4−9. 騒動 (8)
フレドリックは頭に血が上って、スチュアートの胸倉を掴む為に近寄ろうとした。だからヴィンセント・モントローズが声を上げた。
「フレドリック殿下!」
大人世代に対してはフレドリックは素直だった。だからフレドリックは足を止めた。
「叔父上…」
フレドリックの声は震えていた。スチュアートに対しては同格と思っているが、ヴィンセントについては父と同格か、それより有能と思っていたから強くは出られなかった。
「まず、学院での事態については、事故なのか事件なのかは調査が進まないと分かりません。それでも、同級生が亡くなった事は不幸な事と思っております。その事で殿下がお怒りになるなり不条理を嘆くなり思う事はご理解いたします」
ヴィンセントは言葉を一度止めた。フレドリックも状況を整理させられた上に一応同情もされて気が収まった。
「一方で、今、一番大事なのは、事件の再発防止です。ですから、密告があり、該当する薬物が押収出来たのは幸運でした。一方、それが貴族学院にて使用されたらしい事は調査が必用です。今回の薬物に関係していると思われる商会と貴族がいくつか明らかになっております。それと学院内調査を通じて、誰が事件に関係しているかの調査をお待ちいただけないでしょうか。学院の生徒も動揺しております。殿下が平静なお姿をお見せいただければ、生徒の動揺も収まる筈です。今しばらく、お心を安らかにしている演技だけでもしていただけないでしょうか?」
ウィグムント王が話を締めた。
「フレドリック、ある程度捜査が進んだところで話は聞かせる。今は下がれ。ヴィンセント達は報告ご苦労だった。今日は終わろう」
ヴィンセントは帰りの馬車でスチュアートに告げた。
「お前がしないといけない事は知人を守る事で、ああして喧嘩腰になっては守れないぞ。冷静に話の着地点を考えてから話さないといけなかった筈だ」
スチュアートは項垂れた。
「分かっております…」
ヴィンセントは思っていた。あの場で情報源を突き止めようという意思も兄にはあった筈だ。それを切り上げたのは、兄が答えたくない質問がこちらから出る可能性があったと言う事だ。
(きな臭い事だ)
第一騎士団としては、第二騎士団からの人員が整備されるまで捜査が行えなかった。一方、第二騎士団を王都に入れて、関連する商会と貴族の関係者はその監視の下に外出禁止となった。
当日のスチュアートの興奮状態を鑑みたヴィンセントの命令で、スチュアートは翌日1日休みを取った。
そういう訳で朝の孤児院にスチュアートが侍従と侍女を連れてやって来た。前日の事件について、具体的な話は出来ないが間接的に報告なり愚痴なり言いに来たのだろう、と占い師は察したので、拒めなかった。子供達の労働の音頭取りは年長のピートに頼んだ。
スチュアートには覇気がなく、項垂れていた。
(愚痴の方か)
そう思った占い師は酸っぱい茶ではなく普通のお茶を淹れる事にした。
「今日は普通の茶なのだな」
茶を口に入れたスチュアートは呟いた。
「お客様用には普通のお茶を備えているのですよ。二級の茶葉ですみませんが」
暗に前回は歓迎していなかった事を匂わせたが、萎びているスチュアートには察する事が出来なかった。
スチュアートが話し出さない為、占い師が話を振った。
「気に入らない上司にでも難癖を付けられましたか?」
「ああ、気に入らなかったが相手にはしていなかったし、そいつはもう失脚したからどうでも良いんだ」
(話を振ってやったんだから、何とかして繋げろよ)
占い師は思ったが、萎れている男なんて子供以下か、と思い直して大人の対応をする事にした。
「他に何かお気に召さない事でもありましたか?」
しばらく黙ったままの後、スチュアートは口を開いた。
「従兄弟が薬を盛られた同級生に襲われ、その時に好きな皇女に守られてプライドが傷付いたらしく、八つ当たりをされたんだ」
フードの下で占い師の目が点になった。それはスチュアートにも侍従・侍女にも見えなかったが、口が少し開いていた。
「珍しく驚いているんだな?」
そう、むしろ平静を装いシラを切るのが占い師の得意技なのだ。こんな顔を見るのはスチュアートにとって初めてだった。
胸倉はどちらの手で掴むか?普通は利き腕じゃない方でしょうね。やった事がないので、一々理屈で考えないと場面が思い浮かばない。




