4−10. 王子と皇女の関係に呆れる占い師
占い師の驚いた顔(口元だけ)を見たスチュアートは顔を上げた。
(そんな事で元気になるなよ)
占い師は思った。つまりスチュアートの男心など気にしていなかったのだ。
「騎士様の従兄弟様となると、その、至尊の方のお子様の方で?」
「ああ、王子様だ」
「王国と帝国は微妙な関係と思っておりますが…」
スチュアートはくすっと笑った。
「恋路に立場など関係ない筈だろう?」
(ここにも公爵子息が身元不詳の女を気にしているぞ)
そう思うスチュアートだった。
「留学生の皇女となると、王子様と同じクラスになられたので?」
「いや、微妙な両国関係だから、王子は1組、皇女は2組だ」
「それで恋に落ちるので?一目ぼれとか?王子様が?」
「確か、皇女が聖魔法持ちで、病が流行った頃に貴族家への治療を依頼したらしい。その縁で近づいた様だ」
占い師は黙ってしまった。
「どうした?気になる事があるか?」
「いえ、皇女の魔法属性など、最高機密と思われますが。あの火烈帝の子供なら、魔力が最高の抑止力になる筈です」
「うむ。一度遠くで見たが、それらしき魔力は無かったな。聖魔法も週末に2・3人治す程度と聞いている」
「それでは、特別美しいとか可愛らしいとか、そんな理由ですか?」
「年齢なりの可愛らしさはありそうだが、外見はそれほどでもなさそうだ」
「では、人柄ですか」
「大人しいとは聞いている。虐めを甘受していたらしいからな」
占い師は頭を抱えた。
「いじめ、が気になるか?」
「それはそうです。外交問題を考えない様な人々が通っているのですか?その学院は?」
「貴族学院だからな。貴族の子息が殆どで、魔力に優れた平民も少数通っている」
「……まだ幼いから、と言い訳出来る年でもないと考えますが」
「まあ、高位貴族が指図をしているのだろう。そういう狭い世界でもある」
「……2才上にお偉い方がいらっしゃる」
「当然、そこが怪しいよな」
(滅びるぞ、こんな国)
占い師は思ったが、それは彼等の好きにすれば良い。
とりあえず占い師が持ち込んだ案件でスチュアートがとばっちりを受けた。そこだけフォローしてやれば良いか、と割り切った。
「お仕事の意義を理解していただけない方々がいるのは世の常です。高い地位とはいえ、学生の間は自分の世界以外は見えない事もあるでしょう。そこは、一歩引いて大人の余裕で、それらの方々の成長を待っていただけないでしょうか。ご自分以外にもその行動の意義を理解している方々がいる事はお分かりでしょう。女の目を気にするなんて若いな、と余裕で見てあげましょうよ」
がっくり、とスチュアートは再び項垂れた。そんな若造と同じ目線で口喧嘩をしてしまったのがスチュアートだ。女の目は気にしていない…かもしれないが、女がどう思うかは気にしてしまった。
スチュアートが連れて来た侍従は、騎士団でも一緒にいるジムではないから詳細を知っている訳ではない。それでもスチュアートが家族以外で最近最も顔を合わせているのがこの孤児院の女である事は知っている。そして、こんな風に弱っているところを見せてしまう相手も父親以外にはほぼいない事も知っている。『女の目を気にするなんて若い』と年少の、多分思い人に言われるのはスチュアートには堪えただろうと侍従は察した。
スチュアートが連れて来た侍女もスチュアートの気持ちを察している。平民の女など公爵子息から見れば身分違いで女性として見ない。だから侍女を立ち会わせる必要はない筈だった。それが侍女を連れてきているのだから、相手を女性として意識していると示しているに等しい。にも関わらず、男女関係を考慮しない発言をするこの平民女は、つまりスチュアートを恋愛対象として見ていない。
そういう訳で、スチュアートは侍従・侍女に深く同情される中、項垂れていた。
一方、占い師は困ってしまった。
(恋愛脳の学生と我々大人は違う世界の生き物だって考えれば良い、って言ってるんだから、元気になってもらわないと二の句が告げられないじゃない!)
…少なくともスチュアートとの恋愛感情を感じていない占い師だった。
やはり、尊敬できる相手でないと恋は出来ないのでは…哀れスチュアート。
明日から新章になります。




