8−7. 正妃の息子
帝城の第二謁見室にヴィクトリア妃とエゼルウルフは連れて行かれ、一段高い壇の上に座る皇帝エグバートと対面した。、
皇帝が一段高いのは良いが…その向かって左後方に皇帝騎士ライサンダー・マックスウェルが控えているのも問題ない。皇帝の向かって右側に近衛の制服を着た少女、アンジェリーナ皇女とその護衛らしき近衛騎士が立っているのがヴィクトリアに敗北感を抱かせた。
そしてヴィクトリア達と皇帝の間の横にはエルザ皇女とグレーズ皇女が立っていた。それもヴィクトリアを苛つかせた。
(あなた達がしっかり騎士達を引き付けないから、こんな事になったのでしょう!?)
そして、皇帝エグバートが口を開いた。
「ヴィクトリアよ。釈明せよ」
ヴィクトリアは小さく震えながら答えた。
「帝都に騒動が増えている事から、レノックス公と相談の上、一度帝都を離れる事にしたのです」
「私にも近衛騎士団にも何の相談も無く、その様な事をすれば咎められるのは分かっていただろう?」
「それでも、皇太子となるエゼルウルフの身が何より大事ですから!」
「妃の行動は制限され、護衛と言う名の監視に常に晒される…理由は分かっているだろう?」
「私になど興味が無い癖に、何を仰られるか!」
「興味が無い訳では無いが、お前達の方が拒否をしているだろう?」
「興味が無いからお会いするのに身の危険を感じるのではないですか!」
「とは言え、妃と息子が皇帝の前に姿を現したがらなければ、いらぬ噂を生むのも当然だろう?」
「噂如きで処罰をするとでも言うのですか!?」
「噂だけでは出来ないが、実際咎められる行動をされれば処罰せざるを得まい」
「……」
エグバートはエゼルウルフを見た。エゼルウルフはこの場に連れられてきてから、俯き加減のままずっと頬を膨らましていた。
皇帝は横を向いてアンジェリーナを見ながら尋ねた。
「お前はどう見る?」
「私の判定では異を唱える方がおられるでしょうから、御典医に問われるのをお勧めします」
エグバートは御典医である聖魔法師を見た。
「判別せよ」
「それでは、失礼いたします」
御典医はエルザ達とは逆側に立っていた。ヴィクトリア妃の前を通り、エゼルウルフに近づき、顔と髪に手を近づけ、聖魔法で手のひらを光らせた。ヴィクトリアの震えはエグバートにも、アンジェリーナにも見える程だった。
御典医は口を開いた。
「毛髪は毛根とは異なる性質をしております。瞳も後天的に操作された形跡が見られます」
エグバートが尋ねた。
「明確な証拠はあるか?」
「聖魔法師以外には説明出来ない事ですが、継続的な聖魔法による操作がなければ、元に戻ります。1カ月ほどの隔離で明らかになります」
その間、エゼルウルフはずっと頬を膨らましたままだった。流石にエグバートも呆れて一声かけた。
「エゼルウルフよ、名と誕生日を言ってみよ」
ここ数年で初めて、エゼルウルフは皇帝の前で頬を膨らますのを止めた。
「エゼルウルフ、4月10日生まれです」
エゼルウルフは喋り終わるとすぐ頬を膨らましたが、喋っている間は頬骨が出ている事が明らかになっていた。ちなみにエグバート、アンジェリーナ、ヴィクトリア、エルザ、グレーズの全員は細面で頬骨が目立って出ている者はいなかった。
そんなエゼルウルフを見て、グレースはへたり込んでしまった。噂が本当であると知らされてしまったから。隣に立つエルザはグレースの肩に手を触れたが、グレースは立ち上がれなかった。
「ヴィクトリア、釈明を聞こうか」
「釈明などありません!釈明する事などありません!」
「なら、良い。御典医の勧めに従い、お前達を西塔に1カ月間隔離する。息子と別の部屋での生活となるから覚悟せよ」
「お待ちください!実の息子を理由も無く噂だけで罰するお積りですか!?」
「理由は今垣間見えた。それを明らかにする為に1カ月待つ」
「その様な不公正な事をなされば、人心は離れますよ!?ご一考をお願いします!」
「…思えば、お前の気持ちは20年前に離れていたのだろう。跡継ぎの事でお前が苦しんでいる事に充分寄り添えなかった事は済まぬと思っている」
「今更そんな事!」
「もう言葉でどうこうする時期は過ぎた。1カ月後に処分を決める。下がれ」
「結婚して24年尽くした正妃に対する扱いがこれですか!人でなし!!」
「思えばエゼルウルフが生まれる前には、私とお前の関係は壊れていたのだろう?私にも責はあるが、18年間私と距離を置いたお前の行いが今の関係を生んだ事は自覚せよ」
「私がそんなに悪いのですか!?私がそんなに憎いのですか!?」
「息子と言われた子供を久しぶりに近くで見れば、髪の色も目の色も、顔の形も違うとなれば罪に問われるのは当然だろう?」
「鬼!悪魔!」
「姦婦に言われても何とも思わないぞ」
皇帝が妻に何らかの愛情を感じるタイプじゃないですからね…仕事人間ってのはこんなもんじゃないかな、と。




