5−1. 皇帝来訪に向けて
体内魔力を乱して人を暴れさせる薬物の出所は見つからなかった。貴族2家と3つの薬物商会は徹底的に調べられたが、入手先は特定出来なかった。関連する商会を含めて20人の死体が見つかり、その口封じが功をなしたのかも知れない。
それでも、スチュアート・モントローズが見つけた風魔法で魔力の乱れを感じる調査方法が確立され、王都内への再流入は防げるとみなされた。
宰相と外務大臣には懸念があった。
「この状態で帝国皇帝を迎えて大丈夫だろうか?帝国はどう言っている?」
「帝国大使経由でも、こちらの在帝国大使経由でも、問題なく訪問すると言っています。下手に拒んでは何か皇女に関して隠さないといけない事があるのではないかと勘ぐられる可能性もあり、予定通り受け入れるしかないと思います」
帝国皇帝は皇女の留学環境の視察と称して王都を訪れる予定だった。宰相と外務大臣の説明を受け、ウィグムント王も予定通りの受け入れを了承した。
皇帝来訪の警護を巡って、各騎士団のトップが集まって話し合った。
「帝国都市アッシュフォードから王国都市エガムに向かう幹線道を西に向かう経路を取る。国境で第三騎士団が南北を守り、第二騎士団が護衛して王都コヴェントリーに向かう。そこから王都南門に回って第一騎士団が出迎え、王宮正門で近衛が護衛を引き継ぐ」
大筋は各騎士団の業務分担によるから変えようがない。だが、懸念点があった。
「例の錯乱丸対策としては風魔法師による警戒で対応出来るが、貴族学院のフレドリック殿下暗殺犯の背後が追えていない。そちら絡みで王家あるいは皇帝に暗殺犯が迫る可能性を否定出来ない。貴族学院内護衛をしていた近衛からこれに関する容疑者情報をいただきたい」
「その件に関しては陛下から箝口令が出ている。噂や疑惑で一部貴族を糾弾する事があってはならないとご懸念されていらっしゃる」
皇帝相手に間違いがあってはならない以上、例え一部貴族に制限がかかっても、騎士団内では情報が欲しいところだが、王のご意向が優先される。各騎士団は苦い思いをしながら、対処法を詰めておく以外になかった。
貴族学院でもフレドリック達が事前の打合せを行っていた。
「現時点で学院への視察予定は無いが、抜き打ちの様な形で視察を望まれる可能性がある。一応情報の確認をしたい」
そうしてイアン・ダグラスが皇女関係の情報を説明した。
「皇帝エグバートは戦争翌年にレノックス公爵家の娘のヴィクトリアと結婚、翌年長女が生まれ、その2年後に次女が生まれた。男子が生まれない事を危惧した群臣の勧めで、側妃としてスペンサー侯爵家のアンリエッタを娶った。翌年、そのアンリエッタ妃から第一皇子アルフレッドが生まれたが、その翌年に正妃との間に第二皇子エゼルウルフが生まれた為、順当ならこのエゼルウルフが皇太子となると思われる。その翌年に側妃が生んだのがアンジェリーナ皇女で、二人の皇子の後継者争いが激しい事から、皇女は扱いが微妙だったらしい」
スコット・レズリーが感想を述べた。
「正妃の子も側妃の子も、どちらかが皇太子になっても、もう一人が相手を支えるのは難しそうですね」
フレドリックは宥めた。
「同じ母親とか、二人の関係がどうとかではなく、王家の兄弟は支え合って国を盛り上げるものだ。いざと言う時に口から出ない様に、そこは気を付けてくれ」
「はい。もちろんです」
ケント・ブルースは質問をした。
「もし学院の視察があったとして、皇帝は皇女や学院の人間とどんな話をするんでしょうか?」
イアンが答えた。
「まあ、そもそも皇女を大切に思っていないなら視察は行わないだろう。視察があった段階で、皇帝は皇女を大事にしているという事を前提に話した方が良い。そうなると、交友関係の話をすべきだが…」
フレドリックが続けた。
「我々が気を付けてお付き合いしていると答えるべきだろうな。ただ、以前に皇女は皇帝とはそれほど話をしないと言っていた。真面目に勉学に励んでいると伝える程度で良いのではないか」
イアンも続けた。
「虐め問題はほぼ無くなっているから、虐めがあった事は口にする必用はないだろう」
一方、帝国大使もアンジェリーナ皇女に指示を出した。
「皇帝陛下が来訪されるが、貴族学院への視察はないので、そちらの心配は無用だ」
「はい」
「一方、王宮での歓迎式典には出席が必用だ。侍女に指示は出しているが、事前に服装の内容などは詰めておきなさい」
「はい」
「本国からの連絡では、王宮の式典も含めて、皇帝陛下からお言葉を賜る機会は無いとの事だ。そういった心配は無用になる」
「はい」
王都近辺はともかく、国境付近は道が悪そうです。




