11−9. それから
アンジェリーナは皇太子となった。
立太子式は男装で行われた。長いドレスでは式典の一部が困難になる可能性があり、また前例でも女帝の立太子式は男装であった為、そうした。エグバートもアンジェリーナも、共に式典を重視していなかった為、面倒が少ない方を選んだのだ。
慣例では皇太子は皇室領の総督として行政を学ぶ事になっているが、エグバートもアンジェリーナもそうはしなかった。宰相代理として国政に関わる事になったのだ。
レノックス公は首になった(物理的に)。南部は恭順を示した。アンリエッタ妃とは離縁、エゼルウルフは帝室から離籍された。
この段階でエグバート帝は宰相であるスペンサー候を呼んだ。
「お呼びと伺い参上いたしました」
「うむ。そろそろ言わねばお前の方も気が気でないだろうから、言ってやる。領地に帰って余生を過ごすか、首となって埋められるか選べ」
「……何を根拠にその様に仰るのでしょうか?」
「罪状を告げれば罰せねばならぬ。これが最後の温情だ。明日午前中までに宰相を辞して領地に帰る準備を始めるか、明日の午後に斬られて埋められるかを選べ」
「思い当たる事がありません」
「皇女宮で護衛が外れた件だ。お前の責になる」
「私が何故その様な事をすると思われたのですか?理由がございません」
「……それでは、当時皇女宮に務めていた者を全員拷問にかけろと言うのか?当然、家族にも累が及ぶが」
「それでも、私は指示しておりません」
「それでもお前が責任を取る立場であろう?アンリエッタとその子供はお前が守ると約束したのだからな?」
「それでも私は指示しておりません」
エグバートは音を立てて溜息を吐いた。
「あいつを暗殺しようとした者がいた。その者に短剣を与えた侍女がいた。その採用に関わっている者は処分せねばならぬ。明らかにすればな。どうする?」
「何の事か分かりません」
エグバートは最終通告をした。
「分かった。明日の正午まで待つ。一晩考えろ」
もちろん、朝一番にスペンサー候は宰相職に対する辞表を提出した昨晩は眠れなかったのだろう。目の下に隈があった。レノックス公がライサンダーに斬られた場面を想像してしまったのだ。
その後、諜報部の報告に基づき、各省庁の人員は大分整理された。
アンジェリーナは歳出に大ナタを振るった。彼女自身の政策志向がそちらであり、エグバートの望む方向でもあった。国防と治安維持に関わらない多くの許認可権を役人達から奪った。多くの省庁の関連団体を民営化した。そうして帝国予算を大幅縮小し、その分の税金を軽減した。古来、国家財政の再建の為には国の機関を民営化するのが常道だった。
一方、マーシア王国側も国王の退位が迫っており、王太子を決める必要があった。
ヴィンセント・モントローズ公爵とバーナード・ルーズベリー侯爵というウィグムント王の弟二人からの上奏で、二人の長男、ギルバート・モントローズとジェームズ・ルーズベリーを継承権1位と2位として、ギルバートを立太子させる事にした。
これに対し、帝国から『本物の』アンジェリーナが立太子式ごの式典に参加すると連絡があった。
タカ派貴族の騒ぐところだったが、彼等の多くは進退伺を出して、王宮側で検討中だった為、目立った動きが出来なかった。平民街で噂を流そうにも、何せ実力で侵攻部隊を撃退した強力な魔法師だと分かっている。下手に騒いで揉め事になる事を平民達も嫌った。敗戦、というのはそういう事だ。自国の実力を思い知らされたのだ。
スチュアートは帝国に入る時に使ったルートで、先行して王国に戻った。モントローズ公の息のかかった者がここで第一騎士団長となり、アンジェリーナの護衛を経路上に配置した。
侵攻部隊が通った時の対応で、誰がタカ派寄りかは明らかになっている。問題を起こしそうな貴族の領地には騎士団が対応する様に警戒を続けた。それでも、平民でも両国の力関係が分かっているのだから、貴族が血迷う事は無かった。
そうして、問題なくアンジェリーナ一行は王国の王都コヴェントリーに入った。
アンジェリーナの宿泊は、前回エグバート帝が泊った離宮だった。そういう訳で、何かあっても逃走ルートは確保されていた。王宮も離宮も既に調査済みだったから。
日本唯一の女性皇太子は阿倍内親王ですが、『皇太女』ではなく『皇太子』の身分でした。、女性でも皇太子と呼んで良いのであって、無理に皇太女と呼ぶ必用はないので、本作でも皇太子としました。
一方、この帝国では次の次の皇帝は女系皇帝になります。貴族議会の力が弱いから皇帝の意思で女帝が決まるので、当然女帝アンジェリーナも、外敵撃退を行い内乱鎮圧にも寄与している事から、後継者決定に臣下は口を出せないと思われます。




