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7−6. 皇帝の述懐 (2)

 ここで爺どもがやらかしてくれた。貧民街の救済の為、農家の補助食糧に過ぎない雑穀と、民間療法の薬草を植える事を奨励しやがった。それは政策批判だぞ、分かってやってるだろ?仕方なく、爺どもに洗脳された娘の批判を聞く事にした。


「言いたい事があれば言ってみろ」

娘は一瞬口籠ったが、はっきりと言った。

「構うつもりがないなら邪魔をするな」


 愕然とした。これには二つの意味がある。

『娘に構うつもりがないなら、邪魔をするな』

両親に対する拒絶の言葉である。言葉に含まれないが、子供を放置する親への非難である。


 そしてもう一つの意味がある。

『貧民救済の政策がないなら、邪魔をするな』

無策の権力者への批判である。邪魔をしなければ、自分達が救ってやるという自信もこもっている。


 親として、権力者として、これは言動を改めねばならないと思った。

「良い。ならやってみろ。但し、権力を使う事も、金を使う事も許さん」

「最初っからそんな物は当てにしていない」

「とは言え、皇族が間違った事をしてはならん。だから、今後、定期的に報告する様に」

「邪魔をしないならそのくらい」


 爺どもめ、さすがに出世も名声も放り出して学問を続けた反骨漢が揃っている。よりにもよって皇女を反権力者に教育しやがった。まあ、俺も親父には随分反抗した。そういう会話で親子共々成長するのだろう。多分な。


 さて、さすがに帝都内で実験をされると不味い。アンジェリーナの早熟がバレる。決まった時間なら検問を通らずに帝都外に出る許可を内々に出した。


 連中は2年でほぼ策を決めた。3年目に帝都外で貧民達に育てさせた雑穀は乾燥にも比較的強く、薬草は効果は薄いが安価に販売が可能だった。その結果、アンジェリーナが12才の冬、流行り病の平民の死者は半減した。この策は王領でも試行する事になった。


 ここで暗殺剣の教師がとんでもない事を言い出した。

「皇女に修了免状を与えたい。ただし、その前に4人斬ってもらわねばならない」

……まあ、これもあいつに対する課題だ。やらせろと許可した。


 するとアンジェリーナは罪人を斬る許可を貰いに来た。正解だが、どうせなら気に入らない上位貴族を辻斬りするくらいしてみろよ。もみ消してやると思っていたのだが。


 流石に人を斬るのはあの不遜な子供を落ち込ませたらしい。まあ、貧民を救おうなどというガキだ。理想と現実の差を見せられたなら良い教育だ。


 ところが暗殺剣の教師は、そのままアンジェリーナを部下として諜報活動に使い始めた。

「実戦訓練です」

教師は言うが、お前、そいつが皇女だって事忘れてるだろ!?


 一方、第一皇子アルフレッドを守るアンリエッタは全くアンジェリーナを構う気がない。スペンサー家の紹介で皇女宮に通う家庭教師達の皇女に対する評価も低いままだ。スペンサー家がそういう指示を出している事は明らかだ。


 では、アルフレッドが評判通り出来が良いか、と言えばそうは思えない。ヤツの10才の誕生日に俺とアンリエッタ、アルフレッドとアンジェリーナの4人で誕生日を祝う食事会を行った。


 その席でアルフレッドは我慢が足りないらしく、3回席を立とうとした。それを見たアンリエッタが席を立ってアルフレドをあやしてなんとか座り直させた。その間アンジェリーナはしっかりと礼儀を守って食事を食べ続けた。こいつはその時まだ8才になりたてだった。どちらの出来が良いかは明らかだ。


 その後も毎年、ヤツの誕生日に食事会をやってやったのに、毎年我慢が足りずにアンリエッタがあやす始末だ。その間アンジェリーナはお上品に食事を食べ続けた。


 後から聞くと、『普段の食事より出来がずっと良い』から黙々取りこんだとの事だ。熟熟、スペンサー家関係者のアンジェリーナの扱いが酷過ぎる。まあ、下手に介入すると『贔屓』と批判されて娘が暗殺され兼ねない。


 アンジェリーナと爺どもは貧民街の教育にまで手を伸ばし始めた。帝国正教会が平民向けの学校を開いており、出来の良い子供を将来の聖職者として囲い込みをやっているのは知っている。帝国では貴族も裕福な商人も、家庭教師を雇って子供の教育をさせるのが普通だ。学校組織は俺も分からん。


 調べてみると、マーシア王国には貴族学院があり、魔力のある平民も通っていると言う。参考になるのではないかと思ったが、親の心子知らずだから、あいつも反発するだろう。仕方なしに適当な理由を付けてみた。


「両国友好の為に行ってみろ。ついでに裏を調べて、平和を続けたいのか、戦争をしたいのかを確認しろ」

アンジェリーナは不服そうだった。


 分かってるぞ。貧民の孤児達を大切に思っているから離れたくない事くらい。だが、愛民は煩わさるべきなり、時には距離を取って己を見直してみる事も必要だ。


 そうして送り出したのだが…スペンサー家もレノックス家もこの機にアンジェリーナを除こうとした様だ。そこまで恐れるほどお前等の皇子は出来が悪いのだな…

 第一皇子アルフレッドは魔力的にはそれなりに優秀な様ですね。だからパパが怖い。

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