10−7. 侵攻・反乱連合部隊の進軍
ぐしゃって感じ。高所恐怖症系の方はご注意を。
朝にはケント平原の東側だけだった食事を作る竈の煙が、昼前には平原の東西と南で上がっていた。空は快晴で、それだけに三者はそれぞれの昼食準備を認識出来た。
アンジェリーナと部下達の前で、影の諜報部長イーノックが報告した。
「平原北部を迂回している軽騎兵隊は、後方攪乱ではなく、タイムラグをもって平原北から突入する様です。平原北部で停止しております」
「予想の範囲内だ。一応、街道沿いの警戒線は維持しなさい」
元第一騎士団長が尋ねた。
「それでは、元の計画通りの展開でよろしいですか」
「そうしろ。態々平原中央の丘を開けているのだから、そこに魔法部隊を集めてもらう」
「兵には中央の魔法部隊への攻撃まで塹壕から出るなと厳命します」
「交代で塹壕に入る兵に伝えれば良い。あまり早くに伝えるといらぬ緊張をさせる」
「分かりました」
「さて、そろそろ始めますか」
「魔法を配置しておくのか?」
アンジェリーナの言葉にスチュアート・モントローズが尋ねた。
「近いけど、例によって時間がかかるのよ」
「風で吹き飛ばすのか?」
「あれを見せておいたのは、あちら側の人間に風魔法を甘く見せるためよ。まあ、見ていなさい」
スチュアートの魔法感受性は、アンジェリーナが例により人一人分ずつ魔法を動かしているのを感じた。まるで人が隊列を組んで進んで行く様に、平原南部に進んで行った。
この平原は東西南北、各4マイル程度の広さがあり、その中央付近に丘があった。丘状になったのは、その東側に小川が流れており、その川に侵食されて崩れた為になだらかな丘になっていた。
その小川が流れ込むのが平原南部にある池である。池の直上でアンジェリーナは空気の圧縮放熱を行った。その為に魔力がそこに進んで行ったのである。
ケント平原南方から出たバークシャー家の斥候は、池の水が減っているのを視認した。
「池の水、昨日より減ってないか?」
「妙に蒸し暑く感じるんだが、晴れているせいか?」
「いや、上空に入道雲が出来ている。天気が変る予兆か?」
いずれにせよ彼等は中央の丘に進む経路に伏兵がいないか調べるのが仕事である。そこに辿り着くまでは連絡兵を戻す事はしなかった。
同様に、西部から進んだ王国侵攻部隊の斥候も小川に達した。
「小川か。水が少ないな」
「これなら問題なく渡れるだろう。先を急ぐぞ」
双方の斥候から連絡が行き、魔法師集団とその護衛が平原西部と南部から丘に向かった。
「魔法師の攻撃に合わせて中央から塹壕地帯に入る!各部隊も魔法師部隊に続け!」
こうして王国侵攻部隊、レノックス公の反乱連合の双方から横隊で部隊が進み始めた。
魔法師部隊は丘に登ったが、塹壕の前に畝の様に盛られた土が塹壕を隠していた。
「兵は見えませんね…防御主体の体制と思われます」
「とりあえず、護衛の盾を並べて、その合間から攻撃するように準備しましょう」
「魔法攻撃中は、相手も塹壕から出られないでしょうからね」
こうして、魔法部隊は通常部隊が塹壕地帯に対して横隊で対面するのを待った。
「少し上昇気流が足りない…やはり水が足りないか。まあ、そこは魔力でカバーするか」
「タイミングはどうなんだ?」
「魔法部隊は揃っているじゃない。問題ないわ」
スチュアートの言葉にアンジェリーナは答えた。そして、巨大な魔力を皇帝側も、王国・反乱連合側も感じた。
「何だこの魔力は!?」
「範囲魔法か!?」
丘の上では魔法部隊が騒ぎ始めた。そこに周囲から強い風が回り込み、上昇気流を作った。
「うわぁ!」
「待てよ!おい!?」
丘の上に立っていた魔法師達もその護衛部隊も、回転しながら上昇する強風に巻き込まれて浮かび上がった。
丘の下側に展開していた部隊は強風に晒されて転倒する者が続出した。
「何で急に風が吹くんだ!?」
「魔力を感じる…」
「そんな馬鹿な!?」
彼等の周囲で半径1マイルにも及ぶ強風が吹いていた。だから、前進してきた王国侵攻部隊もレノックス公の反乱連合も、全員がその場で倒れるか屈みこむかして風をやり過ごそうとしていた。そして丘の上では、200人程の人影が空高くで翻弄されていた。
やがて風が止み、空に浮いていた者達は落下してきた。攻撃魔法の部隊は火魔法師中心だったので、全員、なす術もなく地面に叩きつけられた。
鎌鼬で殺すのと、墜落死と、どっちが怖い?見える分だけ墜落死かな、と思います。




