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6−2. 貴族議会は踊る

 黒装束の人物は、過去にモントローズ家が把握していた拠点を二度と使わなかった。幾つかの廃屋を拠点代わりに使っている様だった。モントローズ家としても既に占い師の行動を軽視していない。彼女が動く以上、何かの問題がある可能性があった。


 それでも彼女の足取りは追えなかった。移動速度に勝り、魔法偽装を行う彼女を追う事は難しかった。スチュアートなら彼女の偽装を見破る事が出来たが、移動速度の差は遺憾ともし難かった。彼女と接触出来ないかと、スチュアートも何度も夜間に外を歩いたが、彼女から接触してくる事は無かった。


(今度こそ本物の皇帝がやって来るというのに、何か問題があるのか?)


 帝国大使はとりあえず大使公邸に戻されたが、王国側から大使館への出勤はしない様に強く要請があった。王国側としては大物である皇女と大使を大使館から切り離す事で、大使館による破壊活動を掣肘しようと考えたのだ。


「こんなものは出入りの業者を通じて連絡を取れば良い。王国はやはり甘いな」

「大使様は今回、どの様に振舞うおつもりでしょうか?」

「何、陛下がいらっしゃるならその指示に従うだけだ。自分は外務大臣の命で動いているだけだからな」

「それは、そう答えるしかありませんからね」


 帝国の駐王国大使は5年前から赴任している。昨今の本国の様子は詳細には知らないから、外務大臣の指示に従っている、と言えば追求は甘くなる。大使としてはそう言って追求から逃げるつもりだった。


 王国の貴族議会では、帝国に反発する者達と、外交的配慮から皇帝の釈明を待つ者達、特に意見を述べない者に三分された。

「今回の帝国の暴挙に強く抗議すべきだ!偽物を外交の場に送り込むとは我が国の主権を無視されたに等しい!」

相手に弱みがあるのだから、ここは強気に出るべきと考えているのだ。それなら外交的配慮が必用な筈だ。何故なら王国側も致命的な弱みがあるのだから。


「とは言え、暗殺が実行され、その背後が探れない状況ではこちらんも弱みがある。両国首脳中心の議論で決めた落としどころを尊重するしかない」


 つまり、強硬派と慎重派がいた訳だが、伝統貴族の大多数がこの二派に含まれていた。一方、新興貴族である商人系の貴族達は、特に意見を述べなかった。

「我々下位貴族としては、陛下のお決めになった事をまず尊重する、としか言えませんな」

それは日和見とも言えた。


 一方、事件の責任追及は思わぬ方向に行われた。

「偽物皇帝を黙っていた外務卿に大きな責任がある!」

強行派は外務卿の責任追及を行ったが、外務卿はあらぬ方向に議論を逸らそうとした。


「事件の発生時に怪しいメイドがいた。あれを呼び込んだ内務卿の責任を問うべきだ!」

内務卿は暗殺への関与を否定した。

「あのメイドに依頼したのは暗殺の阻止であり、実際、暗殺時に帝国の陰謀を暴いたのはメイドである。彼女も私も暗殺には関与していないし、陰謀に関与していないのは明白だ」


 モントローズ公からすれば陰謀阻止をしたのがあのメイドなのだから、暗殺にも陰謀にも関与していないのは明らかだった。それでも議会は踊った。


「それでは、過半数の賛成により、内務卿の辞職要求決議を可決します」

強硬派と新興貴族から喚声が上がった。


 臨時議会の終了後に、議長とモントローズ公は溜息を吐いた。

「強硬派は愚か者の集まりか?明らかな論点ずらしに乗って、肝心の外務卿への追求が甘くなった事に気付いていないのか?」

「元々、血気盛んなだけですからな」

「強硬派やらタカ派やらはいつもそうだ。目先の事に目が眩んで、大局を見失う」

「他山の石とするしかありませんな。しかし、その論点ずらしに参加したのが新興貴族とは…」


 両者は再度溜息を吐いた。議長は続けた。

「まあ、バカン伯の捜査の際に強硬手段を取った内務卿は新興貴族である商人貴族に反感を買っていましたから」

「バカン伯は商人貴族とつきあいが深いからな…だが、半面、外務卿を養護したとも言える」

「今後の両国の動向次第では、彼等がキャスティングボードを握る可能性がありますな」

「それも、王国という船が沈む方向に進みかねない」

「何とか強硬派を慎重派に誘導したいですが…」

「馬鹿共は考え無しだからな!」


 そんな二人に声をかける者があった。

「少し、よろしいですか?」

「バーナード…」

ヴィンセントがバーナードと呼んだ男は、バーナード・ルーズベリー侯爵、先王の三人目の王子だった男だ。

「実は、私の方には、帝国大使から買収の話が来ていないのですよ」

この三人目の王子だった男に先王は新興貴族と伝統貴族の橋渡しをさせようとして、公爵家ではなく侯爵家に婿入りした経緯があった。


「つまり、帝国大使も新興貴族も、バーナードの力添えを不要と考えている訳か?」

「まあ、我が国の王家も伝統貴族達も、彼等は問題視していないとも言えますが」

「皇帝が戦場に出て来れば、我々にはなす術もないのは確かだが…」

「いずれにせよ、私の心は兄上達の近くにありますが、もう少し距離を取っているフリは続けましょう」

バーナード・ルーズベリーは、つまりいざという時の仲介役として存在していた。


 王国の存続の為に何をすべきか、それを尊重している三人である。血気盛んな連中と自分の利益しか考えない連中が、船を沈める予感に首筋が寒くなっていた。

 明日はもう皇帝陛下がやってきます。二度もくどくど書いても読者も読み飛ばすだけだし。

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