11−2. 貴族議会での質疑
侵攻貴族を追求する為の貴族議会が招集された。最初に宰相がウィグムント王の方針を代弁した。
「陛下はフレドリック殿下の議会への出席を許可しません。一方、議会での殿下への問責決議は大いに参考にするとの事です」
フレドリック王子の叔父であるヴィンセント・モントローズ公爵は白い顔をしていたが、感情を表には出さなかった。
最初にロジアン侯爵から総括が報告された。
「対帝国強硬派一同からの趣意書を受け取り、まとめ役として侵攻を進めた。ケント平原では皇帝側の風魔法師による天候魔法と範囲魔法で実際の損害より兵の戦意を挫かれて敗れた。ケント平原の戦いの前夜の、一部貴族の兵によるアシュフォード市民への不当行為及び敗退後の兵を置いて逃げた家々が王国の名を汚した事については残念に思う。いずれにせよ、実質的には私が責任者と考える。今回の責任の大半は自分にあると認める」
モントローズ公が質問に立った。
「今回の件で第一の問題は、王国軍旗を持ち出した者がいると言う事だ。それにより侵攻の責任が王家に及ぶ事になった。本件はロジアン候の指図に依るものか?」
「全く関与していない。ちなみに、持ち出した近衛騎士は敗戦時に逃亡する事が予想された為、我が兵が拘束して既に近衛騎士団に差し出している」
これに対して宰相が報告した。
「王都東での出陣式に軍旗が持ち出されたとの報告から、既に犯人の調査は行われていた。後は本人の確認だけの状態だった。犯人達は商会経由でソルトーン男爵に買収されたと言っている」
これを受けてソルトーン男爵が答えた。
「帝国の在王国大使館と取り引きのある商会から依頼があった。買収費用はそちらから出ており、大使館から出た金という認識だった」
「帝国大使館による軍旗強奪に手を貸したと言う事か?」
「違う。我々の認識では、帝国大使館はレノックス公の息がかかって動いていると考えている。だから、これは反皇帝活動と考えていた。決して王国に仇なすつもりは無かった」
「軍旗を持ち出す事で、軍勢が王国を代表する事になると言う点は認識していたのか」
「もちろんだ。我々は王国の25年前の汚名を晴らす為に侵攻したのだから、その証が必用だった」
「それが、君達が勝手に動いた事で陛下が責任を問われる一因になっているが、その事はどう思うか?」
「…陛下にご迷惑をお掛けした点は申し訳ないと思っている」
バクルー公爵も質問に立った。
「帝国国内情勢についてはどの様に入手していたか確認したい」
これにはロジアン侯爵が答えた。
「南部経由で商会から入手する情報と、北部経由で新興貴族経由で情報が入る、その2通りのルートがあった」
これに対し、モントローズ公が答えた。
「情報の伝達を放置する事で、そちら経由の脱出経路があると思わせる必要があった。だから、その経路で逃げようとする大使館員を10人確保している」
議会議長がそれには懸念を持った。
「2国間条約で大使館員の非逮捕特権を侵している可能性がありますが?」
「拘束している訳では無い。破壊活動の疑いで外出禁止としているだけだ」
「彼等はどうするおつもりで?」
「もちろん、帝国側から引き渡し依頼があり次第引き渡す」
まだ一部の貴族は不安を持ったが、彼等がデマ拡散や買収に携わっていた事は確実だから、他の貴族はむしろ安心した。そして、モントローズ公の方は皇帝エグバートから非公式の大使館員拘束依頼を受け取っていたから、実際には問題が起こる筈は無い。
一方の北部の情報伝達に携わった貴族は釈明した。
「反帝国の行動の一環として行った。売国行為では無い」
実際、王国側から帝国へ機密が流れた訳では無いので、この貴族への質問は最小限で終わった。
「アシュフォードでの市民への不当行為について質問したい。ボイル子爵は釈明をして欲しい」
侵攻に参加しなかった貴族からの質問に、ボイル子爵は激高して答えた。
「王国の汚名をそそごうと出征した我等に対し、出征していない臆病者からの誹謗中傷は許さない!」
これに対しロジアン侯爵が発言した。
「私と君の前で、兵は酒代を払ったが王国通貨である為店主が受け取らなかったと言っただろう?だから通貨を懐に戻し、無礼を働いた店主を暴行したと聞いたが?覚えていないのかね?」
「我々は同志であり、侵攻部隊内で上下関係は無い筈だ!上司ぶるのは止めていただきたい!」
「上司ぶっているのでは無いよ。誹謗中傷ではなく見た事を話している。それに対して兵の上司である君は良いと思っているのか、悪いと思っているのかを答えたまえ」
「ボイル家の威信に関わる事だ!悪いとは言わない」
ロジアン侯爵は嘆息した。
「今聞いた通り、軍記が乱れていた事については上司は悪いとは思っていない様だ。また、私を上司とは認めていない様だ。では、私はフレドリック殿下にかかる責任については実質の指導役として責任を持つが、彼等の責任は彼等にかかると宣言しよう」
この発言に、アシュフォードで不祥事を起こした兵の上司である貴族達は動揺した。ロジアン侯爵が提出した不祥事とその上司一覧に対し、上司達は「確認していない」「聞いていない」と責任を取る事を拒否した。
そして、新興貴族が多い北部の取りまとめ役であるキャンベル公爵が発言した。
「ロジアン侯爵を含む3貴族だけが敗残兵を率いて後退して来た。他の侵攻貴族達は、その件について釈明してもらおう」
前戦争後に貴族となった商人系の新興貴族の発言は明確だった。
「私が戻れば勢力の巻き返しは可能だと思った」
「新興貴族である我が家の支配体制は脆弱だから、私が死ぬ訳にはいかなかった」
商会的な発想で、商会長が戻らなければ商会の維持は出来ない、そういう意味の発言が多かった。
タカ派貴族も似た論法で逃げようとした。
「王国を憂える私がいなくなれば、反帝国の機運が衰えると思った」
それに対する非侵攻貴族の質問は冷たかった。
「それでは、次も言葉巧みに周囲と部下を帝国に連れて行き、負けそうになったらその人々を見捨てて自分だけ逃げて来ると言うのかね?」
「違う!それは私を貶めようとする誹謗中傷だ!看過出来ない!」
「では言い直そう。今回は反帝国の気運を維持する為に自分だけ逃げて来た。次は最後まで残って連れて行った人々の為に死ねる。そう言うのかね?」
「だからそれが悪意の誹謗中傷だと言うのだ!」
タカ派貴族達は、部下を見捨てて自分だけ逃げた事の非を認めないばかりか、次は真っ先に死ぬとも宣言しなかった。今回出来なかった事が次は出来る。それを口にするのが余りに説得力が無い事ぐらいは自分で分かっていたのだ。
侵攻貴族に対する問責については、ロジアン侯爵が提出した各種資料を小委員会で検討し、次の議会で決を採る事になった。




