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10−4. 帝国に吹く風

「ラトランド公が皇帝陛下の許可を得ずに帝都近辺の皇室領に入り、死を賜ったそうな」

「ラトランド公は皇帝に何かあった場合の代役として、北部の領地を出ない約束だったのでは?」

「もちろん、レノックス公の謀反に参加する様に誘いがあり、その内容を伝える為に皇帝陛下とお会いしたかったそうな」

「それでも、手紙で済ませられる事では?」


「事が正妃の実家の事であり、命を懸けての証言が必用とお考えだったのだろう」

「皇帝の後継者争い絡みだから、我々貴族も選択肢が多いと混乱が起きかねないとのお心遣いから、敢えて処罰される道を選ばれたのではなかろうか」

「流石陛下の弟君、あっぱれな身の処し方だった…」


「それに比べてレノックス公ときたら…」

「外国貴族を呼び寄せて、みっともないまでの悪あがきぶりですな」

「そもそも、不義の子を後継者にするべく隠してきたなど、公爵の癖に臣下の風上にもおけない奸臣ぶり、誰が彼等に従うと言うのでしょう」

「妹は陛下を蔑ろにする姦婦、兄も陛下を皇帝と思わぬ奸臣、親がどんな教育をしたのやら」


「と、言う訳で、影の諜報部長イーノックによれば、レノックス公とその妹の親の教育が悪いと言う噂が流れているそうよ」

アンジェリーナの言葉にスチュアート・モントローズも苦笑いした。

「さすがに不義・不忠を教える親などいるまいに。しかも王侯貴族なら、親に最初に言葉をもらうのは10才ということすら多いからな」

「8才に初めて親とまともに話したというのはまだ幸運だったかしらね…」

「まあ、我が家も似たようなものだ。親と顔を合わせて話をする頃にはとっくに捻くれていたぞ」


「まあ、お互い親に甘える様な性格もしていないのだから、良かったのではないの?」

その言葉にスチュアートは寂しげに笑った。

「…親に甘えたかったと?」

「いや、私はそれで良い。だが、君はね…」

ふっ、とアンジェリーナは軽く息を吐いた。

「甘やかされて喜ぶ趣味はないわ」


 そう言うアンジェリーナの事がスチュアートは悲しかった。彼女の本心は、孤児達と触れ合う姿に現われている。だが、事ここに至っては、もう帝位を継ぐ者として周囲に弱みを見せる訳にはいかない。それでも、彼女に他人の温もりを感じさせる人が必用な筈だ。人の情を失った権力者なら、政治は民衆を奴隷と扱うからだ。


 マーシア王国を東に進んでいた侵攻部隊は、国境の街エガムに至った。エガムの街の各組織と、国境警備組織は侵攻部隊に対する非抵抗を宣言した。

「非抵抗とはどういう意味か?」

「我々は君達に協力しない。その暴力で市民と役人、兵士達に損害を与えられる事を危惧するから、嫌々阻止行動を取らないだけだ。よって、この近辺で対価を払わない徴収行為は略奪として王都に報告する」


 そのエガムの各組織からの宣言はロジアン侯爵に伝えられた。

「我々は正義の代行者である!略奪などもっての他だ!食料などの入手に際しては必ず対価を払う様に皆に伝えよ!」

そう言う訳で、エガムの街ではまだ綱紀は保たれていた。


 検問所を通過し、帝国側の検問所ではレノックス公の配下の部下が待っていた。

「バークシャー伯爵の部下であります。アシュフォードの街で作戦会議を行いたく、特に軽騎兵部隊を持つ指揮官のご出席をお願いします」


 アシュフォードでの王国貴族の侵攻部隊とレノックス公の南部同盟上層部との作戦会議では、この街の東側に広がるケント平原の処置が話し合われた。

「ケント平原では皇帝側の部隊が野戦築城を行っており、ここを拠点にマーシア王国と我が方の連絡を脅かそうとしております。まずこの戦力の除去が必用であるので、明日昼前にケント平原西まで部隊を移動させていただきたい。歩調を合わせて我々の部隊が平原南から進軍、互いの魔法部隊を中央の丘に集めます。この魔法攻撃の援護を受けて、平原東部の塹壕地帯を襲い、敵勢力を殲滅します。ご意見があればお願いします」


「皇帝側の兵力は何人程なのか?」

「現在は概算2000人が交代で塹壕を掘っております。その後方に2000人が平原の東に駐留しており、帝都から400人が移動中です」

ロジアン候は侵攻部隊の勢力を口にした。

「我らが兵力は本日中に2000人がアシュフォード側に移動し、明日朝に王国領エガムから3000人が移動、輜重部隊はエガムの街にとりあえず残す予定だ。作業中の相手が工兵と雑兵だとしても、工兵以外約3000の兵に5000で攻める事になる。あなた方の兵力はどうなっている?」

「我が方は4000人が明日昼前にケント平原南部に集結予定です」


「一応、攻勢として敵の3倍を集められているのか…」

「しかし、敵の防御を混乱させる為、また心理的なダメージを与える為、軽騎兵を迂回させて平原北部から侵入させていただきたいと思います」

ロジアン候は、軽騎兵中心に派兵している貴族に尋ねた。

「ケイス伯爵、卿の軽騎兵をそちらに用いたいと考えるが?」

「従者を含めて300人の部隊です。実質100騎ですが、単独で攻めて効果があるものでしょうか?」


 それに対してはバークシャー伯爵の部下が答えた。

「心理的な効果を狙ってのものです。味方兵力の塹壕への突撃の後、北に姿を現していただきたい。実質、そちらに回す敵戦力はありません」

「そういう事なら、やらせていただこう」

 水魔法による攻撃は多少やまなりになるにせよ、火魔法もやまなりになりそうですが、見通しが悪いとどこに着弾させるべきか分かりませんから、丘に登って確かめたいのはあると思います。

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