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10−10. 待ち伏せ (1)

 アンジェリーナの一行は騎乗した者達に、軽量快速な2頭立て馬車がついてくるだけだった。異動速度を優先していたんだ。だから、輜重部隊は待ち合わせ地点で待っていた。


 裏街道を進む一行は、馬車の休憩などに使われている狭い休憩場で待ち合わせた輜重部隊と合流、粥を啜った。

「昼が早かったから、ここいらで軽く腹ごしらえが必用でしょう」

「まあ、少しでも腹に入れれば夜が遅くても大丈夫だが…」

農村でもない、何もない休憩地点で態々火を使って粥を作る理由がスチュアートには分からなかった。そして、何より空気が悪かった。


 さっさと粥を平らげたアンジェリーナが横目でスチュアートを見た。

「何か?」

「…気になる?」

スチュアートは一瞬ムッとしたが、つまり、気付くべき事に気づいてないという指摘だろうと気付いた。


「ここは…皇帝側の部隊が敗走した時の為の、我々司令部の休憩地点という訳か?」

「そうなるわね」

そんなものを前もって準備していれば、追撃部隊に目を付けられる。今回、ケント平原に南部から入った部隊にレノックス公の軍旗は無かった。

「待ち伏せ!」

「早く平らげなさい」


 残りの粥を喉に流してスチュアートは言った。

「なら、こんなところでゆっくりしていられないだろう!?」

「何を言っているの。ここで迎え撃とうと言うのに」

「…君を餌にして敵を討つと言うのか!?」

「だから、態々彼等の予定に合わせて移動してあげたんじゃない」


 スチュアートは周囲の魔力を感じようとした。後方から微速で接近してくる多分騎馬、左右の林の中を気配を消して近寄って来る歩兵、そして、前方、坂の下、道が途中で曲がっている為に見えないが、一番多い気配が近づいて来る。


「包囲を待たずに脱出しないと!」

「せっかくだから彼らが前から近づいて来るのを待つわ。だから、準備しなさい」


 他の男達は武器を確かめ、アンジェリーナの後ろに集まって来た。アンジェリーナも双剣を手元に置いた。仕方なくスチュアートも両手剣を腰に吊るした。


「ここを選んだ理由が分かる?」

「林の間にある休憩所だ。大規模な弓の攻撃が出来ない事か?」

「そう。弓だけは数が物をいうからね」

「君の風魔法の前では無力に見えるが?」

「風魔法は他の事に使うからね」


 敵はカーブを抜けて目視出来る様になった。

「抜剣!」


 アンジェリーナ率いる突撃部隊は、アンジェリーナを先頭に、二列縦隊を作った。前方から向かってくる歩兵部隊は4列縦隊を作って小走りに近づいて来た。


 それに惑わされずに、アンジェリーナの魔力は左右に向けられた。休憩所の左右、林の中を進んでいた挟撃部隊は、林の間を吹き抜ける強風に転倒し、転がされてアンジェリーナ達から遠ざかって行った。


 通常、風は林の上を抜け、流体抵抗の大きい林の間は流れにくいが、アンジェリーナは風魔法で上空から加圧し、敵部隊の後方を減圧した。だから、林の間を強風が吹き抜けていき、部隊は計画通りの接近が出来なかった。


 その間にアンジェリーナは早足で前進した。挟撃部隊が現れない為、前方の敵は歩みを早める事はなかったが、アンジェリーナ達が前進して距離を詰めた。だから仕方なく、前方の4列縦隊の敵も抜剣した。


 彼等は挟撃部隊が現れるまで敵の前進を止めていれば良い、そういう作戦だったから積極的に攻め始めなかった。だから両手に剣を持つアンジェリーナから積極的に中央に突っ込んだ。


 実はスチュアート・モントローズが強力な火魔法使いという情報があったので、襲撃部隊は鋼鉄の鎧ではなく皮の防具を付けていた。だから、その隙間をアンジェリーナが切り裂いた。


 双剣使いである為、左右の敵に最小限のタイムラグで連続攻撃を行い続けた。そして多少動きが鈍り流血した敵兵を、アンジェリーナのすぐ後ろに位置するスチュアートと前第一騎士団長が剛剣で吹き飛ばした。その吹き飛ばされた者達が邪魔でその外側の列はアンジェリーナ達に斬りかかる事が出来なかった。


 そうしてアンジェリーナが中央に斬りこみ、それを後列が拡大する戦法で前方の敵は漸減されて行った。もう左右から近づいていた挟撃部隊に風魔法による掣肘は行われていなかったが、すでに挟撃部隊は戦列と戦意を挫かれており、指揮官の叱咤で休憩地点まで出てきた時には前方から敵を抑える役目の部隊は半ば以上突破されていた。


 前方を抑える筈の部隊は4列10人ずつで構成されていた。彼等に30人程のアンジェリーナの精鋭を揃えた突撃部隊を真正面から抑える程の実力は無かった。数を揃えるのが精一杯だったのだ。


 その4列10人の後方には、この包囲暗殺部隊の指揮官が直接指揮する60人の部隊がいた。つまり、アンジェリーナの目的は、包囲される前に敵指揮官を倒し、包囲部隊全体の指揮を失わせる事にあった。


 部隊指揮官は騎乗していた。分かり易く指揮官のみ騎乗する事で、部隊が指揮官の命令を判別しやすくしていた。その騎乗する指揮官が二人いる。つまり、名目上の指揮官と、実質上の指揮官だった。


 アンジェリーナ(または偽物)をレノックス公の子供が討った、そう宣伝する必用があったのだ。

名目上の指揮官、それはレノックス公の3男、ファーガス・レノックスだった。

 本気で討とうとするなら、連戦にする必要があったという事です。

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