5−6. 聞き取り
帝国大使も王宮内の部屋に閉じ込められた。帝国大使と王国外務卿は昨日に偽皇帝を出迎えており、偽物である事は分かっていた筈だから。アンジェリーナ皇女は保護という名目で王宮に拘束された。
その大使は侍従に指示した。
「ヤツだ。最悪の瞬間に現れおった。買収した者が王宮にもいる筈だ。外務卿に連絡をとって、ヤツを消させろ」
一方、不審な黒髪メイドの入門証を申請したのは内務省の関係者だ。
「あの工作員を捕らえよ!逃してはならん!」
内務卿の指示で、すぐに内務調査室の部隊が平民街の繁華街に向かった。
ヴィンセントの元に戻ったスチュアートを見て、彼も指示を出した。
「内務卿が彼女を消す可能性がある。騎士団に向かい、内務の無法行為を見つけ、捕らえる様に上申せよ」
「分かりました!」
彼女の為なら労を惜しまないスチュアートだが。ヴィンセントは思う。
(彼女は鬘を見分けたかもしれないが、暗殺までは読めなかった筈…いや、錯乱丸で乱れた魔力を察知したのか?いずれにせよ、咄嗟の判断で、自らを道化とする事で鬘の存在を皆に知らしめ、皇帝の壁となるべき護衛を剥がし、王を動かすために私を動かした。明らかに人々を俯瞰して動いている、我々凡俗より上のレベルの人間なのだ。お前の手には余るぞ、スチュアート…)
元々孤児を救う為に貧民たちも救おうとしていた彼女が、物価高騰対策を発案し、暴動の原因となる薬物を報せ、そして今、王国の外交的危機を救った。有用な彼女に、自分達の罪を彼女に押し付けようと目論む愚者達が危害を加えようとする事は阻止する必用があると感じているヴィンセントだった。
第一騎士団はスチュアートの上申にすぐさま動いた。内務調査室の動きを追い、平民街で建物を壊そうとしたところで全員拘束した。
「王宮で一大事が発生したのに便乗して破壊活動を起こすとは何事か!」
「不審者の捕縛任務だ!治安維持の邪魔をするのか!?」
「今、お前等がやっている事が治安を乱す行為だよ」
こうして内務卿は自分の雇った工作員に聞き取りをする事も、口封じをする事も出来なかった。
ヴィンセントは王宮内の執務室に戻ろうとする宰相に声をかけた。
「あの主教の体内の薬物残留を調べて貰えないか?」
「何か気にかかる事でも?」
「例の錯乱丸とやら、日頃の不満に対しての攻撃性を高める効果があるのではないか、とスチュアートが言っていたのだ」
「なるほど、錯乱丸を焼いた煙を吸った騎士達は、何らかの不満を述べながら暴れていたな…」
「よろしくお願いする」
宰相はふと思い付いて口を開いた。
「陛下を通して命じれば良いものを?何故私に直接依頼なさる?」
それに対してヴィンセントは口元を歪ませて小さく首を振った。
(貴族学院でのフレドリック王子の暗殺未遂事件の追求の甘さを疑問に思っているのか…)
それは宰相も疑問に思っている事だった。
大使の聞き取りが始まったが、意味のある回答は得られなかった。
「来訪する皇帝が偽物である事はいつから分かっていたのだ?」
「事前に連絡があったが、機密に関する事なので答えられない」
「何故偽物を送り込んだのか?」
「見ての通りだ。暗殺が警告されていた為、替え玉にせざるを得なかった」
「暗殺者は何者か把握していたのか?」
「機密につき答えられない」
王国外務卿にも聞き取りが行われた。
「何故王家に伝えなかったのか?」
「昨日打ち明けられた為、あちらの希望で連絡出来なかった」
「何故偽物がやって来たのか理由は聞いたのか?」
「暗殺情報があるからと言われた。詳細は聞いていない」
「暗殺情報があるなら騎士団に伝えるべきと思わなかったのか?」
「自分は外務が任務だ。治安維持の責は負わん」
忠誠心が王国より外国にあると言われかねない発言をした外務卿だったが、今後の証言の為にもその座を奪う訳にはいかなかった。
アンジェリーナ皇女にも聞き取りが行われた。
「私は前日には陛下とお会いしておりません。本日も遠くで見かけただけで、入れ替わっているかどうかは分かりませんでした」
事前にも皇帝とやり取りはしていないと回答した皇女は拘束されはしなかった。王宮から出る事も出来なかったが。
そういう事で、フレドリック王子は皇女と面会を許された。
「その、疑って申し訳ないのだが、偽物と気付かなかったのか?」
「私は元々、陛下とは親しくお言葉をいただく仲ではありませんので」
「それは前にも言っていたが…」
小さく震える皇女の手を見て、フレドリックは心配りが必用なのを知った。
「殺人の場に居合わせたのだから、恐怖を覚えるのも仕方がない…貴女のせいではないから、責任を感じる必要もない。今夜はゆっくり休んで欲しい」
「私に治せる傷なら良かったのですが…」
「人混みで近づけなかったか…」
「いえ、大使に止められました。ここで下手に動くと余計に混乱を招くと」
「……」
フレドリックも皇女も、あえて偽物を重体とする事で、外交的に有利に立つ目的だったのではないか、と疑念を抱かざるを得なかった。
もちろん現代的な大使の特権はないでしょうが、外国の政府関係者なので逮捕は難しいでしょうね。




