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最後の時詠みは、過保護な魔導軍師を守りたい  作者: 凪砂 いる
第三章 あなたのいない未来

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18/21

18.あなたに触れる理由

 次の日、私は局長室のアネルの机の上で、どうしてあの時、ふたりの魔力が重なったのか調べていた。

 水晶板の前でアネルが眉間に手をやる。

 

「毎回共鳴するわけではない、か……」


 アネルの机の上には、水晶板の他に、たくさんの検証記録が積み上げられている。

 私は、そのうちの一枚をひらりと取り、自分の解析帳と照らし合わせた。


「……確かに、毎回共鳴しているわけでは、なさそうです」

「なら、距離、魔力量、発動時間、対象……一つずつ検証していくしか、なさそうだ」


 私は、再度、解析帳に視線を落とす。


「では、私は時詠み側の記録を取ります」


 アネルが顔を上げ、私をじっと見る。


「体調記録もだ」

「そこまで、ですか?」

「……そこが最重要項目だ」


 彼の耳が、ほんのり赤いのは気のせいだろうか。


 私たちは、今日も魔導訓練室へ行き、どうやったら昨日の共鳴が再現できるのかを試していた。


「まずは、距離から調べよう。ティルア、少し離れてくれ」


 アネルの声に、私は、彼から三歩分くらいの距離を取る。

 昨日と同じ手順でアネルが魔法陣を出し、私が時を詠む。

 私の時詠みが発する淡い青色の光に、アネルの白い刃のような光が乗らない。


 少し近づき、同じように試す。

 なんだか、噛み合わない。


 私がアネルの隣へ戻った時、ぽうっと一瞬だけ何かが流れ込むような反応があった。


「そういえば……最初に共鳴したとき、アネルの魔力が、私の時詠みに触れました」

「では、魔力そのものを接続すれば――」


 と言いかけ、アネルは少し考えるように黙り込む。

 訓練室はしんとしているというのに、私の胸が変な音を立てている。


「ティルア。……手を出してくれ」


 アネルが、下を向き声を落とした。


「手?」

「私から魔力を直接流す。……嫌なら、別の方法を考える」


 私の心臓が、さらに変なリズムの音を立てる。


「嫌では……ありません」


 アネルの手のひらが、私のものに重なる。

 あたたかい。

 ただ、魔力を繋いでいるだけなのに、昨日とは違う意味で心臓が落ち着かない。


「……この状態で、やってみます」


 私の言葉に、アネルが白い魔法陣を出す。


 ――三秒後、左。


 その時、私の言葉より早く彼の白い刃が走る。


「左」


 アネルが声を落とす。

 そして、また、白い魔法陣を出し、試す。


 ――三秒後、右。

『右』


 アネルの言葉が私の中へ入ってきた。

 もしかして、私からアネルへ伝わっているだけではない。

 アネルの術式も、私へ流れ込んできている?


「私が未来を渡しているだけじゃない」


 アネルが頷く。


「ああ。私の術式情報も、ティルア。君へ流れている……連環(レゾナンス)


 アネルが繰り返すように呟く。


「……時と解式が、互いを繋いでいるのか」


 私はその言葉に、心臓が跳ねた気がした。

 しばらく、訓練室に外からのざわめきがわずかに漏れ聞こえるだけだった。


 今度は、アネルの手を離し、同じことができないか試す――噛み合わない。


「アネル、接触が必要なのでしょうか」

「……現時点では、その可能性が高い」


 心臓の音が、さらに響いている。

 私は俯き、口を開くことができなかった。


 その時、私の魔力測定環が黄色に淡く光った。


「……アネル。黄色です」


 アネルがこちらを見る。私は、彼の目を見る。


「――今日は、ここまでにします」


 彼の眉が、驚いたと言いたげにぴくりと動く。


「……そうか」

「何か、ありましたか?」

「いや、ちゃんと君自身も人数に入っていると思っただけだ」


 何かあったときには立ち止まる。どちらかを犠牲にはしない。


 訓練室を出ると、窓の光がわずかに橙色を帯びていた。


「ティルア、遅くなったが……食堂へ行こう」


 私はこくりと頷き、アネルの後をついていく。

 食堂で、いつもの席につくと、配膳魔導具が軽い食事と温かいお茶を運んできた。


 手のひらをじっと見つめる。

 さっきまで、アネルの熱があった。


「どうした?」


 私はふるふると首を振る。


「……何でもありません」


 アネルが、私の目の前に甘い焼き菓子を差し出す。


「魔力を使った。糖分を取れ」

「支給品?」

「そうだ」

「最近……支給品が増えている気がします」


 彼が照れるように窓の外を向く。


「気のせいだ」


 彼の耳が、夕日に照らされているせいか、赤く染まっていた。


 局長室に戻り、私は記録をまとめる。


 【共鳴条件】

 魔力接続時に安定。

 距離が離れると不安定。

 双方向に情報伝達の可能性あり。


 そこまで書いて、私の手が止まる。


 ――アネルに触れた時、時詠みと関係のないところまで、何か伝わったような気がした。


 私はペンを置く。

 これは、研究記録には必要のないことだと思った。


 私と入れ違うように、ユスティンさんが入ってきた。

 背後から、ふたりの話す声がする。


「局長ー、今日の報告です」

「……置いておいてくれ」

「さっきから右手、ずっと見てますけど」

「気のせいだ」


 私は、ふっと笑い、聞かないふりをしていた。

 右手に残る熱と、アネルの態度に不思議と胸の奥があたたかくなる。

 その理由が、少しだけわかってきた気がした。


 後ろで、ユスティンさんがからかう声と、アネルが「……わかったからもう帰れ!」と話している。

 アネルも、私と同じように右手に何か感じていたのだろうか。

 それはまだ、わからない。

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