6−3. 皇帝来訪 (今度は本物)
皇帝の車列が王都に着く前日になった。
占い師はまた孤児達に話した。
「明日はまた帝国の皇帝が王都に入るから、彼らが王都から帰途に付くまで王都の外壁に近づいては駄目よ。前回トラブルがあって、騎士も役人も苛立っているから、もし彼等から何か指示されたらすぐに言う事を聞かないと危ないから気を付けてね。また、私もこの辺りから離れるけど、心配しないでね」
子供達は前回、占い師が戻らない日々を心細く過ごしたから、年長のピート以外全員が彼女に抱き着いて泣き出した。
「大丈夫よ。お互い気を付けていれば何も起こらないから」
占い師はまた、一人一人をぎゅっと抱きしめた。
何とか子供達を野良仕事に出した後、占い師はピート一人に今後の事を告げた。
「商店のおばさんに頼んであるから、困った事があったら相談しなさい。皇帝が王都を出た後で、私がしばらく戻らない事をみんなに話して」
「ジェニー、不味いのか?」
「今度は本物の皇帝が来るからね。問題が起きたら二度と戻れなくなるし、そうでなくとも数年はここに顔を出せないわ」
「仕方ないってのか?」
「あなた達が嫌いになった訳じゃない。でも、人間社会で生きていれば、しがらみってものがあるの。いつかあなたにも分かるわ」
「まあ、しょうがない。ニアは何とか宥める。でも、他の子どもはしばらく泣き暮らすぞ」
「ごめんね。どうしようもないの」
「まあ、良い。死ぬなよ」
「見た目よりしぶといから安心して」
ピートは何か言いたげだったが、俯くだけだった。だから、占い師はピートをぎゅっと抱きしめた。そうして、占い師は孤児院を後にした。
モントローズ家の監視は複数が占い師を追跡していたが、貧民街の中で突如その姿を見失った。スチュアート以外の者も占い師の魔法偽装をある程度認識出来る様になっていたが、今はその反応もない。つまり、占い師には奥の手があった訳だ。
皇帝の車列は翌日、王都に入った。今度は歓迎式典もない。よって皇帝の馬車が通る大通りは立ち入り禁止になっていた。
平民達には前回の偽皇帝暗殺事件は公表されていなかったが、商店街で噂が広まっていた。
「何でも皇帝は偽物を送り込んで、王様の暗殺を企てたっていうぜ」
「なんだよ、それ!以前に戦争に勝っただけじゃ物足りないってのかよ!?」
「それがバレたんで、本物が謝罪に乗り込んで来たってんだが、そんなヤツだから今度は何をしてくるか分からんぞ?」
「何か騒ぎが起きたら、石でも投げてやろうぜ」
占い師の館の隣に店を開く薬物商は従業員に告げた。
「流れ者の彼女はまた王都から離れているとの事だが、忠告があった。この機に暴動を起こして皇帝に危害を加えようとする者達がいる可能性があるから、デマに踊らされない様にとの事だ」
従業員は冷静沈着にして大胆不敵な彼女を信用していたから、店主の話を心して聞いた。
一方、貴族学院は平民街より更に酷かった。
「謀略で王国を貶めようとした皇帝本人がやって来るんだ。今度何かあったら、王侯貴族の団結を示して皇帝に対抗するんだ!」
「ああっ!王国貴族の意気を見せてやるぞ!」
「王国を陥れようとするなら、皇帝一行も皇女も決して王都から生きては返さないぞ!」
「親達が何もしないと言うなら、俺達が皇帝の滞在する屋敷と大使館に殴りこんでやる!」
アンジェリーナ皇女がかつて出席していた1年2組の者達はそこまで酷い発言はしなかったが、こそこそと陰口が聞かれた。
「あんな大人しそうな顔をして、騙し討ちの為に留学して来てたのね」
「ほんと、女狐って感じ」
フレドリックの出席している1年1組ではさすがにこんな騒ぎは無かったが、教室を通りがかる生徒が陰口を叩いた。
「殿下も真面目なだけに、簡単に騙された感じだよな」
「頼りにならないよな。彼が第一王子でなくて良かったよ」
貴族学院の生徒達はスチュアート程魔法が巧みでない…つまり魔法感受性が低かったから、皇帝を侮っていた。
もちろん、スチュアートはそんな事は無かった。
(大通りを通過するだけで、上位貴族街の空気まで震わせる魔法の圧力…それでこそ皇帝だ。この皇帝に謀略を操る理由があったと言うのか?)
この日、王宮に入った皇帝エグバートは、外務大臣と宰相の出迎えを受けた後、離宮の客間に入った。
皇帝は状況報告の為にアンジェリーナ皇女を呼びつけたが、皇女は健康状況の不良を理由に現れなかった。皇帝は青筋を立てた。
(あの跳ねっかえりが…今度は何で機嫌を損ねているんだ…こんな事態の最中に)
……離宮に蝙蝠さんはぶらさがっていません。多分。




