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6−7. 夜の花

 離宮から王宮へ向かう通路で、金髪の少女の進む前に貴族らしい身なりに外套を羽織った男が現われた。少女は道を外して横切ろうとしたが、男が口を開いた。


「惚けるのは無しだ。君に私の魔力が分かる様に、私にも君の魔力が分かる」

少女は男に視線を向けて言った。

「話があるなら付いて来なさい」

少女は通路から外れて歩きだした。


 人目が付かない場所で少女は振り返り、人差し指を軽く口に付けた後、軽く腕を払った。それが防音魔法をかけたというジェスチャーだった。


 スチュアートが口を開いた。

「君が皇帝の命令で破壊工作をしていたとは思わない。何が目的だったんだ?」


 スチュアートの前で、少女の金髪が月明りに輝いていた。彼女は占い師の時の様な鼻の頭の丸みも、顎の丸みも、そしてもちろん、額の傷も無かった。白い肌も、魔力で薄く輝くエメラルド色の瞳も、この夜の世界で彼女だけが光り輝いて見えた。


 夜空には月が君臨し、その光を浴びたこの少女が地上に君臨している。彼女の美貌に目が眩みながらも、スチュアートは彼女の本音を聞きたかった。


「単に暇をつぶしていただけよ」

占い師の時は俯き加減だった少女は、胸を張って公爵子息と対等な話し方をしていた。それが今は身を偽っていないという姿勢を示していた。そして、本来の身分は公爵子息と同等以上である事も。


「暇潰しが人助けと諜報か?」

「構図くらいは知っておかないと、いざと言う時に踊れないでしょう?」

「何を踊るというのか?」

「ここで踊る事はないわ。故国をどうにかするのが先だから」

「調べていたこの国の構図とは何か?」

「もちろん、外交に関わる、買収状況」


「君が手を下す程の問題があると言うのか?」

「もちろん、直接手など下さないわ。あちらから来てもらう」

「誰の事だ?」


 少女はスチュアートから目を逸らした。

「誰がどう踊るか見ものね。大体誰かは分かるでしょ?」

「外務卿と騎士団か?」

「多分、もっと大物ね。小物だけど」

「…王子、か」


「帝国の大使が皇女をどう扱っているか、それを調べれば分かるわ」

スチュアートが首を捻った。

「弱い聖魔法を持つアンジェリーナ皇女を?人気取りをやっているなと思っていたが…」

はっとなったスチュアートが少女を見つめた。

「火烈帝の娘にしては魔力が弱いと思っていたが…そういう事か」


「暇つぶしに調べてみる事ね。もう迷惑をかける小娘はいなくなるのだから」

「そんな些末な調査は親に任せるさ…帝都で会おう」

スチュアートは踵を返して去って行った。

『本物』のアンジェリーナは青筋を立てた。

(王弟の息子が、帝都に何をしに来ると言うのよ…)


 アンジェリーナはこの王都コヴェントリーでは、あくまでビジターだった。ここを去る時には、全ての感情を置いて行くつもりだった。だからスチュアートとの繋がりが続く事には困惑した。


 客間に戻ったスチュアートは、父ヴィンセントの居室に入り、耳打ちした。

「内密にお話ししたい事があります」

「話せ」

「貴族学院に通う皇女は偽物です」


「……証拠は?」

「間もなく、帝都に本人が現れるからですよ」

「誰からの情報だ?」

「もちろん、『彼女』ですよ」


「……『彼女』が本物という事か?」

「学院の皇女はあまりに器が小さい。一方、『彼女』はその智謀、判断力、度胸も含めて、皇帝の娘と呼ぶに相応しい」

「確かに、為政者の顔を持つ者だが…そうか!偽皇帝を見破ったのはだからか!」

「あの皇帝の魔力を知っていれば、皇帝騎士の不在を見れば、明らかだった筈ですよ」


「錯乱丸は皇帝来訪の障害、偽皇帝を立てたのは偽皇女と会わせぬ為、なるほど筋は通る」

「だから現在の王国への陰謀は、帝国の後継者争いで王国を正妃側に立たせるのが目的と思われます」

「……王国世論を反皇帝、反皇女へと仕向けているからな…一貴族へ力を貸す方向に誘導しているか」

「『彼女』は王子が踊ると予想しています」


「兄上がそんな事を許すとは思えないが…一方で、錯乱丸の学院内捜査内容を秘密にしている事の意図が読めん…」

「伯父上が既にレノックス公と結んでいる可能性は?」

「……それが王国に、兄上に益するとは思えん」

「『彼女』も学院への調査は出来るとは思えません。当面、学院の皇女の護衛を厳重にする必用があるでしょう。各勢力に口実を与えない様に」


「そうだな。話はそれだけか?」

「いえ、王国内が踊る前に、帝国情勢を確かめる必要があります。帝国の後継者争いが早期に収束する様、助力出来れば尚良いと考えます」

「……お前、単に彼女と離れたくないだけだろう」

「誤解です。大局を見て判断していただきたい」

「大局より私情を優先しておいて何を言うか!」

 真面目な話を色恋事で終わらせた息子にヴィンセントがそこまで怒っていないのは、彼女を通じて皇帝と縁を繋げる利点を考慮している訳です。口説けるとまでは思っていませんが。


 明日は短いエピソードを2回投稿予定です。短いから。

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