくて済みます。何かあったとき、四か所見れば全員です」
その人は、しばらく紙を見ていた。
見て、それから、顔を上げた。
「五人までってのは」
「一か所に六人以上いると、数えるのが遅くなります」
「そんなもんかい」
「はい。五人までなら、見た瞬間に分かります」
その人は、私を見た。
見て、それから、少し笑った。
「あんた、本当にそういう仕事してたんだね」
「はい」
「じゃあ、やりな」
四か所は、その日のうちに決めた。
ジャスミンさんが場所を選んだ。壁から近くて、家の陰になるところ。私が選ぶと、たぶん間違える。
私は、そこに石を置いた。
四か所に、それぞれ五つずつ。目印だった。
子どもには、白い布を配った。城から持ってきたやつだ。四十一本あった。三十九人に配って、二本余った。
「これ、なに」
九つの子が聞いた。
私は、自分の髪を指した。同じ布が巻いてある。ティアが巻かせたやつだ。
「おそろい」
その子が言った。
私は、頷いた。
頷いて、それから、書いた紙を見せた。よるにみえます。
その子は、読めなかった。読めなかったので、私は絵を描いた。暗い中で、白いところだけが見えている絵。
「わかった」
その子は、そう言って、自分の腕に巻いた。
巻いてから、隣の子にも巻いてやった。
夕方までに、三十九人全員が巻いていた。
配ったのは私ではない。上の子が、下の子に巻いた。
二日目。壁の修理が進んだ。
三日目。終わった。
終わった日の夕方、団長さんが壁の上に立って、外を見ていた。
私は、下から見ていた。
その人は、長いこと立っていた。動かずに、同じ方向を見ていた。
降りてきたとき、顔が少し変わっていた。
「団長さん」
「ナナセ殿」
「あの、何か」
「風が変わった」
その人は、そう言った。
「西からだ。──匂いが来る」
私は、息を吸った。
分からなかった。土と、草と、煙。それだけだった。
「今夜か、明日だ」
その人は、集会所のほうへ歩き出した。
「アリオス殿を呼べ。それから、村の者を全員集める」
夜、集会所に人が入りきらなかった。
外にも立っている。松明が四本。その明かりで、顔が見えた。
団長さんが、前に立った。
「今夜、来る可能性がある」
ざわめきが起きた。
起きて、すぐに収まった。この村の人は、こういうことに慣れている。
「壁は直った。だが、直したばかりだ。強度は元より落ちる」
「破られますか」
誰かが聞いた。
「破られる前提で動く」
その人は、そう言った。
「全員、集会所と隣の二軒に入れ。三箇所に分ける。──動くな。物音を立てるな」
私は、そこで顔を上げた。
三箇所。
集めることになる。
ジャスミンさんを見た。その人も、こちらを見ていた。
「団長」
ジャスミンさんが、声を上げた。
「集めるのは、駄目です」
部屋が、静かになった。
「一度目のとき、集めて四人死にました」
「知っている」
「じゃあ」
「昼と夜は違う」
団長さんは、そう言った。
「昼なら散る。夜は散らせん。──暗い中で散らせば、見失った者から死ぬ」
ジャスミンさんは、口を閉じた。
「それに、今日は十九人いる」
その人は、隊のほうを見た。
「三箇所に、それぞれ六人つける。──一度目とは違う」
誰も、何も言わなかった。
しばらくして、ジャスミンさんが頷いた。
「分かりました」
「ジャスミン殿」
「はい」
「あなたの判断は正しかった。三十日、あれで守ってきたのだろう」
「……はい」
「今日だけだ。今日だけ、変える」
その人は、そう言った。
それから、私のほうを見た。
「ナナセ殿」
「はい」
「子どもは、どこだ」
私は、答えた。
「四か所に分けてます。今から集めます」
「何人だ」
「三十九人です」
「全員の名前は」
私は、そこで一度、息を吸った。
「覚えました」




