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11−6, 偽アンジェリーナの断罪 (2)

 そうは言われても、アンナとしては死刑を覚悟してこの場に来た為、闇落ちを治してもらったところで意味を感じなかった。

「でも、私の罪は…」

「あなたをレノックス公に売ったモートン伯は、あなたを除籍する事で罪から逃がれようとしているわ。ただ売られて、言われるがままに振舞っていたあなたの方は極刑って、それじゃおかしいでしょ」


「でも、皇女様を殺そうとしたし…」

「それは餌よ。一匹ネズミが見つかっていないから、罠をしかけたの。毒を塗った短剣を使おうが、聖魔法を使おうが、あなたでは私を殺せないのが分かっていたから、好きにさせたのよ」

アンナはどんな顔をして良いか分からなかった。


「元モートン家のアンナ、あなたは一人の人間の名前と立場を奪った。その罪に等しい罰を与えます。モートン家から除籍されたアンナの名は帝国市民の名簿からも削除されます。以後はナナと名乗りなさい。他人を詐称した期間と同じ1年間は教会に所属し、毎日一人以上病人・怪我人を治す事。教会なので休息日の休みは認めます。それが終わったら寄る辺なきナナとして生き方を探しなさい。貴族以外との結婚なら認めます」

「その、それでは罪と罰が釣り合わないのでは…」


「1年間、大使の命令でレノックス公の駒として振舞っていたのでしょう?その罪は大使とレノックス公の罪だから」

「でも…王子様が亡くなって…」

アンナの瞳に涙が溜まった。


「好きでもない男の為に命を捧げる様な馬鹿な真似はよしなさい。あちらはあなたの事を好意的に見ていたのかもしれない。でも、その男の見ていた中で真実は『あなたは聖魔法師』と言う点だけ。だから、1年間、あなたを好意的に見ていた男の好む事をしてあげなさい。その後で、まだその男に殉じたいと言うなら、そう言いなさい。とびきり苦しむ毒を与えてあげる」


 まだアンナの心に、フレドリックに対する罪悪感が残っていたが、自分が死ぬより、聖魔法で人々を救う道を進んだ方がフレドリックは喜んでくれる気もした。だから、皇女の言う様に、1年間治療を続けようと思った。


 アンナに短剣を渡したのは、最後にアンナの世話をした侍女だった。

「皇女が憎いのでしょう?この短剣で殺しなさい」

「え…?でも、私の様な素人が剣を使っても防がれてしまうのでは?」

「聖魔法の聖盾で包めば何も阻めない」

短剣を見つめて逡巡するアンナに侍女は言った。

「彼の恨みを晴らせるのはあなただけ。よく考えなさい」

侍女はそう言ってアンナに短剣を渡したのだ。


 もちろん、アンナの心に復讐心は薄かった。

(何で私が死なないといけないの!)

そうは思っていたが、不満のやり場がどこにも無かった。そのやり場を与えたのが侍女だった。考え直す時間が無い時に判断を迫り、道を誤らせる。詐欺師のやり方だった。


 その後、侍女はさりげなく逃走を図ろうとしたが、騎士達の追跡に気付いた。侍女は道から外れて林の中に飛び込んだ。しかしすぐに横から騎士が現れて侍女を追い込んで行った。

(せめて下水道まで行ければ!)

侍女は何とか逃げようとしたが、近衛どころか第一騎士団も諜報部も加わり追跡・包囲していた。棒を持った騎士達に囲まれ、侍女は丸薬を飲み込んで血を吐いて果てた。


「アンナに短剣を渡した侍女は追い詰められて自害しました」

前諜報部長のイーノックからの報告をアンジェリーナは受け、その死体を見に行った。


「どうですか?」

「大柄の女という点は一致しているけれど、実際に見ていないから、何とも言えない」

つまり、罠にかかった暗殺者が、アンジェリーナの留学時に馬車で待っていた侍女の姿をした暗殺者と同一かどうかを確認した訳だ。当時の記録は一部が抹消済で、その侍女を追い切れていなかった。


「いずれにせよ、この女の雇用についてはスペンサー候が一役買っています。記録の抹消に関しても。責任は問えるでしょう」

「皇帝陛下に報告を」

「了解いたしました」


「スチュ―、もういい加減ニヤニヤ顔を止めなさい」

アンジェリーナの護衛として彼女の傍を離れないスチュアート・モントローズは、アンナの処分申し渡し依頼、顔を緩ませていた。

「いや、我が君の慈悲深さを見せられる度に、我が忠誠心が強固になって行くのだよ」


「人形役をやらされた、そんな人形を重罪にしても意味がないでしょう。操った方はとっくに首になっているし」

物理的に首が落とされている件である。

「アンナが貧民街の出身であるから、彼女も君の守るべき孤児の一人と言う訳か?」

「彼女の母を救えなかった件は申し訳なく思っているわ。儲けにならない薬草の効き目を上げる事を考えないと」


「あまり責任を感じても苦しいだけだと思うが」

「出来る事をまずやる。それで零れ落ちるものは次に助けるしかないと思うわ」

「まあ、行政の仕事に終わりは無いからな」

「国が無くなっても、次の国がそれを引き継ぐものだからね」

「…とりあえず両国とも、とりあえずの平和の為に出来る事をするのが優先だが」

「いろいろ詰める段階ね」

 anna→nanaと言う言葉遊びですね。また、アンナとフレドリックの本当の交流は正体を明かした後なので、その短期間に気持ちが通じるとは、少なくともアンジェリーナは思っていません。

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