第一節
四つだけで、もう一度行った。
団長さんは、紙を見なかった。
「聞いている」
「あの、陛下から」
「うむ。──四つで来たな」
「はい」
「五つ目は」
「持ってます」
私は、そう答えた。
「捨てられてないです。でも、理由にはしないです」
その人は、しばらく私を見た。
見て、それから、机の上の名簿を引き寄せた。
「十九名にする」
それだけだった。
私は、頭を下げた。下げてから、聞いた。
「あの、条件はありますか」
「ある」
「はい」
「三つだ」
その人は、指を折った。
「一つ。道中、あなたは列の後ろから三番目を歩く。前でも最後尾でもない。──遅れたときに、前後が気づく位置だ」
「はい」
「二つ。村に着いたら、壁の外へ出るな。去年と同じだ」
「はい」
「三つ」
その人は、そこで少し間を置いた。
「歌うな」
私は、顔を上げた。
「え」
「出ないのは知っている。出ないものを、無理に出そうとするなという話だ」
「あの」
「切羽詰まれば、あなたは歌う。歌おうとして、出なくて、それでも続ける。──去年、門の内側でそうだった」
その通りだった。
「今度は喉が壊れる」
「はい」
「歌わずに、四つでやれ。それが条件だ」
私は、頷いた。
頷いてから、少し考えて、言った。
「守れなかったら、どうなりますか」
「守れ」
それだけ言われた。
出発まで、六日あった。
準備は、去年と同じところから始めた。
布。二十本。腕に巻ける長さで、細く切る。赤と黄色に染める。ヴィムさんに頼んだら、去年より濃い色を分けてくれた。
拍子木。二つ削って、紐で結ぶ。去年のは残っていたけれど、紐が傷んでいたので替えた。
飴。厨房で砂糖をもらった。今回は五掴みだった。頼んだ量ではない。イルゼさんが決めた。
三日目に、ティアが手伝いに来た。
「みおり、なにしてるの」
「布、切ってます」
「わたしも」
「危ないから、押さえるほうをお願いします」
その子は布の端を押さえた。押さえ方が真剣だった。
二十本切って、並べた。
ティアが、それを見た。
「みおり」
「はい」
「これ、なんでにしょくなの」
「二人組になるので。同じ色の人と組んで、離れないようにするんです」
「ふうん」
その子は、赤い布を一本取った。
取って、しばらく見て、それから言った。
「これ、よるはみえないよ」
私は、手を止めた。
「え」
「あかいの。よる、くろくみえる」
その子は、そう言った。
「きいろも、みえるけど、あかは、みえない」
私は、布を見た。
赤と黄色。去年、私が選んだ。日中に見やすい色を選んだつもりだった。
夜のことを、考えていなかった。
去年の南の村では、夜に動かなかった。日が落ちる前に門が閉まって、その中にいた。
今回は、六日歩く。野営がある。
「ティア様」
「なに」
「なんで分かったんですか」
「よる、みたから」
「見た?」
「かあさまの、あかいふく。よる、くろかった」
その子は、あっさり言った。
私は、その布をしばらく持っていた。
持って、それから、聞いた。
「じゃあ、夜に見える色って、何ですか」
「しろ」
即答された。
「しろは、よるもしろい」
次の日、白い布を分けてもらった。
染めていないやつだった。厨房で使う晒しの端切れで、細く裂ける。
赤と黄色を十本ずつに減らして、白を十本足した。三色にすると組が分かりにくくなるので、白は別の使い方にした。
十九人で二人組を作ると、九組と、一人余る。組は九つ。赤が九本、黄が九本あればいい。
一本ずつ余る。
去年は二十八本作って、二十八人でちょうどだった。ちょうどにならないのが、少し落ち着かなかった。
余った二本は、袋に入れた。切れたときの替えにする。
腕ではなく、荷に結ぶ。夜に置いた荷を見つけるため。
それから、もう一つ思いついた。
子どもに巻く。
村に着いたら、四十一人いる。夜に動くことになったら、白い布を巻いた子から順に運ぶ。
考えて、それを紙に書いた。書いてから、線を引いて消した。
順番をつけると、後ろの子が後回しになる。
消してから、しばらく考えた。
考えて、別の書き方にした。全員に巻く。順番はつけない。夜に、誰がどこにいるか見えるようにするだけ。
四十一本。
足りるかどうか分からなかったので、厨房でもう一度もらった。
五日目に、シリルさんが来た。
城の中庭で、荷を仕分けているところへ来た。蝋板を持っていた。
「ナナセ殿」
「あ、はい」
「計算が出ました」
「え」
「道中の会話量をゼロにした場合です」
その人は、蝋板を開いた。
「五日目まで、掠れません」
私は、顔を上げた。
「五日」
私は、指を折った。
出発が一日目。村に着くのが六日目。
五日目まで掠れないなら、着いた日には掠れている。
「あの」
「はい」
「着くの、六日目です」
「そうです」
その人は、否定しなかった。
「五日目までしか、計算できません。六日目のことは、私には分かりません」
「はい」
「ただし、条件が三つあります」
この人も三つだった。
「一つ。道中、一言も喋らない。挨拶も返事もしない」
「あの、それは」
「無理でしょう」
あっさり言われた。
「二つ。水を、一日に六回飲む。決まった間隔で。喉を乾かさないためです」
「はい」
「三つ。夜、口を閉じて寝る。開けて寝ると乾きます」
「それ、どうやって」
「布を巻きます」
その人は、蝋板から一枚、紙を出した。
顎から頭の上へ巻く形が描いてあった。絵が下手だった。
「あの、これ」
「私が描きました」
「はい」
「下手ですが、伝わりますか」
「伝わります」
私は、そう答えた。
答えてから、少し笑った。
「なぜ笑うのですか」
「あの、私と同じことしてます」
その人は、少し止まった。
「──そうですね」
言って、その人も、口の端を少し動かした。
「ナナセ殿」
「はい」
「一つだけ、申し上げます」
「はい」
「五日目まで掠れない、という計算は、あなたが無理をしない場合の数字です」
「はい」
「無理をした場合は、計算していません」
その人は、蝋板を閉じた。
「計算できないからです。あなたが、どこまで無理をするか、私には分からない」




