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8−5. 皇女達の対峙 (3)

 エルザ皇女は気付くと青い空にまばらに雲が浮かんでいるのを見ていた。

「?」

肩・腰・足・腕に痛みを感じて、自分が何をしているのかを思い出そうとした。

そして、空からもう雨が降って来ていない事に気づいた。

(雨…そうだ、決闘!)


 痛む足腰を気にしながら周囲を見回すと、30ft先に倒れている女性に男装の少女が近づいて行くのが見えた。


 アンジェリーナの前には、足を開いてスカートをまくれ上がらせて倒れているグレース皇女が気絶していた。だから彼女は小さく溜息を吐いた

(皇女を名乗るなら、気絶する前に足を閉じてスカートを抑える事ぐらいしなさい。淑女として恥ずかしいでしょう)

そうしてアンジェリーナはグレースの足を閉じ、スカートを下してやった。


「や、止めて!その娘は何も知らないの!!」

エルザは痛む足腰で急いでアンジェリーナとグレースの間に割り込もうとしたが、足がもつれて何度も転んだ。


アンジェリーナとしては不本意だった。

(そんなに私が極悪非情な人間に見えるのか)

だが、口を出たのは非情にも問い詰める言葉だった。


「それでは、エルザお姉様なら何かご存じだと?」

「…何も、知らないわ…でも、答えられる事なら何でも答えるから、その娘だけは助けてあげて!」

「では、一つ。今回の旅行と称してレノックス領に逃げ出す策は誰からの指示ですか?」

「お母様から手紙で指示があったわ」

「お二人に?」

「私にだけよ」


「それではもう一つ。エゼルウルフ氏とはどのくらいの時間間隔で顔を合わせていますか?」

「…最後に会ったのは3年前だと思うわ。言葉を交わした記憶はずっと前から無いし…」

「髪の色、瞳の色、その他は陛下と似ていますか?」

「金髪碧眼だから、色合いは一緒だと思うけど…顔全体が似ているかどうかはよく覚えていないわ」


「ふむ…それではもう一つ。レノックス公もしくはご子息と最近話をする機会はありましたか?」

「一年以上ないわ。殿方は女に政治の話などしないでしょう」

「立ち位置と役目で話はすると思いますがね。無いなら結構」


 エルザはその言葉にもやっとしたから逆に質問をしたくなった。

「立ち位置って?」

「複雑な役目があるならその旨伝えるでしょうよ。あなた方の立ち位置だから話は最小限だったのでしょう」

「…あなたは私達の立ち位置をどう思っているの?」


 ふぅ、と音が出ない程度の小さな溜息を吐いてから、アンジェリーナは口を開いた。

「どうして私があなた方の阻止にやって来たか分かりますか?」

「旅行と称して帝都を脱出すると思ったからでしょう?」

「そうですが…皇女を止めるには皇女が必用だったと言う事もあります。一方、例え妃でも許可なく帝都を出ようとすれば近衛騎士団長でも止められます」


 エルザはその言葉の意味する事を知り、暗澹たる気持ちになった。

「つまり、今頃お母様達が帝都を出ようとしていると言うの?」

「ええ」

「……つまり、私達は陽動で、お母様達が帝都を離れる為の捨て石だったと言うのね?」

「捕まる事が前提であった事は確かでしょう。だから、仔細を伝えなかった。知らなければ秘密を洩らし様が無いし、罪も限定されるから」


 エルザは俯いてしまった。

「…それで、私達はどうなるの?」

「エゼルウルフ氏の疑惑とその隠蔽については包み隠さず証言する事ですね。レノックス家側の一番の罪はその点にあります」


「…罪、と確定しているの?」

「今まで隠していた。隠しようがなくなったから帝都から逃がそうとした。次に行われるのは偽物を立てる事でしょう」

「…もう隠しようが無くなったと言うの?」

「見れば分かるでしょう」


 アンジェリーナ側、それは皇帝側で、それ故に万全の体制で正妃とその息子を捕らえようとしている事がエルザにも分かった。


 母の破滅が近づいている事に彼女は震えあがった。

 続いてヴィクトリア妃の脱出話になります。

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