11−5. 偽アンジェリーナの断罪 (1)
「モートン伯爵家は南部の一員です。農作物と流通する物資の仲介で財を成しております」
諜報部の集めた情報をアンジェリーナに報告するのは、前諜報部長のイーノックだ。
「今回の反乱での立ち位置は?」
「モートン家は南部諸家と共に交通と物流を遮断したのみです。処分すべき実質的な武装反乱行動を取ったのはケント平原の戦闘に参加したバークシャー伯以下10家だけです」
「本件に関する情報はレノックス家のタウンハウスの侍従の証言によるものだが、モートン伯自身はどう言っている?」
「レノックス公が15才の金髪碧眼の女性の登用を考えていると聞き、だから差し出しただけと言っています」
「諜報部の調査結果はどうか」
「レノックス公もモートン伯を重用していない事、モートン伯自身も野心家というより小金を貯めるタイプである事、反乱に対する積極性も無い事から、南部のリーダーに従っただけと考えます」
「アンナに対する処分についてはどう言っている?」
「モートン伯爵家からの除籍届けが出ております。処分は任せると言っております」
「……では、好きにさせてもらおう」
偽アンジェリーナとして行動したアンナ・モートンに関する処分については、皇帝エグバートは関心を示さなかった。
「好きにしろ」
アンジェリーナにそう言っただけだった。
アンナは帝城内の客間の一つに泊り、翌日、皇族用の応接室に連れて行かれた。反乱の一部として行われた皇女詐称の為、皇帝の代理人であるアンジェリーナ皇女が処分を下す事になったからである。公式な法務省や騎士団の設備を使うと、法に則った処分しか出来ないから。
女性騎士に連れて来られたアンナは、顔が強張っていた。前諜報部長のイーノックが本人確認の質問を行った。
「其方がモートン伯爵の庶子であるアンナで間違いないか?」
「は…い…間違いありません」
「王国に赴き、アンジェリーナ皇女を詐称していた事に間違いはないか?」
「はい…間違いありません」
「では、3歩前に出よ」
アンナは3歩前に歩いた。そこにアンジェリーナ皇女が近づいて行き、問うた。
「私が第三皇女本人だ。皇女詐称について、申し開きがあれば述べよ」
「それは…」
アンナは懐から短剣を取り出した。それは剣身が光り輝いていた。それを両手で掴み、身体ごとアンジェリーナに飛び込んだ。
「死ねっ!」
しかし、短剣の先はアンジェリーナの3ft前の光の壁に遮られ、そこから先に進む事は無かった。
アンナは叫んだ。
「何で?聖盾で包んだ剣が止められる訳が無いのに!?」
アンジェリーナはアンナを冷ややかに見ながら言った。
「アンジェリーナ皇女は『聖女』と呼ばれる様な聖魔法使いなのでしょう?あなた如きの聖魔法で何とかなる筈が無いじゃない」
「なっ!それは私が」
言われた事なのに、とまでは言えなかった。
「そう。他人の名前を名乗ると言う事は、そう言う事よ。あなたの功績は名前の持ち主の功績になる。まあ、そんな事より目の前の火事を心配した方が良いのじゃない?聖魔法を他人の命を奪う事に使えば、どうなるか分かっていたのでしょ?」
アンナの持つ短剣から光は失われた。短剣は彼女の手からこぼれ落ち、地面に転がった。
アンナの頭部から黒い湯気が生じ、それは彼女の全身に広がって行った。アンナは地の底に引きずり込まれる様な錯覚を覚え、その場にへたり込んだ。その口から思わず声が漏れた。
「あ…あぁ……」
その頭部を近寄って来たアンジェリーナが右手で鷲掴みにした。
「痛い!痛い!!」
アンナの叫びも気にせず、アンジェリーナはアンナの頭部を指で圧迫し続けた。アンナはアンジェリーナの右手首を両手で掴んで振り払った。
「何するのよ!」
「何って、あなたが勝手に闇落ちしそうだったから、治してあげてたんじゃない」
アンナの身体を囲っていた黒い湯気は無くなっていた。
「そんな事!人間に出来る訳ないじゃない!」
「だから言ってるじゃない、あなた程度の魔力じゃ私には敵わない、だからあなたの闇落ちの力より私の聖魔法の方が強いから治してしまえただけよ」
「そんなの!聖魔法の光も無かったじゃない!」
「それ、魔法制御の未熟さで光るだけだから。私なら光らせないで治せるのよ。疑うなら、試しに痛い頭に治癒をかけてみなさい」
アンナは疑いながら自分の頭部に右手のひらを向けて治癒魔法をかけた。頭部は光り、アンナの頭の痛みは消えた。
「あれ、聖魔法が使える……」
「そういう事で、あなたの闇落ちは治しました。めでたしめでたし、と言うことね」




