7−9. 男の生き様
レノックス家の次男チャールズは帝国北部のラトランド公爵領に出かけて来ていた。現ラトランド公爵は臣籍降下した皇帝の弟ディビッドである。
「さて、この様な北の地にまで避暑にでもこられたのかな、レノックスの子息よ」
前口上も述べる前から本題を催促されては致し方ない。チャールズは腹を括った。
「いえ、閣下に帝都までお越し頂けないかとお願いに参りました」
「私が北の領地に籠っている理由を君の父親が知らぬ訳ではあるまい?平地に波瀾を望むのか?君達一家は?」
「いえ、平地に波瀾を望まれているのは陛下と考えます。マーシア王国にアンジェリーナ殿下の留学の視察として偽皇帝を派遣した事件はご存じかと思います」
「ああ、聞いているが?」
「王国側が暗殺者を用意していると情報が入り、それを利用して王国侵攻を行うというのがその時の謀略でした」
「へえ、誰がそんな謀略を考えたんだい?」
「恐れながら陛下と宰相スペンサー候と噂されております」
「…と、誰が噂を流しているんだい?」
「噂の出所は不明です。ですが、火のない所に煙は立たぬと申します」
「それで、あの兄上がそんな行われるか分からない暗殺を利用しようなどと考えると思っているのかね、レノックス公は?」
「暗殺情報はかなり精度の高い情報だったと考えます」
「そんな足元が見えていた暗殺者だったら、もう関係者一同捕まっているだろうなあ。今、暗殺者の背後にいた者達はどうしているのかね?」
「マーシア王国側が隠していると思われます」
「ふん、それで、アンジェリーナ皇女の留学はその陰謀の一部と考えているのかね、君達は?」
「そこまでは私共には分かりません」
ディビッド・ラトランドはしばらくチャールズ・レノックスを見つめていた。チャールズは怯まぬ様に我慢の時間を過ごした。
「それで、私に領地から出て何をさせたいのかね、レノックス公は?」
「我が家の他に南部貴族が陛下をお諫めいたしたく、その後ろ立てとして帝都近郊にお出でいただきたく思います」
「あの兄上の何を諫めると言うのか?」
「正統ならざる後継者選びについてお諫めいたしたく」
「はっきり言い給え」
「陛下は正妃であるヴィクトリア妃の息子であるエゼルウルフ殿下でなく、側妃であるアンリエッタ妃の息子であるアルフレッド殿下を後継者とお考えの様です。その件にて南部も北部も連携してお諫めしたく」
「急に話題が変わったな。王国への侵攻を考えていた兄上が、今度は後継者を急に決めると。あの兄上が一方で戦争を準備し、一方で皇太子選びを強行するなど無理に無理を重ねる人物と思ってか?」
「いえ、そこは皇帝親征ともなれば、皇太子を選ぶ必要がございます」
ディビッドは再びチャールズ・レノックスを黙って見つめた。チャールズは背中に冷や汗をかいていたが、何とか顔に出さぬ様に我慢した。
「まあ、良いだろう。それで、私は何時頃帝都北部に着けば良いのかね?」
「出来ますれば、可及的速やかにお出でいただければと存じます」
「まあ、それなりに準備に時間はかかるが、準備出来次第出れば良いと言うのだな?」
「はい。よろしくお願いいたします」
チャールズ・レノックスがラトランド公の本拠地の城を出た後、ディビッドは部下に準備を下命した。
「最低限の護衛を付けて帝都に向かう。護衛には腹の据わった者を厳選せよ」
その命令を聞いた執事と領地騎士団長はしばらく言葉が無かったが、デイビッド閣下の揺らがぬ表情に覚悟を決めた。
「三日で準備をいたします」
「それで頼む」
ディビッドは葡萄酒の入ったグラスを傾けながら思索した。
(笑わせるな。あの兄上が後継者を決める如きの為に戦争をする等と、誰が信じるというのか。策略を張り巡らすのも兄上の性格に合わない。つまり、レノックス家の者達が勝負に出ざるを得ない状況になったと言う事か…ふふふ、母親の背中に隠れている様な愚図どもではない、本当の後継者が決まったと言う事だ。であれば、旧世代の邪魔者が退場するのも悪くないタイミングか…)
明日から8章になります。




