7−7. 帝都の騒動 (1)
レノックス公爵家に追随する貴族に、バークシャー伯爵家がある。同じ南部の貴族という事もあり、正妃であるヴィクトリアの息子が皇太子になる事を支持していた。
帝都の公式な暴力組織からレノックス家の影響力が排除された事から、レノックス家はエゼルウルフを南部に避難させる事にした。その理由として帝都の治安悪化が必用であった。だからバークシャー伯爵の侍従が帝都第2の勢力を持つマフィアに話を持って行った。
「お前等にみかじめ料を払っている連中は放っておいて良い。敵対組織にみかじめ料を払っている連中だけでいいから、火付け、打ち壊しで被害を与えよ」
「へいっ。お貴族様のお墨付きで暴れられるんならやらせていただきましょう。前払いでこれだけいただけるんなら充分でさぁ」
「そう言わずに成功させろ。成功報酬は倍出そう」
「もちろん、ご期待には応えまさぁ」
日暮れ後の繁華街の裏手で、怪しい人影が火打ち石を打っていた。そこに二人の男が現われた。
「おいっ!何をしていやがる!?」
火打石を捨てて、屈んでいた男は逃げ出そうとしていたが、二人がかりで抑え込まれては無理だった。男は縄で縛られ、商店街の方に連れて行かれた。
店の灯りが消えた古着屋の嵌め戸の前で、男が屈んで火打石を打っていた。持ち込んだ藁に火が点きそうになった段階で、男二人がやって来て声をかけた。
「何してるんだよ、お前」
火打石を打っていた男は石を男達に投げつけ、逃げ出した。しかし進路方向の裏道からまた違う男が現れ、逃げようとした男を張り倒した。
「何しやがる!?」
「ああん?火付け犯は火あぶりなんだ。捕まえようとしているに決まってるだろ?」
そこに二人の男が駆けつけて倒れている男を縛り上げた。
「じゃあ、騎士団に突き出してやるぜ。火あぶり、火あぶり」
騎士団の商店街出張所には既に5人の火付け犯が拘束されていた。黒装束の3人組が出張所の奥で報告を聞いていた。
「閣下、これで6人捕らえました。一先ず第一騎士団内の留置所に移動させます」
黒装束の者の中で、一番体格の良い男が応えた。
「今はただの連絡係だ。閣下はよせ。しかし、ゲッコー一味が取返しに来る可能性がある。警護はしっかり頼むぞ」
「了解しました!」
黒装束の者達の近くに、顔に傷のある悪相の男がいた。体格の良い黒装束の男が一声かけた。
「お前も今はブラウンラット団の親分だっていうのに、協力させて済まないな」
「何を仰る。大恩ある大親分のあんたに頼まれたら断れねぇですよ。しかもこれまた恩のあるお嬢と一緒に頼まれた事が街を荒らす屑どもを捕らえる事ってぇなら、頼まれるまでもねぇ事ですよ」
「大親分などとはな。騎士として裏の人間の言い分も聞いていたのに過ぎないが」
「とんでもない。俺達、裏の人間はとかく罪を押し付けられるものだから、あんたの様な人がいなかったら、堅気の皆さんに迷惑をかける輩になってただろうよ。あんたには感謝してもしきれねぇ」
黒装束の中の一番小柄な者が口を開いた。
「私の方は恩など売ってない筈だけど?」
「何言ってるんだい。あんたと爺様達が広めた薬草で毎年死人が減ってるんだから、その恩は山より高いって」
「まあ、どちらにせよ今回騎士団じゃなくマフィアが動いてくれているおかげで相手の警戒心を招かずに済んでいるわ。一段落したら、礼に冷やしたエールを樽で贈るわ」
「そいつぁ有難てぇ。子分どもは何より酒を喜ぶからな」
中々上がらない火の手に、バークシャー伯爵は侍従を走らせた。
「おい、どうなっているんだ!?」
「済まねぇ、旦那。どうやら全員ヘマをしたらしく、誰も戻って来ねぇ」
「一体、何人で動いているんだ?」
「逃げ足の早い奴中心に20人は火付けに回ってるんだが、戻って来ねぇ」
そこへ騎士団が乗り込んで来た。
「ゲッコー一味!火付けの容疑で全員逮捕する!」
バークシャー家の侍従は逃げようとしたが、逃げ足の早いマフィア達を警戒して裏通りで待っていた騎士に拘束された。
「待て、私は伯爵家の侍従だ!マフィアじゃない!」
「申し訳ないが、誰かが火付けをマフィアに依頼した、と密告があったんだ。参考人として拘束させてもらう」
かくして、この日の晩の破壊活動は阻止され、破壊活動を行っていたゲッコー一味の主用メンバーは拘束された。
恩は海より深い気もしますが…帝都近辺には海がないので、山になりました。山より高いとも言うからいいかな。




