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9−7. 戦争に転がり落ちる王国

 次いで宰相がウィグムント王を訪れ、本日の貴族議会での対帝国政策の議案の報告を行った。

「なるほど、ヴィンセントの発言に一理あると考える」

ウィグムントの反応はヴィンセント寄りだった。

「ここで重要なのはこの王都にいるアンジェリーナ皇女を自称する者の警護を強化する事と考えます。本物であれ、偽物であれ、騒動の終了時に帝国に引き渡さないといけません」

「その皇女に何かあれば我が国の責任になるし、フレドリックが自暴自棄になる可能性もあるからな」

「…申し訳ありません。フレドリック殿下がそこまで皇女殿下を大事に思われていると把握しておりませんでした」

「私もあれが愛情などで構っているとは思っていない」


「…友情ですか?」

「違うな。多分、同情だ」

「…ご自分の境遇と重ね合わせて、深い共感を持っていると言う事でしょうか?」

「そんなところだろう。それは重要な事ではない。皇女の真偽を駐帝国大使経由で更に探らせよ」

「はい。大使に督促いたします」


 そうは言っても、ウィグムント王は弟であるヴィンセントが迷いなく王都の皇女を偽物と判断している事に理由を感じた。

(偽物である情報を帝国から得ているのだろう…先日スチュアートが騎士団を辞め、それ以来行方が知れない。それを軽挙と言う事も出来るが…確かな情報を求めて身の危険を顧みず必用な行動を取る…そこまでして客観的な情報を求める。そんな理性こそ、権力者に必用なものだろう…)

スチュアートは王の子供世代では最も有能な男の一人である。彼が無断で出国したとして、帰国が出来る処置を考える必要があった。


 後日、ロジアン侯爵は帝国出兵に前向きな貴族達を集めた。

「今帝国では、正妃の実兄であるレノックス公が南部を糾合して皇帝に反抗しようとしている。この機に王国から我々が侵入し、レノックス公達と合流すれば、皇帝勢力に有利に戦える。偽皇女を後継に立てた皇帝に従う貴族がないからだ。

そして、レノックス公は北部のラトランド公、皇帝の弟である方に出陣の合意を得ている。これで帝国帝都の陥落は必定だ。25年前の屈辱を晴らす時が来たのだ!」


 ロジアン候の演説にタカ派貴族は歓声を上げ、新興貴族は拍手をした。


「この出兵は25年前の復仇を遂げようという国家の意思に従うものである!

その証拠に王家を代表してフレドリック王子に参加していただく」


 歓声と拍手に迎えられて、フレドリック王子がロジアン侯爵の横まで歩いて行った。

「フレドリック殿下、総司令官としてこの侵攻軍を率いてください。そうして初めて、この侵攻軍が正統な復仇部隊となる」

「ロジアン候、そして復仇に燃える愛国貴族諸君、共に戦い、帝国を叩いて勝利の凱歌をあげようではないか」

貴族達は歓声と拍手で答えた。


 こうして、フレドリックは侵攻軍の名目上の責任者となった。


 一方、モントローズ公は東西南北のリーダー格である公爵達を集めて、対応を話し合った。

「侵攻軍は王国の検問所を抑えるため、エガムの街を占領する筈だ。同時に帝国側でもレノックス公がアシュフォードの街を抑え、双方の検問所を開放する」


北部のキャンベル公爵から質問があった。

「25年前は北寄りのマーシーの方の検問所を襲ったが、今回はエガムの方になると思う理由は何か?」

「王国側では新興貴族が北部に多い為、マーシーの検問所を抑える方が近いとも言えるが、帝国側が南部のレノックス公達だ。

そうなると王国側はエガム、帝国側がアシュフォードを攻める方が双方の連絡がしやすいからだ」


 次は東部のバクルー公爵から質問があった。

「それでは、私が侵攻軍からエガムを守れば良いのか?」

「いや、通過させれば良い。帰ってくる頃にはボロボロになっているから、そちらを押さえた方が王国全体での被害が減らせる」

「皇帝側が勝つ理由があるのか?」

「皇帝の後継者は諜報と暴力機関をまず押さえ、レノックス公を追い出した。つまり、情報・軍事において皇帝の後継者の方が優れている事を意味する。だから、侵攻軍とレノックス公の反乱軍は最終的に敗北するのが明らかだ」


 その言葉に西部のハミルトン公爵が苦笑した。

「明らかなのか…」

「こちらの総大将を見ろ。少なくとも軍事には実績も実力もない。それを支える者もいない。つまり侵攻軍は烏合の衆だ。既に各騎士団を把握している皇帝と皇帝の後継者と激突して、伍する事は出来まい」


「その総大将を説得出来ないのか?負ければ命は無い筈だが…」

「もうタカ派貴族と新興貴族の前で総大将就任を受けてしまった。今更何を釈明しても遅い」

「モントローズ公はフレドリック殿下なしでダリウス殿下が国を纏められると思うのか?」

「もちろん、思わない。だが、フレドリック殿下が決心してしまったのを陛下が見ている。止められる者はいないのだ」

「皇女に魅せられたのか?」

「…多分、偽皇女を救いたいのだ」

4人の公爵は、『若気の至り』が人を滅ぼす未来を確信した。

 王様…スチュアートの方が沼に嵌まり込んでいると思うんですが…

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