↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/95

11−7. 王国立太子事情

 マーシア王国の国王ウィグムントの退位はもう決まっている。ところが王家には王子がもう一人しかいなかった。だからウィグムント王としては残りの一人、ダリウス王子を王太子とするしかなかった。


 ダリウス王子の立太子について貴族議会は承認を求められた。その議題が上がった時、真っ先に発言を要求したのはヴィンセント・モントローズ公爵だった。

「ダリウス殿下の立太子の暁には、私は国王を支える立場を辞退させていただく。我が息子もモントローズ公爵を継ぎ、臣下として殿下を支える事はするが、それ以上のお役目は他の方にお願いしたい」


 モントローズ公による『ダリウスの尻拭い役は御免だ』という宣言と皆は受け取った。既定路線としては、ダリウスに意見を言う、その尻拭いをする、そんな役目は亡きフレドリックの仕事になる筈だった。そして、弟の言う事すら聞かない王に従う臣下などいない。フレドリックが見限った時がダリウス退位の時だった。


 そのフレドリック亡き今、ダリウスの立太子を認める者がその結果の責任を取るべきだとモントローズ公は口にした訳だ。


 魔法学院でのアンジェリーナ皇女とフレドリックの悪評がダリウスの卒業と共に収まった事から、その悪評を流していたのはダリウスだと皆が確信していた。己を支える筈の弟すら追い落とそうとするダリウスの下で仕事をやり、その仕事をこなしたからこそ疎まれ死に追いやられる未来が皆には見えていた。だから、ダリウスの尻拭いをしようと言う者はいなかった。


 ダリウス王子の立太子の承認決議は、承認1割、否認8割、棄権1割で否決された。王家、宰相達から提出の貴族議会の承認決議は、7割以上の否認で再提出が不可能になる。これでダリウスの立太子は出来なくなった。


 流石に重大な決議なので、宰相、貴族議会議長、モントローズ公が揃ってウィグムント王に報告に出向いた。


 それは公式な謁見であった。だからその報告内容は書記官が記録していた。否決の結果を聞いたウィグムント王は、ヴィンセント・モントローズに問うた。


「それで、お前の望む様になって嬉しいか?ヴィンセント?」

この慎重な王が公式記録に感情的な発言を残す事は初めてだった。そう言われれば、ヴィンセントも言うべき言葉があった。


「私が望む結果と言うより、当然の結果になったと考えます。そして、この様な結果にしたくないのであれば、なすべき事があったと考えます。陛下、何故フレドリック殿下を切り捨てたのです?」

「勝手に戦争を始められれば、切り捨てる以外に無い」


「その前です。陛下が近衛をお使いになれば、フレドリック殿下の出征を止める事は出来たと考えます。そして更に前、あのフレドリック殿下が陛下に相談しないで行動を起こすとは考えられません。なぜ、出征に関わる相談の時に、殿下を止めていただけなかったのですか?」

「出征の相談など受けていない。そして、フレドリックには勝手な行動は当然自分で責任を取る必要があると言ってあった。だから、当然の結果として切り捨てる事になったのだ」


 宰相も貴族議会議長も、王よりヴィンセントの方がフレドリックを思って感情的になっている様に見えた。そして、彼等の言葉は公式記録に残されていった。


「フレドリック殿下がいなければ、ダリウス殿下を誰が支えると言うのです?」

「どちらにせよ、ダリウスとフレドリックの不仲は隠せぬものだった。では、フレドリックが立太子したとして、誰が支えたと思うか、ヴィンセントよ」


 錯乱丸事件の際、フレドリックはスチュアートと口論になった。モントローズ家の長男はモントローズ家を継ぐ。そうなると次にウィグムント王に近い血の青年はスチュアートになる。フレドリックもスチュアートと仲が良いとは言えなかった。


「それはいい。だが、こうなれば、誰を立太子させるのか?スチュアートか?」

ヴィンセントは答えた。

「スチュアートは既に仕える主人を得ております。王にはなりません。我が子ギルバートを太子として推します」


「ギルバートも良いが…スチュアートが仕えるのは皇帝か?」

「皇帝など。彼女はもっと慈悲深い」

ウィグムント王から見て、皇帝にスチュアートが仕えるのはもったいないと考えていた。『彼女』が慈悲深いなら、少し年上のスチュアートが仕える意味もあると納得した。


「分かった。では、ギルバートは誰が支えるか?」

「口頭ですが、バーナードに打診しました。その子息に依頼したいと考えます」

「その線で進めよ。異論は無い」


 謁見室を出た宰相がヴィンセントに話しかけた。

「陛下が記録中に感情を現されるのは初めて拝見しましたので驚きました」

ヴィンセントは溜息を吐いてから答えた。

「兄上は…とっくにダリウス殿下もフレドリック殿下も見限られていたのではなかろうか。だからダリウス殿下を否定する記録を残したかったのではないか」

「……しかし、フレドリック殿下を見限ったからと言って、死に追いやる必用は無かったのでは?」

「我々はフレドリック殿下の、人の言葉を聞き入れる点を長所と考えていた。一方、その結果、相手の使嗾に乗ってしまった。それをもって兄上はフレドリック殿下への否定を明示したのではないか」


「しかし、陛下もフレドリック殿下の処分はお迷いと見受けられましたが…」

「多分、フレドリック殿下を惜しんだのではない。フレドリック殿下の後を追うロジアン候を惜しんだのだ」


 宰相も貴族議会議長も言葉がなかった。確かに、決断力も実行力もある前ロジアン侯爵はフレドリックより有用な人物ではあった。ウィグムント王ならそんな正確な人物評価に基づき、冷徹に行動しかねない、そう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。