9−6. 王と王子
対帝国強硬姿勢の政策推進の否決を受け、ケイスという商人系の新興貴族が大声で言った。
「棄権議員も含めれば、対帝国強硬姿勢は王国の過半数の意思である!志ある者はロジアン侯爵の下に力を集めよ!」
その発言にタカ派貴族や新興貴族から歓声が上がった。
「議会で許可なく発言する事は禁止事項だ!各自私語を止める様に!」
議長が議事進行の為に清聴する様に指示したが、しばらく私語は収まらなかった。
貴族議会終了時にヴィンセント・モントローズの周囲に伝統貴族が集まったが、ヴィンセントとしては話をすべき者は他にいた。
「本件は議長・宰相・陛下と話をする!本当に王国の未来を思う者は軽挙妄動を避けよ!」
ヴィンセントと宰相、議長はすぐに小会議室に集まった。
「宰相は陛下から強硬政策について伺っているのか?」
「まさか!そもそも皇女の真偽について駐帝国大使からの情報を待っているところです」
「それでは、殿下は皇女に関して駐王国の帝国大使館から何らかの説得を受けたと言う事だろう」
議長はその発言に疑問を持った。
「それは、どういう意味でしょう?」
「フレドリック殿下が皇女殿下をどのように思われているかは置いておく。とは言え、皇女殿下をお守りしたいと思われている事は確かだ」
「それと、大使館との接触はどう繋がるのです?」
「帝国皇帝が噂通りに偽皇女を後継に立てたなら、王国にいる皇女はいずれ排除される。一方、帝都の皇女が本物の場合、王国にいる皇女は何者かが立てた偽物となる。だから、帰国することなく排除される」
「つまり、大使館と接触した結果、大使館と協力して皇女殿下を守る事にしたと?」
「大使館はずっと王国貴族達へ買収の手を広げていた。その買収されていると思われる貴族達は反皇帝で出兵する事を願っている。つまり、この動きは排除されつつあるレノックス公が王国を利用して挽回しようとしている策だ」
宰相も議長もその発言を少しの間検討した。
そして宰相が口を開いた。
「モントローズ公、王都にいる皇女が本物なら、フレドリック殿下が危険な行動を取る必要はないでしょう。つまり、王都の皇女は偽物という事でよろしいですか?」
「断言は出来ない。真実は皇帝と本物の皇女しか知らない事だから。だが、陛下とフレドリック殿下の意思統一が出来ていないのに独断でこんな行動を取ると言う事は、皇女を守る為にはレノックス公が勝たねばならないと言う事だ。それは皇帝が王都の皇女を守るつもりが無い事を示している」
議長も口を開いた。
「皇帝が跡継ぎに偽物を擁立しようとしいる可能性は無いのですか?」
「もちろん、その可能性はゼロでは無い。だが、帝都の皇女は皇帝の指示の下、レノックス公の勢力を追い出している様だ。フレドリック殿下を無理に動かして王国からの助力を得ようとしている事から、それは事実だろう。そんな有能な偽物を後継者にすれば、将来完全に帝国を乗っ取ってしまうだろう。皇帝がそんな危険な事をするとは思えない」
「簒奪を伝統貴族は嫌いますからね」
宰相は話を纏めた。
「それでは、皇帝は本物のアンジェリーナ皇女を用いて帝都を把握しつつある、そして偽皇女を守る為にフレドリック殿下は独断でレノックス公と結んだ可能性がある、だからモントローズ公としては、帝国への出兵は断固反対、その内容で至急、私が陛下に報告すると言う方向でよろしいですか?」
議長もヴィンセントも頷いた。
三者が擦り合わせの時間を消費している間に、フレドリック王子は父王に私的な謁見を願い出た。
「急ぎの用件とは何か?」
「はい。本日貴族議会にて対帝国政策を話し合う議案があると聞き、出席して参りました。その席で対帝国の強硬路線を望む者が多い事を知りました。議決は棄権者が多い為に否決されましたが、棄権した者も帝国には不満を持っていると思われます。ここは帝国に対して融和策から強硬策に転換する時期かと思い、上申いたします」
ウィグムント王は議会の仔細な様子は宰相から報告がある筈なのでそれを待つつもりだった。一方、年長者に従う傾向が強いフレドリックがここまで独断的な判断をする事には、驚く以前に背景を疑った。
「それでお前にどんな利益があると言うのだ?」
「私の利益など関係ありません。王国貴族の半数近くが帝国に反感を持っている昨今、方針転換が必用だと申し上げております」
ウィグムントはフレドリックをしばらく見つめていたが、息子の表情が頑なに見えた為、一度結論を下した。
「現時点で、帝国と敵対する大義も敵対出来る国力も無い。だから方針転換の提案については差し戻す。敵対するべき大義と、勝てる理由を私を説得できるレベルで用意出来ない内は、その提案の展開を禁止する。もしお前がこの禁止令を守らないなら、その責任は全て自分が負わねばならないと心得よ」
「分かりました。考えさせてください」




