↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の時詠みは、過保護な魔導軍師を守りたい  作者: 凪砂 いる
第四章 私は白妖ではない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/36

27.守られるだけではない

 怯んだと思った監察官が私を冷徹な目で見据える。


「……それでは、追加聴取のため我々と同行していただきます。ソルデヴィア解析官」


 アネルが制止する。


「ティルア……ソルデヴィア解析官本人は拒否している」

「ブリューム局長。なにをおっしゃいますか。――()()()()()()()()()では、必要に応じて対象者の身柄を確保できます」


 そう言って、先頭にいる黒い外套の男が、腰に装着した拘束具に手をかける。

 アネルは男たちを睨みつけ、周囲に白い魔力の靄が立ち始める。


 「局長!」「今は――!」と周囲にいた戦略局の職員が口々にざわめく。

 今使えば、危険な時詠みを匿う魔導軍戦略局長が監察局執行班へ武力抵抗という餌を渡してしまう。監察局の思う壺ではないか。


 ――今は、だめ!


「アネル」


 私の声は、彼に届かない。


「彼女に……触れるな……!」


 私は、震えるアネルの手を取る。


「アネル。……私を、見てください。ここで戦ったら、あなたまで『危険』だと言われます」

「……だからといって、君を渡せと?」


 私は静かに首を振り、アネルの目を見る。


「違います。――渡されません。私が、止めます」


 私は、一歩前に出て、黒い外套を着た執行班の男を見据える。


「その書類を、見せてください」


 男は私を一瞥し、吐き捨てる。


「……対象者に確認権限はありません」


 アネルがずいっと前に出て、低い声を落とす。


「――見せてもらおうか。私には権限があるだろう」


 少し怯んだ表情の男がおずおずと書類を渡す。

 書類を見るとひと目で違和感に気がつくものだった。


 まず、昨日の記録を確認する。

 【執行命令発行:十三時四十二分】

 【緊急時術危険指定 暫定:十四時三分】


「……これ、おかしいです」


 アネルが書類を凝視する。

 

「何がだ?」

「この人たちが私を捕らえる準備をした時間です。それに――危険指定より、執行命令のほうが先に出ています」


 村を焼かれた時と同じだ。対処することを決めてから後付で理由が作られている。

 私を捕らえるつもりで動いていた。そういうことだろう。


 アネルがこほんと咳をし、低く告げる。


「第三者に確認を要求する――警備局を呼ぶ」


 彼は、連絡水晶を手にし、誰かと話している。

 しばらくし、現れたのは――ヘルツェル局長だった。


 アネルが書類を渡す。


「……ヘルツェル。それを見てくれ」


 ヘルツェル局長が書類を受け取り、一句一句確認していく。

 彼は首を振って、黒い外套の男たちに告げる。


「……こりゃ駄目だな」


 黒い外套の男は、不敵な笑みを浮かべる。


「何がです?」


 ヘルツェル局長は書類を指さしながら、答える。


「執行命令の発行が、危険指定より二十一分早い。少なくとも、この命令書だけじゃ嬢ちゃんを連れては行けん」


 黒い外套の執行官がたじろぐ。


「こ、これは事務処理上の――」


 私は、一歩前に出る。


「では、その二十一分の理由を説明してください」


 執行官が、再び拘束具に手を伸ばす。

 警備局長の前でも、強制手段に出るつもりらしい。


 アネルが、さっと私の前に出ようとするも、私は引かない。

 私は差し出された拘束具から腕を引いた。

 身体がガタガタと震えている。

 しかし、ここで引くわけにはいかない。


「私は逃げません。聴取にも応じます」

「では同行を」

「ただし、時律監察局だけの閉鎖された場所では応じません」


 私はすぅっと息を吸い、続ける。


「第三者のいる、公の場所で話します」


 アネルと、ヘルツェル局長が私を見る。


「中央魔導院、警備局、司法局、戦略局、そして監察局。すべてが記録を確認できる場所で話したいです」


――閉じた場所ではなく、すべて記録される場所で……引きずり出す。


 拘束具をしまった執行官が負け惜しみのように静かに言い放つ。


「公開審理の申請について、監察局へ報告します」


 去り際に、先頭にいた黒い外套の男が耳元で囁く。


「……後悔しますよ? ティルア・ソルデヴィア……」


 私は首を振る。


「……それも、私は選んだことですから」


 局長室へ戻ると、膝が急に震え、崩れ落ちそうになった。

 アネルが、肩を支える。


「怖かったか?」

「……ええ、ものすごく」


 アネルの手を見ると、まだ強く拳が硬く握られている。


「……アネルも、怖かったんですか?」


 アネルが静かに黙り、ぽつりと声を落とす。


「君を……連れて行かれるかと思った」


 怖かったのは、私だけじゃない。

 アネルも、私と同じように――怖かったのだ。


「……私は、あなたに守ってもらってばかりですね」


 アネルがこちらを見て口を開こうとする。


「でも……今日は、少しくらい、私もアネルを守れましたか?」


 アネルの手がほどけ、彼がふっとわずかに笑みをこぼす。


「……ああ。助かった」


 私たちの顔を、窓からの夕日が静かに照らしていた。


 夜、静かな部屋にピコンと連絡水晶の通知が鳴る。

 それを見て身体が一瞬強張るが、私はそれを見据えた。


 【ティルア・ソルデヴィア解析官に対する緊急時術危険指定の妥当性、ならびに中央広場異常事案について、合同公開審理を実施する】


 期日は――明後日。


 出席者は中央魔導院、戦略局を含む魔導軍、警備局、時律監察局。そして――監察局長ヴァルド・セレク。


 怖いが、こちらにも積み上げた証拠がある。

 私は、手元の解析帳に記した証拠の数々を並べた。


 《災害より先に存在した鎮圧作戦》

 《生存者なし》

 《特異時術保持者・回収記録欠落》

 《侵入時の監視術式》

 《偽装された魔力波形》

 《危険指定前に発令された執行命令》


 しかし、ここまで証拠を積み上げてもなお、私にはわからないことがある。


――なぜ、エオネ族は消されなければならなかったのか。


 村を焼かれ、家族や友人、村の皆を殺された理由。


「……今度は、私が聞く番です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。