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1−2. スチュアートの介入

「ああ、今日は非番だから、今すぐ捕らえるなどと言う事は無いから安心して良い」

男達は安堵したが、町長は責任者だから気が気でなかった。

「あの、どちらの騎士様で?」

「第一騎士団のスチュアート・モントローズだ。王都外は管轄外だが、緊急時に傷害犯や強盗犯を捕らえる事は認められている。ついでに言えば、孤児院の土地を管理する役人には知り合いがいるから、滅多な事はしない方が良いぞ」


 男達は呟いた。

「なんてこった、王弟の息子がなんでこんなところに来るんだよ」

「マフィアを捕まえに来たついでに歩いてるんじゃないのか」

親分は微笑みながら言った。

「おいおい、縛られていないんだから捕まっちゃいないぞ?毒やら殺しやらをやってなければ、説教や違反金以上の罰は受けないからな」


 スチュアートはにこにこ笑っていたが、侍従が渋い顔をした。裏でならともかく、表向きマフィアと騎士しかも貴族が慣れ合っているのは不味い。


 ここでスチュアートが再び口を開いた。

「さて、占い師。何か解決策はないか?案が無いと仲介のし様がない」


 占い師は少しの間、顎に手を添えて思案した後、口を開いた。

「流行り病で一番困るのは発熱で、次いで腹痛です。ですから熱さましと腹下しが必用でしょう。栄養問題も重要ですが、それは孤児院で育てている薬草では解決しません。だから、熱さましと腹下しの効果のある野生の薬草を探す手があります」


「ふむ、ここの薬草は孤児達の労働の対価として使用すべきで、それを他者が奪うのは盗みだろう。それぞれが自ら里山で探した労働の対価として薬草を得るなら、問題はなさそうだ。それでどうだ、町長?」


 町長が応えるより先に男達が騒ぎ出した。

「俺達に雑草と野草の区別なんてつく訳が無いだろ!」

「ガキや女房の為とはいえ、山を1日歩いて無駄足なんてやってられないぜ」


(安易に目の前の商品を盗むなら万引きだろう…これだから下層民は…)

スチュアート・モントローズは公爵子息で飢えた事がない。多少の流行り病や物価高騰で簡単に生死の境を彷徨う最下層の人々の気持ちは分からない。


 スチュアートが黙っているのでマフィアの親分が口を開いた。

「じゃあ、俺が纏めてやるよ。嬢ちゃん、野郎どもが山に行く日に、ついていってくれねえか?それでどの辺に生えているか、ついでに見本の薬草をその場で指示してくれ」

「構いませんよ」


 しかし男達はまだやる気が無かった。なんなら夜に孤児院に忍び込んで薬草を根こそぎ抜き取った方が早いのだから。


 スチュアートは溜息を吐きたくなるのを押さえて、朗らかに言った。

「じゃあ、モントローズ家の方から昼にはビスケットとスープを出そう。何なら余分な薬草を一組渡してくれれば、銅貨一枚出しても良い」


 ようやく男達もやる気になった。男達は王都内外で日雇い労働で食いつないでいる者達だったから、収入があるなら働くのだ。


 口を真一文字にしている占い師にスチュアートが言った。

「最下層とはいえ王領の民だ。民とマフィアと貴族が力をあわせて生命を守る。良い構図じゃないか」


 そうは言っても、スチュアートにはこの騒ぎに参加し、何らかの私財を使う理由は無い筈だ。占い師としてはそういう善意かどうか分からないものに縋るのは危険に思えた。


「お返しできる借りとは思えません」

「どちらの貸しかな?王都外とは言え市民の健康を守っているのが貴族の息のかかった商会から疎まれている占い師とマフィアだとは。何か力を貸さなければ王侯貴族の面子が立たない」


 危険な発言があった。占い師は、市民に王侯貴族への不満を持たせる為にこんな孤児院を世話しているのではない。

「叛意は全くありませんが」

「分かっている。君が裏表なく市民の生命を守っているのは。だから、少しだけ手助けをさせてくれ」


 権力、財力、暴力を持つ者に借りを作るのは危険と占い師には分かっていたが、子供達のささやかな生活を守る小さな農場を襲われるわけにはいかない。ここはスチュアートの提案を呑むしかなかった


 町長と男達が去った後、孤児院の建物から子供達が出て来た。

「ジェニー、どうなったんだ?」

10才くらいの男の子が占い師に尋ねた。


「流行り病がまだおさまらないから、そろそろここの薬草を奪う屁理屈を考えついた者がいたのよ。だから、連中と里山に野生の薬草を取りに行く事になったの」

「そうだなぁ…午前中はジェニーがいるからその辺のロクデナシどもが束になったって何も出来ないだろうが、午後と夜は厳しいな」

7才くらいの女の子が占い師の右腕にしがみ付いて来た。

「ジェニー、大丈夫なの?」

「大丈夫よ」


 他の女の子達も占い師に抱きついて来た。子供達を安心させる様に、占い師は一人一人の頭を撫でてあげた。

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