7−8. 帝都の騒動 (2)
騎士団の商店街出張所で三人目の黒装束の男スチュアートが小柄な者に尋ねた。
「王国で行った貧民の救済策は、こちらで実証済みだったのか?」
「今にも飢え死にしそうな孤児で実験は出来ないでしょう?だから実績のある事をやるしかなかった」
スチュアートのアンジェリーナを見る目が優しい。
「一応、建前を聞こうか。貧民の孤児を救済する政策は何処に向かうのか?」
「大都市近郊の貧民というのは、都市近郊の労働力の調整弁なのよ。彼等がいなければ、大都市近郊の公共事業も人手不足で動かなくなる。しかも、土木工事なら公金を使うから予算が限られ、人件費は絞られる。だから、貧民の救済事業は、文字通り社会の底辺を支える事業なのよ」
「予算を使っての救済は考えなかったのか?」
アンジェリーナは苦笑いした。
「糞親父が金を使うなと言ったのはあるのだけれど…師匠達も公金を使う救済は無用と考えていたのよ。救済事業に公金を使えば、役人にそれを管理する役職が与えられる。役人に給料を払う分、貧民救済に使われる真水分が減る。だから、貧民救済事業は役人が管理する方向ではなく、規制緩和と非課税で行うべきだと考えているの」
「しかし、非課税にすればその分売買が盛んになるから、インフレになるのではないか?」
「だから、雑穀と効果が薄い民間療法の薬草を使うの。安物に投資するより、高価な物に投資する方が投資効果が高い。そうして投資家達が投資しない隙間商品の栽培を奨励するのよ」
「なるほど、貧民救済事業こそ奥が深い」
「普通の政治家は市民にアピールする事を考えるから、新しい政策を打ち出し、新しい役所を作る。そういう役所とその金の受け皿になる何らかの団体が出来ると、それはもう二度と廃止出来ない社会の贅肉になる。そうして肥大化した国家は税金を上げ続ける。それが革命の芽を育てるのよ」
「手厳しいな」
「糞親父も歳出のスリム化は考えているのだけれど、まあ任せた宰相が逆に役人をバックに歳出拡大論者になっているのよ」
「ああ、宰相としての立場を確立したいのだな」
「皇室やら王室以外だと、しょせん家の利益が優先されるものだから」
「うちの親父はまだマシだろうが。いざと言う時に王室を止める為には貴族に愛想良くしないといけない。そうしてやりたい事が出来なく成り兼ねないのだがな」
「帰ったら手伝ってあげる事ね」
スチュアートはフッと音を立てて笑った。
「帰らんよ。愛しい君のそばにずっといるのだから」
アンジェりーナは顔を顰めて横を向いた。
ゲッコー一味を名乗るマフィアの一部は拘束されたが、元々マフィアは抗争がある。だから一部の事務所に襲撃やガサ入れがあっても、他の場所で再建が出来る様にアジトを分散させていた。日暮れ後は帝都外に出る事は出来ないが、彼等は非常時の連絡として帝都の外壁の内側から鏑矢を射る事にしていた。
「帝都内での火付け騒ぎは失敗した様だな」
「お貴族様達がヘマをやって足が付いたんだろうよ。どうする、続けんのか?」
「やるしかないな。帝都近郊のマフィアなんぞ、お貴族様達からすれば一捻りで皆殺しに出来る底辺だろうよ。死になくなければやるしかない」
「逆にヘマをしても助けて貰えねぇぜ?使い捨てだからな、あいつらにとってマフィアなんか」
「やらなければ皆殺しだろ。やるしかない」
「全く、レノックスなんて貴族の癖にゴミだな、人として」
「依頼主のバックがレノックスとは限らんだろ」
「宰相がスペンサーで、こっちは治安維持が仕事だから破壊活動なんかしねぇ。だから騒ぎを起こしたがってるのはレノックスに決まってるだろ」
「あまりでかい声で言うなよ」
「どっちにせよ未来は明るくねぇ。文句ぐらい言わせろ」
帝都内の第二の勢力を持つゲッコー一味の残党は、帝都近郊のまだらの蛇一家と共に帝都近郊の上水道取水口に毒を投げ込む作業に向かった。そこには第二騎士団が待ち構えており、三分の一は斬り殺され、三分の一は捕縛された。残り三分の一は隠れていた諜報部員に捕まった。
つまり、破壊活動は諜報部に調べられており、レノックス公の影響力のない騎士団・諜報部の部署で対処された。だから皇帝エグバートは諜報部や騎士団の把握を第一に進めさせたのであり、そうして情報が得られなくなれば、レノックス公の破壊活動の成功率も下がる事になった。
さりげなくスチュアートを出して恋愛ジャンルとアピールしております…と読者が思うかどうか疑問。




