2−3. 孤児院の朝
土曜の朝、王都の開門に合わせて占い師は王都外に出た。
孤児院の門の横のベルを鳴らすと、年長の少年ピート以外に数人の女の子が建物から出て来た。少年が門を開けると、女の子達が待ちきれずに占い師に抱きついた。
「おはよう、ジェニー!」
「ジェニーちゃん、おはよう!」
占い師は抱きついて来た女の子達の頭を撫でた。
「朝から元気ね。だったら、朝食の準備もしっかり手伝ってね」
「もちろん!」
「もちろんだよ!」
雑穀と豆をそれぞれ水洗いし、野菜も水洗いしてザルに置いておく。この孤児院は10才の少年を筆頭に、6才までの7人の男女が住んでいる。10才の少年ピートと7才の少女ニアだけが兄妹で、あとは血の繋がりのない5人だ。
ピートが少しだけ水を張った鍋を竈の網に乗せる。隣の網には8才のジョンが鍋を置く。
占い師を含めて8人の食事は雑穀と豆あるいは根菜のスープが殆どだ。要するに麦やパンを買う様な収入がない。だから、元々自給自足であった国営孤児院時代の畑を用いて雑穀と野菜、豆を作って食べている。
豆を入れた鍋が沸き立ってから少女達が数を数える。300も数えると一度竈から薪を引き抜く。ここで雑穀を追加し、また薪をくべる。最後に野菜を追加し、煮立ったら薪を抜いて、鍋から器にスープをよそう。
「それじゃあ、皆指を組んで。太陽神に感謝のお祈りを捧げてから、いただきましょう」
王国の民間には自然信仰しかなかった。王家と古来からの貴族は建国神話を共有していたが、その神話は市民を守る類のものではなかった。だから最下層の貧民の子供に自然信仰以外の宗教を教える意味はなかった。
「今日はちょっと塩が多い?」
「ごめんなさい、いつもと変わらないつもりだったのだけど」
味を見るのはもちろん年長の占い師だ。夜に走り回った分だけ塩分が欲しかったらしい。
パンや肉の無い食事に子供達は不満はない。元々親に捨てられた子供達だ。食べるものがあり、飢えないだけマシなのだ。
食べ終わった者から食器を洗い、占い師、年長のピートが妹のニアと、また8才組のジョン、ケイ、サラが鍋を洗う。小さい子ほど食べるのが遅いから、年長者が自然と鍋を洗う事になる。
王都の北門近くに時計塔があり、朝の9時に鐘を鳴らす。その音で占い師は子供達に畑の雑草取りを始めさせる。
子供達はそれぞれの担当の畑に向かった。仕事は同じ場所で一斉にやるより、ここは誰の責任、と任せた方が競い合って仕事が進む。
「はい、ここで一度背中を伸ばして」
占い師は一定時間毎に子供達に背中を伸ばす様に指示した。これをしないと疲労が溜まるし、腰を痛める事もあるからだ。
「さあ、一度水を飲みましょう」
本当は、占い師は子供を甘やかすのは不味いと知っていた。いつまでも自分が面倒を見れる訳ではないからだ。それでも子供が仕事に飽きない様に一定時間毎に指示する事は必用だし、何らかの温もりを感じないと、この孤児院が彼等の居場所でないと逃げ出す事を考え出す子供がいるかもしれない。だから、抑制された愛情を与えていた。
昨年の秋から始めた孤児院事業なので、昨年の蓄えがありません。なので、今食べている豆はいわゆる枝豆状態の豆で、鞘から出して煮ているため、短時間で煮えています。




