2−2. 夜の顔は棘のある花
占い師は、夜に商店街が閉まる時間まで占い師の館で客を待ち、夜は裏の小部屋で眠る。ところが、日も暮れ商店街の人気がなくなる頃、その裏口に動く影があった。繁華街の裏通りを歩いて行った影は、潰れた飲み屋の裏口を開け、入って行った。
黒ずくめで小柄なその人物は、小さな厨房を通り過ぎ、カウンター主体の店舗側に置いてある小さなランプに火を点けた。手紙入れにはそれらしき連絡が入っていた為、次の連絡が入るのを待つ事にした。
やがて戸を叩く音がした。小窓を開け、黒装束の人物は応えた。
「本日はお休みしております」
「サボテンの花を持って来たんだ」
客はしかるべき合言葉を口にした。
「見せてください」
客は小窓から封筒を入れて来た。
封筒を開けると、手形代わりのサボテンの花の書かれたカードが入っていた。
だから黒装束の人物は閂を抜いて扉を開けた。
「こちらにどうぞ」
一つしかない小テーブルの椅子に客は座った。
「仕事は?」
黒装束の者の言葉に、客は応えた。
「バカン伯爵家の屋敷の見取り図が欲しい」
客は銀貨の入った小袋を渡して来た。
「手付だ。成功報酬は倍出す」
「受けた。次の月曜の夜に取りに来い」
「頼んだぞ」
金曜の日も暮れ、商店街の人気がなくなる頃、占い師の館の裏口に動く影があった。繁華街の裏通りを歩いて行った影は、潰れた飲み屋の裏口を開け、入って行った。
この店で服の裾を紐で縛り付け、顔には帯を巻き付け、厳重に顔を隠した。黒装束の人物はやがて店を出て、貴族街の裏通りに進んで行った。
下位貴族街は、鬱蒼とした木々の手入れも行き届かない家々と、新しく建て替えられた家々と二分されていた。24年前の戦争の出征で人員、費用共に損害を受け、回復しきれていない従来からの貴族と、国家財政の穴埋めの為に売りに出された男爵位を購入した裕福な商人達との差だ。
上位貴族街にも似たような構図があった。商人系貴族と行動を共にする拝金貴族と、真面目に領地経営に勤しむ伝統型貴族だ。
バカン伯爵は、従来は貴族の中で重要視される人物では無かった。だが、ここ数年は商人系貴族との付き合いで収入が増え、発言力を高めていた。
バカン伯爵のタウンハウスの外壁に背もたれ、黒装束の人物は紙に黒鉛で概略図を描いていった。覗き見る必要はなかった。この世界には魔法があり、主に4元魔法に分類されていた。実際に目で見ることなく地理を掴む事が出来る事から、黒装束の人物は風魔法の使い手と思われた。
伯爵家では、この時間になっても屋敷内外で人の動きがあった。多分、明日はこの屋敷で夜会が行われるのだろう。その準備で忙しかったのだ。黒装束はその時の潜入を心に決めた。
バカン伯爵のタウンハウスの外壁から離れた黒装束は、下位貴族街の方に向かった。魔力でダミーをいくつか作り、もし尾行があっても追跡を困難にする様に途中で別方向に放ちながら闇に消えていった。
明日は孤児院の朝の描写なので、くっつけられずに短くなりました。申し訳ありません。




