1−4. 薬草の採集
下町の男達は川沿いに薬草を探した。午前中に見つけたものを占い師が確認し、何人かの男達はもうモントローズ家の張った天幕から離れようとしなかった。昼食をもらってから帰るつもりだろう。
男達は昼食後も薬草を捜し、全員が余分をモントローズ家の使用人に渡して銅貨を得た。
「熱さましはそのまますり潰して水に溶かして飲ませてください。残りは乾燥したものを粉砕して飲んでも効果はあります。腹下しの方はそのまますり潰しても、乾燥させておいてから粉砕して飲んでも構いません」
占い師の指示を聞いた後、男達は帰って行った。マフィアの親分子分も帰って行った。
その後、占い師は不機嫌そうな口元をして川沿いを歩き、その後をスチュアートと侍女・侍従が続いた。占い師は木のスコップで幾つかの草を根本から掘り起こし、土ごと小袋に入れた。
「それはどうするんだ?」
「大分減ってしまったので、孤児院の畑で増やしてからまたここに植えようと思うんです」
「運ばせよう」
スチュアートが占い師の持つ小袋を奪って侍従に持たせた。
「騎士様…」
「これが君の政策なのだろう?本来貴族達がなすべき事をしていないから君に負担がかかっている。このくらいは手伝わせてくれ」
そうなると、占い師としてもモントローズ家に協力しない訳にはいかない。さらに一袋ずつ草を採取し、スチュアートに渡した。男達から買い取った薬草で薬効を調べたら、その後栽培する為の苗と言う訳だ。
「孤児院まで送ろう」
占い師は微妙な顔しか出来なかった。そう、薬草の苗を人質…物質に取られていて、断る事が出来なかったんだ。
スチュアートは馬車の中で不躾な質問をする事は無かった。騎士団で取り調べの手筈は習ったから、個人的な質問は相手が心を開いていない間はするべきでないと知っていたんだ。
孤児院は煉瓦と簡易コンクリートで塗り固めた壁で囲われ、金属の門扉の内側から鍵を閉めれば内部に侵入出来ない構造になっていた。
壁に取り付けたベルを鳴らす紐を引っ張ると、少年が建物から出て来た。
「どうした、ジェニー?」
少年の問いかけに占い師は両掌を少年側に向けた。警戒不要のジェスチャーだ。
「騎士様に荷物を運んでいただいているの。開けてくれる?」
少年は疑わし気に占い師の後ろに立つ男とその背後の貴族家の使用人達を見た。
スチュアートは肩を竦めて見せた。
少年は武器らしきものを構えている者がいなかったので、不承不承鍵を外して扉を開けた。
使用人達は孤児院の建物のの玄関近くまで薬草の苗を運んだ。スチュアートは孤児院の壁を見ながら占い師に語りかけた。
「大分痛んでいるが、問題はないのか?」
「屋根の応急修理を終えてから住んでいますので、最悪の状態は脱しております」
「…直させよう」
「…ここは公爵領ではありません。そして公助は止まっております。よって、共助と自助で何とかすべきと考えます」
(余計な事をするとあんたのみならずお家に迷惑がかかるぞ、と言っているのか)
スチュアートは一瞬迷ったが、今はこれ以上踏み込むべきではないと判断した。
「分かった。前にも言ったが、困った事があれば言ってくれ。相談に乗る」
「ありがとうございます。本日も本当にありがとうございました」
占い師はぺこりと深く腰を折った。
(用が済んだら早く帰れ、か)
スチュアートは二人の距離の遠さに寂しい思いを隠せなかったが、貴族としてごり押しする気は無かった。
公爵家のタウンハウスに帰ったスチュアートに、その日の晩の内に調査結果が届いた。
「占い師が採取させた薬草は、言う通りに熱さましと腹下しの効果のある薬草でした。もちろん、一般に薬品として流通している薬草より効果は低い物です」
「孤児院で栽培している植物はどうだ?」
「書物で調べましたが、どれも薬効はあるものの、一般に出回っている薬草より薬効は低いものです。また、毒物の原料となる植物は栽培されていない様です」
「分かった。ありがとう」
つまり、スチュアートが薬草の苗を運ぶと言ったのは、孤児院の敷地に入って内部で育てている植物を確認する為だった。薬草に詳しい者が中に混じっていたんだ。
一方、モントローズ家として買い取った薬草は、貧民街の商店に譲渡され、買い取り価格より安く提供された。こうして臨時の薬草需要を吸収して、孤児院に対する圧力は無くなった。




