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2−1. お誘い

「そろそろ流行り病も下火になった。暖かくなったからという事もあるが、皇女殿下のご尽力も寄与していると思う。お陰で助かった。感謝している」

フレドリック王子の感謝の言葉に、アンジェリーナ皇女も口元を綻ばした。

「微力ですが、人々を助ける手助けが出来たなら幸いです」


「ところで、皇女殿下は留学以来、あまり外出されていないのではなかろうか?

茶会に出られているという話も聞かないが?」

「大使もそういう伝手はなさそうで、好意的な方々とそうでない方々の確たる切り分けが出来ない様で、控えております」


「そうか、であれば、例えば王妃陛下の個人的な茶会などはいかがだろうか。比較的穏健な貴族子女を集めよう」

「…申し訳ありませんが、それは大使と相談してみないと回答出来ません。王妃様のお誘いとなるとお断りも難しくなります故…」

「うむ。それはそうだ。失礼した」


「その代わりと言っては何だが、貴族街の店を紹介したいと思う。そろそろ緊急の治療の依頼も無いと思う。週末に如何だろうか?」

皇女は不安そうな顔をした。

「…その、貴族街を殿下のご案内で歩いたと噂になると、また学院での敵意が増えかねず…」


「そうか…では、皇女殿下には失礼かもしれないが、平民街をお忍びで見ると言うのはどうだろう。たまにはそんな場所を気楽に歩くのも気分転換になるのではないか?」

皇女は口元に手を持って行って思案した。

「その、ですが殿下がその様な場所に足を踏み入れますと、保安上の問題があるのではないですか?」


「王都は治安が良いので、不安に思う事はないんだ。南の果物も北の果物も並んでいる。それらを見ているだけでも民の活気を感じ取ってもらえると思う」

「そうですか…殿下の関係者が問題ないと判断されたなら、一度お願いしたいと思います」

「そうか。うん。関係者に打診したうえ、計画を出そう。それを大使にも確認してもらって問題がなければ行こうじゃないか」

「はい。とりあえず関係者との合意をお願いします」


 王子からのお誘いをアンジェリーナ皇女は大使に報告した。

「フレドリック殿下に平民街の視察に誘われました。関係者の合意が得られれば、と回答しました」

大使は溜息を吐いた。

「誘われた以上、言い訳が出来なければ承諾するしかない。ただ、本国からの破壊工作もあり得る。注意をしなさい」

「分かりました」


 皇女が退席した後、大使は諜報員に尋ねた。

「ヤツの行方はまだ分からんのか?」

「帝都近辺での目撃証言はないとの事です」

「帝都の連中の不始末でもこちらで事故があればこちらの責任になる。事態の鎮静化を期待すると連絡してくれ」

「帝都は帝都で動きにくい点がございます。その点はご容赦をお願いします」

「あちらの派閥を探れないのか?」

「帝都での露骨な活動は命取りになり兼ねません。慎重にならざるを得ません」


「分かった。こちらの買収活動は進んでいるのか?」

「王と宰相は拝金貴族に利権を売っております。そういう筋は買収しやすくなっております」

「そちらはそちらで進める様に」

「お任せください」


 王宮の馬車降車場で馬車を降りたフレドリックに、自分の宮に帰ろうとしていた第一王子ダリウスが目に入った。暗い目をして横目で自分を見ているダリウスに、仕方なしにフレドリックは挨拶した。


「お疲れ様です、兄上」

「ふん、お前の様に女の尻を追いかけていないから、それほど疲れていないぞ」

「役目として皇女殿下の世話をしているだけです」


「皇女の人気取りに治療の手配をしているそうじゃないか。お前は女衒か」

「兄上、我が国の貴族にも利益のある事です。その様な仰りようは他所ではなさらない様、お願いします」

「ふん、他国の人気取りに加担する売国奴が!」

そう言ってダリウスは去って行った。


 後には暗澹とした気持ちのフレドリックだけが残った。

(私を貶したいからそう言っているだけで、外交問題を起こしたい訳じゃない…と信じたいが…)

 この王都コヴェントリー、治安良かったっけ?貴族の子分が平民街の店を襲ったり、怪しい女が跋扈してますが。

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