11−10. マーシア王国立太子式
ギルバートの立太子式の当日、アンジェリーナの元にスチュアート・モントローズがやって来た。
「久しぶりに我が愛しの君のご尊顔を拝する事が出来て嬉しいよ」
「普段は見飽きているという訳?」
「そんな事はない」
スチュアートは今日のスケジュールを説明した。
「10時から国教会大主教による祝福その他の本行事が行われる。そこは貴賓として見ていてもらうが、午後にはお披露目パーティが行われる。そこで兄ギルバートと父ヴィンセントと話をしてもらう」
「まぁ、現状では談笑する程度でしょうね」
「そうだな、政策論議が必用なら次の機会に依頼するとの事だ」
立太子式では王と王妃は温度の無い顔をして並んでいた。二人の視線はそれでも式の舞台を見ていた。侍従長の読み上げる式次第に沿って、式は進んで行った。国教大主教の祝福の祝詞の後、大主教が王太子の冠をギルバートに被せた。
これがメインイベントだったから、出席した貴族一同と各国来賓が拍手で祝福を行った。その後、王太子ギルバートが王宮のバルコニーに姿を現し、集まった群衆に手を振った。こうして王太子ギルバートが正式に決まった。
午後には国王夫妻、そして王太子ギルバートに来賓、各貴族が挨拶をするお披露目パーティが行われた。来賓としては国王がやって来ている場合はそちらが優先された為、アンジェリーナがギルバートに挨拶をしたのは3番目になった。
「お目にかかれて光栄ですわ、国王陛下。皇帝陛下の代理として参りました、皇太子のアンジェリーナです」
「よく参られた。王太子に祝福を伝えて欲しい」
「ええ、もちろんですわ」
王妃と言葉を交わす事はなかった。戦争により王子一人が自害する事になった以上、不要な言葉を交わす事もないと双方考えたからである。それでも双方に険悪な雰囲気は無かった。
「お会いできて光栄ですわ、ギルバート殿下。ウェセックス帝国皇太子のアンジェリーナです。立太子おめでとうございます」
「ご来訪に感謝いたします。遅ればせながら殿下の立太子にも祝福を述べさせていただきます」
何せアンジェリーナのエスコートは王太子ギルバートの弟が行っている。二人の挨拶には和やかな雰囲気が漂っていた。冷たい美貌に涼しい愛想笑いを貼り付けているアンジェリーナだが、エスコートするスチュアートの穏やかな微笑みが空気を和ませていた。
王国貴族の挨拶が続く中、スチュアートはアンジェリーナを父ヴィンセントの下に連れて行った。
「お会いできて光栄ですわ。モントローズ閣下。スチュアート卿には色々お世話になっています」
「お会いできて光栄です。アンジェリーナ殿下。愚息がご迷惑をおかけしていないか心配しております」
二人はにっこりと笑いあった。顔を合わさず、或いは顔を合わせて二つの事件を力を合わせて収束させた間柄だったから、お互い顔を合わせるのを楽しみにしていたのだ。
が、スチュアートがアンジェリーナの左手を軽く叩き、小声で呟いた。
「アンジェ」
「分かっているわ」
直後、70ft離れた木の中間付近で爆発があった。直後、何かが落下する音がした。
「壁の近くの方は壁に身を隠してください!」
「陛下と殿下をお守りしろ!」
警備中の近衛騎士達が国王の周囲を囲み、爆発があった木にも集まって行った。
ヴィンセントとスチュアートとアンジェリーナは顔を寄せて情報を共有した。スチュアートは問うた。
「何をした?」
「フレームランスを打とうとしたので、温度が上がったところで魔法を奪ったのよ」
炎を圧縮して高温化して打ち出すのがフレームランスである。打ち出す前に魔法のコントロールを奪われれば、当然圧縮した炎が膨張・拡散して爆発状になる。自爆という形になる。
「フレームランス…」
ヴィンセントの一言にスチュアートが尋ねた。
「何か思い当たる事でも?」
「……フレドリック殿下が錯乱丸押収の日に襲われた現場で、犯人の口封じをした者が使った魔法がフレームランスだったのだ」
「…犯人は咄嗟に火勢を散らそうとしました。生きてはいませんが、燃え残りで身元が分かるかもしれません」
70ftは離れた犯人の咄嗟の魔法も感知する皇女の魔法感受性に、ヴィンセントも感心した。
王太子のお披露目パーティは中止された。犯人の足取りは、王太子ギルバートと宰相が指揮を取って関係部署に聞き取りを行ったため、隠し様が無かった。
犯人は王家の裏戦力である隠密の一人だった。ダリウス王子の護衛として同学年に貴族学院に入学し、3年間同じクラスで隠れた護衛をしていた者だった。そもそもフレームランスを打てる者は限られている。間違い様が無かった。
今回の事件が誰を襲う目的なのかは誰にも分からなかった為、国王または王太子、あるいは来賓を狙ったものと判断された。ダリウス王子は関与を否定したが、一昨日もダリウスが犯人と会っていた事を侍従が証言した。もうダリウスが次代の王となる事は無い為、証言を躊躇う者はいなかった。
「違う!私は関与していない!罠だ!」
ダリウスは事ある毎にそう叫んだが、自分が王になる為の邪魔者は、例え実の弟でも死ぬ事を望む様な男である。庇う者はいなかった。そして王太子暗殺の可能性もある為、国王ウィグムントはダリウスの幽閉を決定した。
ウィグムント王がちょっと怖い。個人的に。




