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REWRITE ― 八人目の主人公 ―  作者: H.F
第一章 八人目

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第三話 記録者

熱い。


右手が焼けるように熱かった。


カイは思わず膝をつく。


袖の下で、右手が淡く光っている。


いや。


光っているのではない。


皮膚の奥で、何かが動いていた。


生き物のように。


文字のように。


「……アルカが目覚めた」


勇者が静かに呟く。


剣聖は眉一つ動かさない。


「ならば、なおさら今ここで終わらせる」


再び大剣を構える。


しかし、その足は動かなかった。


いや、動けなかった。


神殿中の空気が止まっていた。


風も。


砂埃も。


砕けた石も。


空中で静止している。


「これは……」


カイだけが動けた。


勇者も。


剣聖も。


誰も動けない世界で、ただ一人。


祭壇の上の古い本だけが、静かにページをめくる。


パラ……


パラ……


その音だけが響く。


本の隣に、一人の老人が立っていた。


いつ現れたのか、誰にも分からない。


灰色の外套。


長い白髪。


左手には羽根ペン。


右手には古びた鍵。


老人は本を閉じる。


その瞬間、止まっていた時間が戻った。


「ぐっ……!」


剣聖が一歩よろめく。


勇者が剣を下ろす。


老人は穏やかな目でカイを見た。


「初めまして……ではないな」


「え……?」


「お前は忘れておる」


老人は少しだけ笑う。


「それでいい」


勇者が老人へ向き直る。


「記録者」


その呼び名に、老人は肩をすくめた。


「まだそう呼ぶ者がおったか」


「なぜ現れた」


「物語が動いたからじゃ」


剣聖が低く言う。


「そいつを渡せ」


「断る」


「世界が壊れる」


老人は首を横に振った。


「違う」


静かな声だった。


「世界は壊れたのではない」


「……」


「ようやく正しい物語へ戻ろうとしておる」


神殿が静まり返る。


誰も、その意味を理解できない。


勇者だけが目を閉じた。


まるで、その言葉を知っていたかのように。


老人はカイへ歩み寄る。


「坊や」


「はい」


「お前は、自分のアルカを見たことがあるか」


「ありません」


「当然じゃ」


老人は右手を差し出す。


「貸してみなさい」


カイは恐る恐る手を伸ばく。


老人の指先が触れた瞬間、右手の熱が消えた。


代わりに、黒い文字が浮かび上がる。


誰にも読めない。


勇者も。


神官も。


剣聖も。


全員が初めて見る文字だった。


老人だけが目を見開く。


「……そうか」


その顔から笑みが消えた。


「やはり、お前だったか」


「何なんですか、この文字は」


老人は答えない。


静かに、本を開く。


白紙だった。


一ページ目。


二ページ目。


三ページ目。


すべて白紙。


しかし最後のページだけ、一文だけ書かれていた。


『書き換える者が現れた時、図書館の扉は再び開く』


カイが息をのむ。


「図書館……?」


老人は本を閉じた。


「この世界で、一番危険な場所じゃ」


「そこへ行けば分かるんですか」


「お前が何者なのか」


老人は頷く。


「そして」


少しだけ寂しそうに笑う。


「この世界が、なぜ間違ったのかも」


その瞬間。


空の亀裂が大きく広がった。


黒い裂け目の向こう。


ほんの一瞬だけ。


巨大な本棚が見えた。


空を埋め尽くすほど巨大な、本棚。


次の瞬間には消えていた。


誰も言葉を発しない。


いや。


言葉を失っていた。


老人は鍵をカイへ渡す。


銀色の、小さな鍵だった。


持ち手には、見たことのない紋章。


「これは……?」


「図書館の鍵じゃ」


「そんなものを僕に?」


老人は静かに頷く。


「いや」


「これは最初から、お前のものだった」


その言葉を聞いた瞬間。


剣聖が初めて焦った表情を見せた。


「記録者ッ!」


老人は振り返らない。


「遅かったな」


次の瞬間。


老人の身体が、無数の紙片となって風へ溶けていく。


一枚。


また一枚。


まるで、一冊の本が燃え尽きるように。


消えゆく老人は、最後にカイだけを見つめた。


「探せ」


その声は優しかった。


「世界の終わりではない」


「世界の始まりを」


紙片が舞う。


神殿の中を白い雪のように漂い、やがて静かに消えていった。


誰も動けない。


誰も話せない。


ただ一人。


カイだけが銀色の鍵を握り締めていた。


そして、誰にも聞こえない声が右手から響く。


――ようやく、見つけた。

作品を作るのは初めてで素人ですので、温かい目で読んで頂けると嬉しいです。

そして

もし物語を読んで頂きご意見、ご感想頂けると幸いです。

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