8−4. 皇女達の対峙 (2)
エルザとグレースは西側に立ち、アンジェリーナは東側に立った。その距離は60ftあまりで、その中間から少し北に寄った場所に近衛の服を着た男が立っていた。
「スチュ―、我々の中間にコインを投げて頂戴。お姉様方、コインが地面に着いたら開始です」
スチュアートは一声かけてからコインを指に乗せた。
「準備は良いですか?それでは、投げます」
指で弾いたコインは、エルザとグレース、対峙するアンジェリーナのちょうど間に落ちた。
その瞬間、アンジェリーナの上に巨大な魔力の波導が起きた。それは上空に昇って行った。エルザもグレースも身構えたが、彼女達の周囲には何も起きなかった。
「大した事はしておりませんが、時間は限られていますよ。お気兼ねなく攻撃をしたらどうです?」
エルザはアンジェリーナが何をしたか気になったが、いずれにせよ何もしなければ勝つことも出来ない。
まだ興奮が醒めないグレースの魔法が先に発動した。高速のアイスランスがアンジェリーナに2本向かった。それはアンジェリーナの10ft手前で粉砕された。
次いでエルザの手元に光が固まり、アンジェリーナに向けて射出された。フレームランスだった。それもアンジェリーナの10ft手前で爆発した。
(彼女の10ft先のエアーウォールの魔法干渉力に負けているのだな)
スチュアートの評価はそれだった。
正妃の娘達はそれぞれの攻撃魔法を最後まで誘導しようとしたが、アンジェリーナの障壁を破って誘導を続ける事が出来なかった。つまり、この距離での攻防ではアンジェリーナが傷付く事はないと言えた。
グレースはアイスウォールを自分の目の前からアンジェリーナに向けて伸ばしていった。その形成速度は皇女の名に恥じないものだったが、やはりアンジェリーナの障壁に阻まれて止まった。それを見たエルザもファイアーウォールをアンジェリーナに伸ばしたが、同様に障壁に阻まれた。
更にグレースはアンジェリーナをアイスボックスの魔法で囲もうとしたが、魔法干渉力の差で形成出来ずに水分が霧散した。エルザとしても、このまま続けても阻止されるだけとも思ったが、あちらからの攻撃がない事から攻撃を続けるメリットを感じた。
エルザは今度はフレームランスを2連射したが、今度は互いの中間地点で阻止され、爆発した。
「二人で交互に攻撃をしていては駄目よ!同時に攻撃を!」
「はいっ!」
エルザはアンジェリーナの北側にファイアーウォールを固めた巨大は炎を柱を形成した。一方、グレースはアンジェリーナの南側にアイスウォールを固めた氷の柱を形成した。
それらの中間にアンジェリーナがいたから、或いは炎に焼かれ、あるいは氷に閉じ込められる筈だった。だが、火と氷の相性の悪さ以前に魔法干渉力の違いがあったから、それらの魔法がアンジェリーナを害する事は無かった。アンジェリーナの周囲を風がぐるりと回ったかと思うと、すぐに二人の魔法は跡形もなく吹き飛んで行った。
『手詰まり』、エルザとグレースの頭にはその言葉が浮かんだ。それでも強がりを言うなら、『そちらからは仕掛けないの?』と挑発する事も出来た筈だった。けれど、二人の前に涼しい顔で立っているアンジェリーナの前で、その言葉を口にするのは恐ろしかった。二人はアンジェリーナの『何なら三人でも良い』との言葉がはったりでは無い事を今の攻防で悟っていた。
ここで、三人の間に雨粒が落ちて来た。
「え?」
エルザは思わず上を見た。薄い雲が低い空に浮かんでいた。そして、上空では何か物音がしていた。
アンジェリーナは二人に不敵な笑顔を見せた。
「残念。時間切れ」
ゴオッという轟音と共に、上空から突風が吹き下ろされた。アンジェリーナの周囲から再び巨大な魔力が発せられ、突風は西側に向かって行った。
「なっ!?」
エルザはそれでも風が起きた事は気付いたから踏ん張ろうとしたが、吹き飛ばされて視界がぐるりと回った。 グレースは事態が判断出来なかったから、ただ吹き飛ばされた。二人は濡れ始めていた地面の上を50ft以上転がって行った。
風が止んだ時、二人は地面に倒れて動かなかった。
箱入りさん二人では、修羅場を潜ってきたアンジェリーナの敵ではないでしょう。




