10−2. 男の死に様 (1)
帝都を含む皇室領の北部に位置するアルベマール伯爵の館で、ディビッド・ラトランドは歓待を受けていた。
「検問所に対する先触れは間違いなく出しておきました。問題なく受理されております」
「…迷惑をかけて済まない。本件は私から圧力を懸けた旨、一筆残しておくから利用してくれ」
「その様な物は不要です。帝国貴族の義務として、上位貴族の通行の手続きをしただけですから」
「それでも、卿に迷惑をかける事を済まなく思っている」
「お気になさらずに。我に二心無く、それ故公にも公正に振舞うのみです」
ディビッドは深く頭を下げた。
翌朝、ディビッドはアルベマール伯爵の館を出た。
「くれぐれも道中お気をつけて」
「ありがとう。気を付けよう」
アルベマール伯との別れの挨拶は通常のものだった。
アルベマール伯の見送る中、壮年の騎士二人が騎乗して先導した。その後の馬車は老年の御者の後ろの車室中にラトランド公と年老いた侍従が、車室外に壮年の侍従二人が立って乗っていた。その馬車の後方を老年の騎士二人が騎乗して従った。誰もが落ち着いた表情をしていた。それ故、アルベマール伯の執事は堪え切れず瞳を閉じた。
アルベマール伯爵領と皇室領とは、皇室領の北の検問所を介して接続している。その検問所で先導の騎馬が検問の騎士に軽く頭を下げると、検問の騎士も頭を下げた。それだけでラトランド公の通過は許された。
街道の左右を囲む雑木林が無くなると、街道の彼方に一団の騎馬の群れと2台の馬車、その両側に皇帝旗がはためいているのが見えた。その周辺はまばらな雑草が生える荒地になっていた。 ラトランド公の馬車を先導する騎馬の一騎が先行し、一団に声をかけた。
「ラトランド公爵が皇帝陛下にご挨拶を望んでおります。ご了承いただけるなら、参ります」
「陛下もラトランド公との対談をお望みである。接近を許可する」
互いの大声でのやりとりは当然後方の馬車にも届いた。手綱が音を立て、ラトランド公を乗せた馬車は皇帝の馬車に近づいた。
停車した馬車から、車室外に立っていた侍従の手を借りてディビッド・ラトランドが降車した。そのまま歩いて皇帝の馬車に近づくと、皇帝エグバートも馬車から降りてきた。もう一台の馬車からは書記官も降りてきた。
皇帝の前10ftの距離でディビッドは片膝を着いて挨拶を始めた。
「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌うるわしく。長年ご無沙汰しており、誠に申し訳ありません」
「よい。そういう約束だ。よって、今ここに至った理由を述べよ」
「先日、レノックス公の次男より陛下の昨今のなさり様について諫言が必用な為、帝都へ向かう事を進言されました。よって、その旨お伝えしたく参りました」
「何に諫言が必要と申したか?」
「一つ、王国へ偽皇帝を送ったのは暗殺を誘発して王国侵攻の理由であったとの事。一つ、陛下が正当な理由なく正妃の息子ではなく側妃の息子を後継とお決めになった事。その二点にございます」
「一つ目はレノックス公の指図で行われた事が分かっている。王国に偽アンジェリーナを送り、他方アンジェリーナを暗殺せんとした。その発覚を恐れて偽皇帝を送る事を提案したのだ。もう一つは全くの嘘だ。正妃の息子には不義の疑いがあり、その確認の為に幽閉しているだけで、後継はその確認後に決める。よって、諫言内容は虚言である」
「そうであろうと思っておりました」
「では、何故約束を破って帝都に向かったのか」
ディビッドは微笑んだ。
「レノックス公が謀反に至ったのは後継が実質決まったからでしょう。であれば、もう陛下の後継のスペアに過ぎぬ私を生かす意味も無くなる事から、馳せ参じました」
「あい分かった。書記官は控えよ」
皇帝は弟ディビッドを見ながら首を左に振った。二人は街道の西側に並んで歩いて行った。
「急いで来ずとも良いものを」
「どうせ、もう帝国二位の魔法使いが新たに生まれているのでしょう?二位で無くなった私はもう不要だ」
「奴に帝位を任せるつもりは無かったのだがな」
「…どうなさるおつもりだったので?」
「貧者救済を望んでいた。どこぞの皇室領でやりたい事をやらせるつもりだった」
ディビッドも溜息を吐いた。
「それでは、どこかで仮面を被らなければ仕事が辛そうだ」
「まあ、あの生意気な奴が良いと言う奴もついて来ている。何とかなるだろう」
「気の合うつれあいがいるなら何とかなるでしょう」
兄弟の話は尽きなかったが、この時間も間もなく終わる事を二人は知っていた。
ラトランド公の馬車の記載について、車室の後ろにも露店のステップがあって、そこに護衛やら侍従やらが立って乗っている、そのステップの名前が不明でしたのでわかりにくい記述になったかもしれません。申し訳ありませんでした。




