表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REWRITE ― 八人目の主人公 ―  作者: H.F
第一章 八人目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

第四話 旅立ち

神殿には、静寂だけが残っていた。


記録者が消えたあとも、白い紙片だけがゆっくりと舞い落ちている。


誰も拾おうとはしなかった。


拾ってはいけないものを前にしたように。


勇者は剣を鞘へ納める。


剣聖はなおもカイを見据えていた。


「今なら、まだ間に合う」


低く呟く。


「その子を渡せ」


勇者は首を横に振る。


「記録者が鍵を託した」


「だからだ」


剣聖の目には迷いがなかった。


「鍵が動いた以上、図書館も動き始める」


その言葉を聞いた村人たちは意味も分からず震えた。


図書館。


その名を知る者など、この村には誰一人いない。


それなのに、その響きだけで胸がざわつく。


まるで、生まれる前から知っていた言葉のように。


勇者はカイへ歩み寄る。


「君は、ここを離れた方がいい」


「どうしてですか」


「この村はもう安全じゃない」


「僕がいるから?」


勇者は答えなかった。


それが答えだった。


カイは振り返る。


母が泣いていた。


親方は何か言おうとして、何も言えない。


ミーナだけが状況を理解できず、不安そうに立ち尽くしている。


いつもと同じ村。


昨日まで笑い声が響いていた村。


その景色が、急に遠く感じた。


母がゆっくり近づく。


震える手で、カイの頬に触れる。


「……ごめんね」


「どうして謝るの」


「もっと普通の人生を歩ませてあげたかった」


その言葉に、カイは首を振った。


「まだ何も決まってないよ」


笑おうとした。


でも、笑えなかった。


母は小さな袋を差し出す。


「これだけは持っていきなさい」


中には硬貨が数枚と、古びた方位磁針。


そして、一冊の小さな手帳。


「父さんの?」


母は静かに頷いた。


「いつか渡そうと思っていたの」


カイは手帳を開こうとする。


しかし、一ページ目は開かなかった。


糸で閉じられているわけでもない。


鍵が掛かっているわけでもない。


ただ、開かない。


「……?」


何度力を入れても同じだった。


その時だった。


カイの右手が、かすかに熱を帯びる。


握っていた銀色の鍵が、淡く光った。


カチリ。


小さな音が響く。


誰も触れていない手帳が、ひとりでに一ページだけ開いた。


そこには短く、一文だけ書かれていた。


『北へ向かえ』


それだけだった。


地図もない。


理由もない。


たった四文字。


勇者の表情が変わる。


「……始まった」


剣聖も、その文字を見て剣を握り直す。


「記録では、その手帳は白紙のはずだ」


母は驚き、首を振る。


「私も……見たことがありません」


カイはもう一度ページをめくろうとする。


しかし、紙は動かない。


最初の一ページだけ。


それ以外は、すべて白紙だった。


勇者は静かに言う。


「君のお父さんは、何をしていた人だ」


「知りません」


「旅人だったとしか聞いていません」


勇者はそれ以上聞かなかった。


いや、聞けなかった。


どこかで、その答えを知っているような顔だった。


神殿の外へ出る。


夕暮れが村を赤く染めていた。


いつもと変わらない景色。


それなのに、風だけが止んでいる。


鳥も鳴かない。


虫の声もしない。


世界が、耳を澄ませている。


カイは最後に一度だけ村を振り返った。


生まれ育った家。


畑。


大樹。


笑っていた人たち。


もう二度と戻れない気がした。


その時。


足元に、一枚の紙が舞い落ちる。


記録者が消えた時の紙片だった。


何気なく拾い上げる。


そこには、たった一文字だけ記されていた。


誰にも読めない文字。


けれど、不思議と意味だけは分かる。


「始まり」


風が吹く。


紙は白くほどけ、光になって消えた。


カイは何も言わず、北へ向かって歩き出す。


その背中を、誰も引き止めなかった。


ただ一人。


勇者だけが、小さく呟く。


「今度こそ……間に合ってくれ」


その言葉は、誰にも届かない。


空には、あの黒い亀裂が、昨日より少しだけ大きくなっていた。

作品を作るのは初めてで素人ですので、温かい目で読んで頂けると嬉しいです。

そして

もし物語を読んで頂きご意見、ご感想頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ