表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/73

9−5. 波乱の貴族議会

 水曜の朝、フレドリック王子は貴族学院に侍従を走らせ、欠席の連絡を入れた。そして自分は貴族議会に向かった。


 フレドリックから議会出席願を受け取った議長は困惑した。開催前に傍聴を申し入れれば王子でも傍聴は可能だが、傍聴ではなく、王子としての出席を申し入れて来たからである。


 空いている来賓用の待合室で待つフレドリックを、議長は訪問した。

「殿下が出席される事は貴族議会にとって光栄な事ではありますが、この度は如何様な事で出席をご希望なのでしょうか?」

「本日、重大な案件が議論されると聞いている。王子として内容の確認が必用と考えた。指名を受けなければ特に意見を述べるつもりはないから、出席させて欲しい」


 議長にとって本日の重大議案と言えば、対帝国の外交姿勢の議論である。将来王弟として王を支える予定のフレドリックが出席して今後の事を学ぶのは王国の未来にとって良い事を思われたので、議長は出席を許可した。


 外交に関する議題提案を行ったのは北東部の貴族、ロジアン侯爵だった。

「帝国皇帝は我が国に偽皇帝を送り込み、歓待する我が国を愚弄した。今も我が国に留学中の皇女に対し、国内で偽皇女を立てて正妃の息子に対抗させていると言う。この様に次々と嘘を吐く恥知らずの隣国元首に対し、我が国は毅然とした態度で対応すべきではないだろうか。王国貴族諸君に広く意見を求めたい」


「王国貴族議会名義で抗議文を送り、釈明を求めたい」

「後継者に偽者を立てる様な男は、もはや元首として敬意を表す必用はない」

「皇帝の血統でない偽者を後継者に立てると言うなら、もはや正統な帝国ですらない。偽の帝国として最早暴力を持って対処すべきではないか!」


 タカ派の根拠の無い勇ましい言葉に貴族議会議長は眩暈がした。馬鹿が揃って大言壮語を表明するのが伝統ある王国貴族議会とは、と悲しくもなった。


「帝国が二分されていると言うなら、この機に内応する勢力と結んで圧力をかけ、関税引き下げを要求してはどうだろうか」

「いっそ帝国内の一大勢力と結んで、戦果をもって各種利権を求める事も可能ではないか」

「例え帝国の一部とでも結んで、一大商圏を形成する事が出来れば、その経済圏の成長で遠くない未来に王国は皇帝勢力を上回る事が出来るのではないか」


 元商人系の新興貴族の話す絵空事にヴィンセント・モントローズは失笑した。既に帝国の後継者争いは決着が付いている。血統的に正統な後継者を推す事が出来ないレノックス公が実権を握る事があったとしても、それは簒奪だ。レノックス公の影響力のある南部以外の支持は得られない。


 何より王国・帝国最強の魔法師であるエグバート帝に対抗出来る者はいない。その皇帝の命を受け、暴力による帝都の治安維持に成功した『彼女』に指揮能力で勝る後継者候補はいない。その彼女の智謀も今更だ。帝国への派兵はレノックス公に時間稼ぎをさせるだけで、その先に明るい未来は無い。


 過半数の貴族議会出席者が、タカ派と新興貴族の空しい発言を冷ややかに聞き流している時、この議案の提案者であるロジアン侯爵が発言した。

「貴族議会議員の方々から対帝国の強硬意見が出ているが、ここで王国の未来を担うフレドリック殿下にご意見を伺いたいと思う」


 強硬意見の数々にフレドリック殿下が上手く反論出来るかを議長は懸念したが、殿下自身が議長を見て頷いた事から、殿下に発言を依頼した。


「貴族議会の議員諸兄の意見、その発言の裏にある帝国への感情については察するに余りある。一度は皇帝として偽者を送り込み、今度は王都留学中の皇女が偽者で、本物は帝都にいると言う。真実はともかく、二度も王国を愚弄したと言う事だ。王国はその威信に懸けて断固とした処置をとるべきと考える」


 タカ派並びに新興貴族から喚声と拍手が上がった。一方、フレドリックから強硬派を宥める理性的な発言を期待した議長とヴィンセントは何が起こったのか一瞬分からなかった。


「殿下からも頼もしいお言葉をいただいた。議長、対帝国強硬政策の推進について議決を取りたい」


 その言葉を受け、議長はむしろ反論する貴族を求めてヴィンセントを見たが、ヴィンセントは首を振った。また、慎重派の伝統貴族もヴィンセントを見たが、やはりヴィンセントは首を振った。


 ここで『彼女』がスチュアートに託した警告を思い出したのだ。

『王子が帝国に出征するのではないか』

既に大使館による説得を受けてフレドリックの意思が固まっているとしたら、ここで議論をして意固地にさせるのは得策では無かった。


 だから、ヴィンセントは一言告げてから議長を促した。

「議長、私としては王国の最高指揮官である陛下の意見を伺わずに対外国強硬政策の推進の決を採る事には強く反対する。とはいえ、提案者が議決する事を望む以上、決を取る事には賛成する。王国貴族の忠誠心に期待する」


 そう、フレドリック王子は父王に忠実であるとは思われるが、この件で王が強硬姿勢を示した訳では無い。そう印章付けてから決を取る必用があった。


「それでは対帝国強硬姿勢を採るべきと考える議員は挙手を願います」

挙手した者は議員の半数を越えなかった。

「それでは否決すべきと考える議員は挙手を願います」

これも半数を越えなかった。


 棄権した者が多かったのだ。とは言え、否決すべきと挙手した者の方が多く、議案は否決された。

 出席を促された以上、役とセリフがあるだろう事ぐらいは理解しているフレドリック。でも、それだけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ