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11−1. 王都帰還

 ロジアン侯爵とフレドリック王子は王都に戻った。騎乗した近衛騎士の先導で王城に入った。


 二人には近衛騎士が付き、他の部下は同行を許されなかった。一方、帰還した二人の発言は今後の処分の重要情報になる。だからウィグムント王は正式な謁見室で二人と会った。


「ロジアン侯爵、此度の件について、貴公なりの顛末を聞こう」

「はい。偽皇帝事件以来、貴族内で帝国への反感が強まっておりましたが、先日クロフォード伯爵から連名の趣意書を受け取り、貴族議会にて対帝国強硬策の提案を行いました。本件でフレドリック殿下の貴族議会での好意的な発言を受け、殿下に総大将の就任をお願いし、帝国内のレノックス公と連絡の上、帝国に侵攻いたしました。アシュフォードの街で一部の兵が問題を起こしましたが、問題なく翌日のケント平原の戦いに入りました。そこで放置されていた中央の丘を魔法兵部隊が占領した後、相手司令官と思われる高位貴族らしき魔法師による巨大天候魔法が発動し、巻き上げられた魔法兵はその後墜落して全滅しました」


「次いで皇帝側の兵による逆襲が行われましたが、兵力の差から均衡したところ、別動の軽騎兵隊が北方から皇帝側への横撃をしようとしたところ、再び範囲魔法により軽騎兵隊は巻き上げられ、墜落して壊滅しました。ここに至って味方側は総崩れになり、撤退した次第です」


 ウィグムント王は問いただした。

「天候魔法及び範囲魔法が使われたとの事だが、魔法を行使したのは皇帝の実子と思うか?」

「断言は出来ませんが、我が国及び帝国でも隋一の風魔法師と考えます」


「帝国一の風魔法師としてはエグバート帝の弟、ディビッド卿が知られている。  一方、ディビッド卿は内乱を避ける為に北部を出る事が許されていないと聞く。 そして、この事は皇帝の血筋に強い風魔法師が生まれる可能性を示唆している。ディビッド卿に代わる帝国一の風魔法師が皇帝の実子の可能性は高いと考えるが、どう思うか」

「その可能性が高いと考えます。つまり、スペンサー候の妹、アンリエッタ妃の子である二人のどちらかがケント平原に現れたと考えます」


 二人はこの件について断言を避けた。そして、当然尋ねるべき相手への問いかけも行わなかった。


「候が本件で文章に残しておきたい事があれば述べよ」

「ありがとうございます。ロジアン家は25年前の侵攻時に、誹謗中傷を受け、王家・王国に対する忠誠を疑われる事態となりました。今回、汚名返上の為に出兵いたしましたが、逆に王家・王国の名に泥を塗る事になり、誠に申し訳ありませんでした。出来ますれば、今回の侵攻の顛末を貴族議会にて証言する機会をいただきたく存じます」

「貴族議会議長もモントローズ公も貴公の議会での証言を希望している。貴族諸侯も要望すると思われる。貴族としての義務は必ず果たす様にせよ」

「お言葉、必ず従います」


 ロジアン侯爵は近衛騎士の付き添いの下、タウンハウスに帰って行った。


 ウィグムント王からフレドリック王子に対する聞き取りは私室で行われた。

「お前の信じる正義・大義を語ってみよ」

「……ありません。ただ現地に行って、戦争に負けるところを近くで待っていただけです」

「現場を見て何を思ったか」

「伝令の言葉を聞いたたけですので、何も見ていません。だから、何も思いませんでした」


「一人の人間を守ろうとして、1000人近くの人命を失わせ1000人近くが死なない為に逃亡兵となった事についてどう思うか」

「……考え足らずであったと思います」

「お前の行動の責任はお前が取る必要があるが、それには貴族議会のロジアン候その他侵攻に参加した貴族に対する問責内容を待たねばならん。皆が納得する責任の取り方が必用になる」

「はい……」


「貴族議会の議事録はお前にも写しを見せる。それを見てよく考えよ」

「はい。心して考えます」

「自分の宮で謹慎せよ。許可なく入り込む者は罪に問う。誰かを呼ぶ場合は必ず許可を取る様に」


 こうしてフレドリック王子は謹慎となった。


 離宮で事実上拘束されているアンジェリーナ皇女、実はアンナ・モートンにも侵攻部隊の敗退、フレドリック王子の謹慎が伝えられた。それを伝えた侍女にまだ名目上アンジェリーナ扱いのアンナは尋ねた。

「その、双方の死傷者はどのくらいなのでしょうか?」

「帝国側の情報はありません。我が国の死者は800人と言われています。全員、現地に埋められたと言われています」


 野原に埋められ、誰も弔いの祈りを捧げる者がいない800の粗末な墓標を想像し、アンナは真っ青になった。

「フレドリック殿下はどうなるのでしょうか?」

「貴族議会の侵攻貴族への問責内容によると言われております。陛下のご意向は我々が慮る事は憚られる為、申し上げられません」


 アンナは監視対象の皇女扱いであり、今も侍女一人が部屋の片隅で待機していた。本来、アンナはここで取り乱す事は出来ないと考えていた。それでもフレドリックが何らかの処分を受ける事、そして戦争と死者の一因が自分がフレドリックに頼った事である事が彼女の心に圧し掛かった。寝室に移動したアンナは、ベッドの横に跪いて、顔を布団に埋めた。

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