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8−2. 皇女達の出発

 第一皇女エルザと第二皇女グレースの旅行の申請は帝室管理庁から許可が降りた。旅先で使う服飾類は先行してレノックス領に送られた。レノックス家に従う南部の貴族領に入る前に、3か所の貴族領での宿泊が予定され、その先触れの返事も届いていた。


 馬車は帝室の馬車が準備されていたが、その護衛はレノックス家の手配した者達だった。元々、ヴィクトリア、エゼルウルフ、そしてこの姉妹の宮の使用人も護衛も、レノックス家の息のかかった者しかいなかった。そうして、帝室の紋章の付いた馬車をレノックス家の旗をはためかせた護衛達が守った状態で、二人の乗った馬車は帝城を出た。


 帝都内の南門までの道は規制されていて、二人の乗った馬車を遮る者は無かった。馬車の中で向かい合わせに座った二人の皇女は、不安げに話した。

「また、ここに戻ってくる事があるのでしょうか…」

「さあね。でも、命あっての物種だもの」

「そうですね…」


 二人の馬車が帝都の東西を走る中央大通りを過ぎた頃、西部側の平民向け商店街から黒い煙が上がった。

「西側が騒がしくない?」

「ちょっと確認した方が良いですね」

そう言ったグレース皇女は隣に座る侍女を見た。


 侍女は後ろの小窓を開けて、車室外に立っている護衛に尋ねた。

「何かありましたか?」

護衛はすぐに答えた。

「西の商店街で煙が上がっています。距離はあるのでこのまま南門まで進む予定です」

雲一つない青空に、煙が昇って行った。


「…こんな日中から火災?帝都の治安は本当に悪化しているのね…」

「誰が悪化させているのでしょう…」

「私達に分かる訳がないわ」

エルザ皇女もグレース皇女も、この治安悪化が自分達の陣営の起こしたものではないかと暗い気分になった。


 火が出たのは古着屋の倉庫代わりの潰れた商店だった。その店の周囲がシマであるマフィアのブラウンラット団の三下達が店々に声をかけた。

「おい、お客はすぐ南側に避難させろ!隣の店はバケツリレーを手伝ってくれ!」


 火元になった商店には当時人がいなかったが、持ち主の店から人がやって来た。店内の上水道からバケツで水を汲んで消火にあたったが初期消火にはもう失敗していた。商店街の消火組織はそれぞれの店から一定数の人手を出すのが決まりだったから、マフィアの音頭で次々と水がかけられ、延焼は避けられそうだった。


 続いて平民街から複数の煙が上がり始めた。こちらは日中だから女子供しかおらず、マフィア達が人手を出して消火に当たった。


「おい、お前等早く逃げろ!うろちょろしてると消火の邪魔だ!」

「だって、家財道具も持ち出せてないんだよ!?」

「生きてりゃなんとかなる!だからちょいとどいてろ!」


 次いで貧民街でも煙が上がった。こちらでは火付け犯が見つかり、日中仕事がなかった男達に袋叩きにあった。貧民街は夜に働く者や仕事にあぶれている者も多く、マフィアが音頭を取ればそれなりに秩序立った消火が行われた。


 南門の検問に辿り着いた二人の皇女を乗せた馬車は、検問所に通過許可書を出し、帝都外に出ようとした。ここで検問所の責任者が口を挟んだ。


「現在、帝都内複数個所で火災が発生しております。帝都外で何かあった場合、騎士団が対応出来ない可能性があります。一度帝城にお戻りになってはいかがでしょうか?」

「許可は出ている!お前等は一役人の立場で皇女様方の行動を邪魔すると言うのか!?」

「そこを判断するのも一護衛の権限には余ると思いますよ。皇女様方にご確認をお願いします」

「くどい!」

「口に出さないといけませんかね?たかだかレノックス家の家人如きが皇女様方の安全に関して責任が取れるのか?と言っているのですが」


 帝都で起こっているトラブルが誰かの意思で起こっている以上、ここで時間を取られるのは良くないとエルザ皇女は判断した。だから馬車の扉を開け、顔を出して言った。

「お役目ご苦労様。ですが、問題が起きているからこそ帝都に留まる事で、今後のスケジュールを乱す事が懸念されます。そこに何者かから付け込まれる事を恐れる故、当初の予定通り出発します。よろしいですか?」


 皇女の判断に一役人が口答え出来る訳がなかった。

「皇女殿下の判断を尊重いたします。道中、お気をつけてくださる様、お願いします」

「気遣いには感謝します」


 皇女一行が検問所を通過して、責任者は部下に指示をした。

「予定通り、皇女殿下一行は帝城に戻るという提案を拒否された。日誌に書いておけ」

「はい」

言い方は悪いが、ここでは皇女の判断で旅行を強行したと日誌に書いておく必用があった。

 7月に火事は熱そうです。

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