8−3. 皇女達の対峙 (1)
皇女一行の馬車が帝都近郊の市街地を通り過ぎた後、幹線の先に第一・第二騎士団の旗を掲げた集団が布陣していた。
そのうち4騎が皇女の護衛の騎馬に近づいた。
「皇女殿下の車列を妨げるとは何事か!速やかに道を開けよ!」
「レノックス家の護衛如きが、騎士団の治安維持活動を妨げる事は出来ない。速やかに停車せよ。指示に従わない場合、謀反の意思ありと判断する」
強気の騎士団に対して、数に劣るレノックス家の護衛達では太刀打ち出来ない。停車した皇女の馬車に2騎が近づいて行った。
「帝都内外で治安を乱す活動が盛んになっております。取り急ぎ帝城にお戻りください」
レノックス家の護衛が反論しても、騎士は取り合わない。これを聞いていた第一皇女エルザが扉から顔を出して騎士に命令しようとした。
「これは帝室管理庁の認可を得た移動です。誰の権限で止めようと言うのです?」
もう1騎が近づいて来て声を出した。
「私の権限で停車させているのですよ。エルザお姉様」
それは近衛の制服を着たアンジェリーナだった。
エルザの心臓の鼓動が激しくなった。もう一年会っていないとは言え、アンジェリーナの整った顔と冷たい声は間違え様がなかった。しかし、正妃の娘が側妃の娘に怯む事は出来ない。だからエルザは強がって発言した。
「あなたに姉と呼ばれる筋合いはないわ」
「ほう、皇帝陛下が娘と認める私を血の繋がった妹と認めないのですか?陛下とはもう縁を切るおつもりで?」
「そんな事は言っていないわ!」
取り乱したエルザが落ち着くのをアンジェリーナは待った。停車させた以上、もう急ぐ必要はない。
「それで、どの様な理由で私達を停車させたの?」
「現在、帝都内数か所で放火が行われております。鎮火に向かっていますが、本日帝都を出発する人々の陽動で行われたと考えられます。よって、追撃を受けない為のあなた方の謀略と疑われています。至急、帝城に戻って待機をお願いします」
「一体、何の証拠があってそんな嫌疑を向けているの?」
「諜報部が前もって、レノックス公の周辺がマフィアと接触しているのを掴んでいるのです。今回の件について、あなた方の証言が必用です。他ならぬあなた方の旅路の陽動として放火が行われているのですからね」
「そんな事を言っても、何も証拠はないのでしょう!?むしろスペンサー家側が破壊活動をしているのじゃないの!?」
「何で宰相が破壊活動をするんですか。責任を問われるのは宰相ですよ。治安維持の」
「それだって何も証拠がないじゃない!スペンサー家が私達に冤罪を着せる為の行動じゃないと言う証拠はないでしょう!?」
「その発言こそ何の証拠もない誹謗中傷でしょう。皇女として他者を誹謗中傷しないという程度の誇りすらお持ちでないのですか?」
「それはあなただって一緒でしょ!」
「埒が明きませんね。この際、決闘で決めませんか。そろそろ誰が父の後継者として相応しいか、白黒付けた方が良いと思いません?」
エルザは流石に息を呑んだ。実力がないと言われているアンジェリーナの方から力で決めようと言って来たのだから。
「恐いですか、側妃の娘如きが。二対一で良いですよ。何なら噂のエゼルウルフ氏も含めて三対一でも良いですが?」
これを聞いたエルザは流石に立ちすくんだ。アンジェリーナはエゼルウルフをもう皇帝の息子と見做していないのだから。
一方、グレース皇女は頭に血が上った。二対一と言われた事にも、もう一つの事にも。
「お姉様、やりましょう!いくら何でも二対一なら!」
「グレース!落ち着いて!」
エルザは言うが、グレースはエルザの腕を掴んで決闘に誘おうとしている。
「エルザお姉様がお嫌なら、グレースお姉様と私の決闘の結果で決めましょうか。お二方が進むか戻るか」
「ええ!一対一でもあなたなんかに負けない!!」
「グレース…」
「お姉様がお嫌なら、私一人でやります!お母様の誇りに賭けて!」
そう、グレースはアンジェリーナがエゼルウルフを侮辱した事で、母親を侮辱したと受け取ったのだ。
「分かったわ。私もやりましょう。アンジェリーナ、決闘の場所はどうするの?」
「展開している騎士の向こう側でやりましょう。どこにも被害が及ばない様に」
エルザはアンジェリーナのその言葉を、二人の姉の実力を正当に評価した発言と受け取ったが、もちろんそんな意味ではなかった。
そういう訳で、帝都を出るのを待って停車させました。




