6−4. 首脳会談
翌日の王国と皇帝一行の会談には、王国側は国王ウィグムント、王弟ヴィンセント・モントローズ、宰相、新外務卿と書記官が出席した。一方、帝国側は皇帝エグバート、皇帝騎士ライサンダー・マックスウェル、新外務大臣、書記官が出席した。
皇帝の近くに着席した者達は、噂に違わぬ皇帝の魔力を感じて圧倒された。一方、その背後に立つ黒髪の皇帝騎士はさすがに帯剣は許されずに鉄棒を背負っているだけだったが、それでも充分に周囲を威圧していた。殺気を振り撒いている訳ではない。ただ、その纏う空気が静謐だった。
皇帝の魔力で空気が震えているというのに、魔力ではなく、精神力だけでその空気を押さえていた。皇帝が『美髪帝』どころが、偽物とは比べ物にならない程の『美男帝』である事は、それらに比べれば些末な事だった。
ヴィンセントですら、この二人の纏う空気に圧倒されていた。
(兄上は流石だ。この圧力の中でも表情は落ち着いている)
もちろん、ウィグムント王が王弟ヴィンセントより魔力で遥かに劣るという事は無い。魔法感受性に大差がある訳ではない。この圧力を受けて、王たる者の威厳を保っているのだ。
「まず、エグバート帝に問う。何故偽物を立てるなどと言う暴挙に至ったのか?」
ウィグムントの問いにエグバートは答えた。
「暗殺計画の情報があった。その為に影武者を立てた。礼を失する行為であった事、ここに遺憾の意を表する」
とりあえず『遺憾』の言葉を受けて、王国側としては暗殺事件より偽物を立てた事がより重い行為である事を帝国が認めたと受け取った。
よって、次に宰相から暗殺計画の調査状況が伝えられた。
「暗殺計画については、国教会に反帝国のグループは存在しないという調査結果になった。両国大使からの報告を聞かれたと思うが、先日、王都で発見された人心を攪乱する薬物が使われた可能性が疑われている」
帝国の新外務大臣がこれに対して質問を行った。
「薬物とはどの様な物なのか?」
「生物内の魔力を攪乱する効果があるものと見做されている。海外から入ったものと思われる」
「流通経路は特定されたのか?」
「現時点では出所が辿れていない。関係した貴族と商会は閉鎖し、関係者は拘束ないしは謹慎処分としている」
ここで皇帝が新外務大臣を横目で見た。意を汲んで新外務大臣が尋ねた。
「薬物は知られた物なのか?通称は分かっているのか?」
「密告によると、『錯乱丸』と呼ばれているらしい」
「その通称で調べて、いずれの国で流れている物か分からないのだろうか?」
「極東の伝説に類似の名称が出て来るらしい。それ以上は分からない。我が国では初めてみつかった物だ」
「その薬物の取り締まりは可能なのか?」
「魔力を乱す効果が薬単体にあり、風魔法師による捜索は可能と考えている。王都各門では風魔法師による探知を行っている」
皇帝が頷いた為、新外務大臣は黙った。
ここで宰相の方から要求が出された。
「今回の影武者を黙っていた貴国大使を我が国としては信用出来ない。大使の至急の交代を要求する」
帝国側の新外務大臣は答えた。
「交代の大使を連れてきている。至急、大使館にて交代式を行い、国王陛下にご挨拶をさしあげる」
「現大使には公邸にて待機していただいている。交代式典出席の為の外出は拒まないが、退任次第、至急の国外への移動を要請する」
「我々が戻る際に連れて帰る。交代次第、迎賓館または王宮内にて彼の滞在準備をお願いしたい」
「予定をお知らせいただければ対処する」
その後、帝国側としては王国側から帝国に売却する農作物の関税を2年間は半減する事が伝達された。『遺憾の意』を行動で示した訳である。また、影武者の接待に使用された費用の半額を帝国側が支払う事も申し出られた。
続いて危険薬物騒動対策として、帝国側から王国内居留の帝国国籍の者の保護対策が通告された。
「大使館の付属設備として、王国内居留の帝国市民の万一の避難場所を借用したい。適当な物件の紹介を依頼する」
言葉には出さないが、偽皇帝騒動で帝国市民に対する排斥感情が高まる事への対策である。それを隠れ蓑に破壊工作員を集める危険性が否定出来ない為、建物については王国が治安上問題ないと考える物件を借用する必用があった。
「至急、選出する」
今回は危機対応と言う事で、友好的な応対は存在しなかった。必用な事を話し終わった為、翌日以降に大使交代を行い、大使を連れて早急に皇帝は帰国する予定だった。




