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10−12. 帰国

 アシュフォードに勝手に戻った貴族達は、追撃を恐れた為、待機していた自分達固有の輜重部隊にも指示してアシュフォードから国境へ向かった。国境を越えてエガムに入ったところで、王国第三騎士団ならびにバクルー公爵騎士団が待ち受けていて、貴族達を拘束した。


「国を代表して、国の汚名を晴らしに行った英雄を捕らえるとは何事か!」

タカ派貴族は激高したが、騎士団は虎の威を借りた。

「国王陛下は国の軍旗を持ち出し、勝手に戦争を起こした者達にお怒りです。大権干犯の疑いで関係者の貴族議会での喚問を要求しております」

「それは持ち出した者の問題だろう!我々は関係無い!」

「それは貴族議会で主張してください」


 エガムで拘束された者達は、随行する人員数も記録された。つまり、部下を見捨てて逃げてきたのか否かを確実に記録していたのだ。敗残兵を一人でも多く国に帰そうとした貴族は3家だけで、翌朝国境を越えて来た2家の率いて来た兵は800人だった。


 最後になり、夕方にエガムに到着したロジアン候からは、連れ帰って来た1000人の所属部隊と人数の概算が報告された。


 最後まで撤退して来ないロジアン候を心配して、バクルー公爵が自らエガムの街までやって来て、撤退してきたロジアン候を出迎えた。

「心配しましたぞ。よくお戻りになった」

「いえ、お国の汚名をそそぐ事も敵わず、醜態を晒しており申し訳ありません」

「それでも、よく多くの将兵を連れ帰って来てくれました」

「5000が国境を越えて、連れて帰れた者は1800程度ですから、恥じ入る以外にありません」

「さあ、まずは殿下を隣町までお連れください」

両者は敗残の将たるフレドリック王子に恥をかかせない様、王子を馬車から外に出さないままに隣町まで連れて行った。


 アシュフォードの街は帝国第三騎士団により治安が回復した。王国側のエガムの警備隊と交渉が行われ、敗残兵については名簿のやり取りの後、一定数の返還を行い、後日、王国側から補償金が支払われる事が確認された。ウィグムント王もエグバート帝も本件を長引かせる事を望まず、エガムの街で1週間後に和平交渉が行われる事になった。


 バクルー公爵と王都への帰路に領地を持つ各貴族家との連携により、ロジアン侯爵とフレドリック王子の帰路は滞りが無かった。

「その、名目上の司令官である私は、もっと悪い扱いになる筈ではないのでしょうか?」

フレドリック王子の問いかけに、ロジアン侯爵は答えた。

「本件があくまで非公式に行われた事から、殿下の処遇は王家のみが決められる事です。私共は一先ず殿下を王都にお連れする事を優先しており、その間に殿下に失礼な事があってはならないと貴族家一同の心は一つになっております。ご心配は無用です」


「その、父上は私をどの様に処分するとお考えでしょうか?」

ロジアン侯爵は沈痛な顔をして答えた。

「いずれにせよ、その責の大半は私にあります。私から陛下にその旨、奏上いたしたいと考えております」

「いえ、最終判断は私のした事です。その責は私自身にあります」

「いずれにせよ、私がこの命にかけて殿下をお守りいたします」


 フレドリックはここまで戦争の現場にほとんど触れて来なかったが、このロジアン侯爵の発言で、敗北の責任を痛感した。兵達の生命が失われたのだ。その将…名目上でも、指揮官であるなら、重い責任を担っていたのだ。


 ロジアン侯爵とフレドリック殿下には、逃亡の恐れを誰もが感じていなかったから、その王都までの移動については各貴族が好意的に扱っていた。一方、兵を見捨てた貴族達には逃亡の危険性を感じられ、部下と切り離してそれぞれ騎士団の護衛で最小の従者のみ従っての移送となった。


 帝国内では第二騎士団にスチュアート・モントローズが同行して、逃亡兵の説得にあたった。

「戦場から離れただけで、その後の略奪・暴行など犯罪を犯していない者は帝国側は問責しないと決まっている。帰国後も敵前逃亡にあたらない事をモントローズ家が後ろ盾になり主張する事を約束する。ここはモントローズ家の名を信じて、投降してくれ」

兵達はスチュアートの顔など知る筈もなかったが、モントローズ家の紋章付きのハンカチなどを示して信用を得た。


 ケント平原周囲の山林をスチュアート達は走り回り、風魔法師が宣告を山中に響かせ、3日で1000人を投降させたが、日にちが経つにつれ、離散可能範囲が増えて行った。その後三日間、国境線付近で500人の逃亡兵を見つけたが、その後はむしろ犯罪者として各地区で見つかる事が多くなった。


 ケント平原で見つかった王国側死者は800人だった為、900人程が犯罪予備軍として帝国内に潜伏する事になった。アンジェリーナはスチュアートを7日後には帝都に戻した。


 こうしてエガムの街で和平交渉が行われた。まず帝国に残った逃亡兵の扱いが話し合われた。王国側はともかく投降した兵を引き取る事で誠意を見せた。どう見ても今一番帝国に迷惑をかけているのが逃亡兵だったからだ。


 逃亡兵の内、犯罪を起こさず帝国側に投降した者は敵前逃亡の罪には問わない事が確認され、和平に派遣された外務大臣が投稿兵の為に一筆書いた。それを投稿兵に読み上げる事で、投稿兵は騒ぐ事なく、エガム側に移動した。


 一方、まだ投降していない逃亡兵については、犯罪者として捕らえられた場合は帝国側で処分する事が許容された。もっとも、禁固刑と処分が決まった逃亡兵は、エガム側に渡され、エガム近辺で臨時の刑務所に収容される事になった。


 一方、本件の講和については、前回25年前にも王が退位する事が和平の条件であった事から、今回も王の退位が条件となった。今回の王命に拠らない侵攻に参加した貴族の半分が、名目上は現王が叙爵した新興貴族であった事から、その責を問われた形でもある。今回の侵攻の名目上の大将が、現王の第二王子だった事も責を問われた。

 明日はレノックス家について投稿予定。

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