1−3. そもさん
王都外の下町から里山に行くには、雑木林を抜けて1マイル程歩く必要があった。別に雑木林の暗がりの中にも何らかの野草が生えていて、薬草として何らかの効果があるものもあった。だけど、16人の男達が銅貨目当てに参加していた。そいつらに薬草が行き渡る程の群生地として、里山の麓の湿り気のある場所を目指した。
何の事は無い、孤児院に植えた薬草はこの里山で探したものだったのだ。
川沿いに集合地点が作られていた。モントローズ公爵家がそこに天幕を張って、その横に木箱が並んでいた。そばには土を掘った竈が作られ、鍋が準備されていた。
「嬢ちゃんがサンプルを採ってくれたから、これと同じ草を持って来な。間違いがないか嬢ちゃんが確かめてくれる」
親分が指示をしてくれたので、占い師はモントローズ家が用意した折りたたみ椅子に座って待っていれば良かった。向かいには朗らかな表情をしたスチュアートが座っている。
「そんな顔をしないでくれ。これを機会に、あの孤児院の事を聞いておきたいと思ったんだ」
占い師の口は朝から真一文字のままだった。相手には見せないフードの下の目は、他人が見れば嫌そうな目つきと思われただろう。実際、これほどまでスチュアートに、ひいてはモントローズ家に借りを作る気はなかったんだ。
「別に疚しい事はありませんから、孤児院の事なら何でもお答えしますが」
「まだ孤児院で子供を預かり始めて1年も経っていないのだろう?どうして孤児達を預かろうと思ったんだ?」
フードの下で占い師は半目になった。第一騎士団は王都の警備が仕事だから、王都外の下町の孤児院は全く管轄外だった。そして今日もモントローズ家の使用人がここの天幕を準備しているのだから、孤児院の経緯を調べたのはモントローズ家の関係者だろう。
王都外の町というのは、周辺からやって来た流れ者や商人が集まって勝手に出来た町が始まりだ。厳密な管理はされていない。当然王都周辺は王領だから、モントローズ公がいくら王弟だからと言っても、首を突っ込む義理はない。つまり、今日の慈善活動はスチュアートが家人を使ってやっている。
溜息を我慢して、占い師は答えた。
「孤児が薄汚れた格好で廃屋に住んでいたんです。普通に考えれば、親がここで子供を育てる事が出来ないから捨てていったと思います。親のいない孤児は将来大人になっても仕事にあぶれて、生活に困って犯罪組織の一員になる可能性があります。治安維持の為には彼等に何らかの仕事を与え、将来何とか食い繋げる様な仕組みを作る必要があると考えたんです」
スチュアートは朗らかな顔をしたままだった。貴族の作り笑いや穏やかそうな顔というのはその下に考えている事を隠す為の仮面だ。占い師としては受け答えに気を使わざるを得なかった。
「それでも君が面倒を見る必要はないんじゃないか?」
「孤児院は10年近く前に閉鎖されていたそうですね。建物は痛んでいましたが、そこまで古い建物じゃなかった。つまり、戦後に遺児達を受け入れる施設だったと思われます。そんな遺児達が15才くらいになったので、経費削減の為に閉鎖されたのでしょう。戦争以外の孤児を育てる責任は国家に無いと判断されている訳でしょう」
「まあ、経費削減で閉鎖した事は確かだろうな。戦争で減った人口は若年層だから、結婚・出産をする世代の男性が減った。孤児や戦後に生まれた子供達が大人になったが、それで減った人口が回復した訳じゃない。税収が回復しない以上、国家の責任でない孤児までには金を使えない」
「痩せた土地でも作れるような作物でも育てさせる程度なら、そこまで資金が必用とは思いませんがね」
「それで民間療法の薬草を育てさせていると?」
「流行り病で薬物全般が高騰化するくらい、この国の薬物生産量は不足しています。戦争で聖魔法師が多数亡くなったのなら、穴埋めとして薬草の生産量を増やすべきと思いますよ」
「その生産量の管理は貴族議会が取り仕切っているからな。国王陛下も宰相も口を出せない」
(馬鹿馬鹿しい。貴族が儲ける為に流行り病の死者が増えている。貴族が人口回復を妨げてどうする)
占い師は嘲笑する口元を悟らせない様に、横を向いた。
「君のお気には召さないという訳か?」
「騎士様は正しい事とお思いで?」
「政策の不在は感じているよ」
(それを意見するのが王弟じゃないのか)
占い師は思ったが、もちろん流れ者の最下層民が貴族批判など出来ないから黙っていた。
タイトルに困った訳です。




