↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界保育士は異世界で休みたい~戦力外の私ですが、子守唄で騎士団を救っているようです~  作者: 蜜豆
第4章「持っていくもの」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/87

第一節

 四つだけで、もう一度行った。


 団長さんは、紙を見なかった。


「聞いている」


「あの、陛下から」


「うむ。──四つで来たな」


「はい」


「五つ目は」


「持ってます」


 私は、そう答えた。


「捨てられてないです。でも、理由にはしないです」


 その人は、しばらく私を見た。

 見て、それから、机の上の名簿を引き寄せた。


「十九名にする」


 それだけだった。

 私は、頭を下げた。下げてから、聞いた。


「あの、条件はありますか」


「ある」


「はい」


「三つだ」


 その人は、指を折った。


「一つ。道中、あなたは列の後ろから三番目を歩く。前でも最後尾でもない。──遅れたときに、前後が気づく位置だ」


「はい」


「二つ。村に着いたら、壁の外へ出るな。去年と同じだ」


「はい」


「三つ」


 その人は、そこで少し間を置いた。


「歌うな」


 私は、顔を上げた。


「え」


「出ないのは知っている。出ないものを、無理に出そうとするなという話だ」


「あの」


「切羽詰まれば、あなたは歌う。歌おうとして、出なくて、それでも続ける。──去年、門の内側でそうだった」


 その通りだった。


「今度は喉が壊れる」


「はい」


「歌わずに、四つでやれ。それが条件だ」


 私は、頷いた。

 頷いてから、少し考えて、言った。


「守れなかったら、どうなりますか」


「守れ」


 それだけ言われた。


 出発まで、六日あった。

 準備は、去年と同じところから始めた。


 布。二十本。腕に巻ける長さで、細く切る。赤と黄色に染める。ヴィムさんに頼んだら、去年より濃い色を分けてくれた。


 拍子木。二つ削って、紐で結ぶ。去年のは残っていたけれど、紐が傷んでいたので替えた。


 飴。厨房で砂糖をもらった。今回は五掴みだった。頼んだ量ではない。イルゼさんが決めた。


 三日目に、ティアが手伝いに来た。


「みおり、なにしてるの」


「布、切ってます」


「わたしも」


「危ないから、押さえるほうをお願いします」


 その子は布の端を押さえた。押さえ方が真剣だった。

 二十本切って、並べた。

 ティアが、それを見た。


「みおり」


「はい」


「これ、なんでにしょくなの」


「二人組になるので。同じ色の人と組んで、離れないようにするんです」


「ふうん」


 その子は、赤い布を一本取った。

 取って、しばらく見て、それから言った。


「これ、よるはみえないよ」


 私は、手を止めた。


「え」


「あかいの。よる、くろくみえる」


 その子は、そう言った。


「きいろも、みえるけど、あかは、みえない」


 私は、布を見た。


 赤と黄色。去年、私が選んだ。日中に見やすい色を選んだつもりだった。

 夜のことを、考えていなかった。


 去年の南の村では、夜に動かなかった。日が落ちる前に門が閉まって、その中にいた。


 今回は、六日歩く。野営がある。


「ティア様」


「なに」


「なんで分かったんですか」


「よる、みたから」


「見た?」


「かあさまの、あかいふく。よる、くろかった」


 その子は、あっさり言った。


 私は、その布をしばらく持っていた。

 持って、それから、聞いた。


「じゃあ、夜に見える色って、何ですか」


「しろ」


 即答された。


「しろは、よるもしろい」


 次の日、白い布を分けてもらった。

 染めていないやつだった。厨房で使う晒しの端切れで、細く裂ける。


 赤と黄色を十本ずつに減らして、白を十本足した。三色にすると組が分かりにくくなるので、白は別の使い方にした。


 十九人で二人組を作ると、九組と、一人余る。組は九つ。赤が九本、黄が九本あればいい。

 一本ずつ余る。


 去年は二十八本作って、二十八人でちょうどだった。ちょうどにならないのが、少し落ち着かなかった。


 余った二本は、袋に入れた。切れたときの替えにする。

 腕ではなく、荷に結ぶ。夜に置いた荷を見つけるため。


 それから、もう一つ思いついた。


 子どもに巻く。

 村に着いたら、四十一人いる。夜に動くことになったら、白い布を巻いた子から順に運ぶ。

 考えて、それを紙に書いた。書いてから、線を引いて消した。


 順番をつけると、後ろの子が後回しになる。


 消してから、しばらく考えた。


 考えて、別の書き方にした。全員に巻く。順番はつけない。夜に、誰がどこにいるか見えるようにするだけ。


 四十一本。

 足りるかどうか分からなかったので、厨房でもう一度もらった。


 五日目に、シリルさんが来た。

 城の中庭で、荷を仕分けているところへ来た。蝋板を持っていた。


「ナナセ殿」


「あ、はい」


「計算が出ました」


「え」


「道中の会話量をゼロにした場合です」


 その人は、蝋板を開いた。


「五日目まで、掠れません」


 私は、顔を上げた。


「五日」


 私は、指を折った。

 出発が一日目。村に着くのが六日目。

 五日目まで掠れないなら、着いた日には掠れている。


「あの」


「はい」


「着くの、六日目です」


「そうです」


 その人は、否定しなかった。


「五日目までしか、計算できません。六日目のことは、私には分かりません」


「はい」


「ただし、条件が三つあります」


 この人も三つだった。


「一つ。道中、一言も喋らない。挨拶も返事もしない」


「あの、それは」


「無理でしょう」


 あっさり言われた。


「二つ。水を、一日に六回飲む。決まった間隔で。喉を乾かさないためです」


「はい」


「三つ。夜、口を閉じて寝る。開けて寝ると乾きます」


「それ、どうやって」


「布を巻きます」


 その人は、蝋板から一枚、紙を出した。

 顎から頭の上へ巻く形が描いてあった。絵が下手だった。


「あの、これ」


「私が描きました」


「はい」


「下手ですが、伝わりますか」


「伝わります」


 私は、そう答えた。

 答えてから、少し笑った。


「なぜ笑うのですか」


「あの、私と同じことしてます」


 その人は、少し止まった。


「──そうですね」


 言って、その人も、口の端を少し動かした。


「ナナセ殿」


「はい」


「一つだけ、申し上げます」


「はい」


「五日目まで掠れない、という計算は、あなたが無理をしない場合の数字です」


「はい」


「無理をした場合は、計算していません」


 その人は、蝋板を閉じた。


「計算できないからです。あなたが、どこまで無理をするか、私には分からない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。