4−8. 騒動 (7)
宰相の到着が確認出来た為、スチュアートはジョナサン・ヒュームとウォーレン・キャロウェイの隊に、押収薬物を王宮に運ぶ様に連絡した。
王命を妨害した騎士団長と管理倉庫の関係者は近衛に拘束された。
報告を受けたウィグムント王は、第二騎士団から人員を出して第一騎士団の指揮を取る様に命じた。
王宮に押収薬物が届いたと連絡があり、スチュアートを騎士団で拾ってからヴィンセント・モントローズ公は王宮に向かった。
「情報源はどう説明するのだ?」
ヴィンセントは情報源が誰か気付いている様だ。
「だから、暴れる者が出るまで待って踏み込んだのです。面識のない不審者からの情報なので信用出来なかったので」
ヴィンセントは顔を顰めた。それで兄を誤魔化せるかを心配したんだ。
一方、フレドリック王子は自分の宮に戻ってしばらくはベッドに頭をうずめて蹲っていた。
同級生が自分を襲った事、その同級生が何者かに殺された事はショックだった。それに加えて皇女に守られた事も自尊心を傷付けた。むしろ自分が皇女を守るつもりでいたのに。そこで人が焼かれた煙を吸った事を思い出し、うがいをしたいと思って侍従に用意をさせた。
うがいの後に侍従が声をかけた。
「本日は大変な事がありましたね。心中お察しします。夕食は軽いものにしますか?」
「そうしてくれ。後は、父に報告と相談をしないといけない。先触れを出してくれ」
「陛下は本件について、第3謁見室でモントローズ公とスチュアート卿の説明を受けておられます」
「なぜスチュアートが説明をするんだ?」
「犯行に使われた薬物を既に押収したとの事で、その件の報告です」
(今日押収出来たのなら、どうして犯行の前に押収して報告をしなかったんだ!?)
フレドリックの中で今日の事件の責任を問える人物が浮き上がった。彼は自分の体たらくを認められず、誰かの責任を問い、怒りをぶつけたかったんだ。フレドリックは走り出した。
私的な謁見場である第3謁見室に押収薬物が持ち込まれ、ウィグムント王、宰相、モントローズ親子とモントローズ家の分析担当が顔を揃えた。
スチュアートが説明を始めた。
「面識の無い者から密告があり、体内の魔力を乱して錯乱させて暴れさせる危険薬物が王都内に100以上持ち込まれたと知りました。現物を当家で確認したところ、言われた通りの効果がある事が確認されました。昨日、3か所に貯蔵されている事が分かり、本日の昼に監視していたところ、薬物商の店で騒動が起こり、突入して薬物を押収しました。押収薬物は騎士団の管理倉庫に預けたのですが、どなたかの指示で焼却されそうだと知って制止に向かう途中、宰相閣下を迎えている騎士団長と遭遇し、宰相閣下とご一緒して現場に向かいました。そこで、煙を吸った者が錯乱して殴り合っており、昼の商家と同じ騒動が再現されたと言えます。以後は宰相閣下のご指示で王命に従い待機しておりました」
「宰相はそれに相違ないか?」
「騎士団での騒動についてはスチュアート卿の言う通りです」
「つまり、今回の危険薬物は焼却して煙を吸うと問題行動を起こす、と言えるが、他に効果があるか説明出来るか?」
「我が家の分析担当が現物を確認しましたので説明します」
ヴィンセントの言葉に分析担当が続いた。
「スチュアート卿から一昨日に受け取った薬物をネズミに投与したところ、狂ったように暴れ、傷から血を流して失血死するまで止まりませんでした。よって、経口摂取で効果がある事は確認しました。人間に対しての効果は確認しておりませんし、焼却時の煙に効果があるかは本日そのお話しを効くまで知らなかった為、確認しておりません」
「スチュアートは薬物商に踏み込んだとの事だが、他の薬物を扱う貴族に関連している事とは分かっていたのか?」
「存じません。同僚のジョナサンとウォーレンがコクラン伯爵邸とヘリス男爵邸に持ち込まれる段階で押収したと聞くまで、誰が背後にいるかは不明でした」
「薬物はどこから持ち込まれたかの情報はあるのか?」
「外国の伝説にある薬と情報源から聞きましたが、その話を聞いた事はありませんので不明です」
ここで分析担当が小さく挙手をした。
「述べよ」
「発言をお許しいただきありがとうございます。どうやら極東の伝説であると文献にはのっております。また、丸薬の中の興奮剤は東方からの薬物と類似しております」
「スチュアート、情報源は南部港湾地区出身の者なのか?」
スチュアートが王の質問に答える直前、ドアが開いて息を弾ませたフレドリックが乱入して来た。
「スチュアート!事後に薬物を押収しておきながら、何を自慢しに来ているんだ!」
フレドリックが感情的になっている事は明らかだった。
(ああ、お坊ちゃんが荒事に面してまだ動揺しているのか)
見下した態度を隠してスチュアートは答えた。
「どうやら犯行に使われた薬物を押収出来た、と報告しておりますが、特に自慢をしている訳ではありません」
「こんなところにのこのやって来て父上に報告している事が自慢だと言うんだ!騎士団長なりモントローズ公なりが説明するのが筋だろう!事件が起きる前に押収出来なかった事を恥じる謙虚さは無いのか!?」
(法の適用範囲外の薬物を、問題が起きる前に押収したら冤罪だろうが。占い師が危ない橋を渡ってくれたお陰で大惨事にならずに済んだのに何を言う)
スチュアートにとって、逆鱗と言えるところをフレドリックは突いた。これは決して表には出ないが、大惨事を防いだのは彼女の功績なのだ。
「事件が起きる前には本来なら押収出来ませんよ。法規制外の薬物なのですから。何でも上意下達で取り締まれる訳ではないのは、お父上の治世をご覧になっていれば分かる筈ですが」
「貴様!父の名前を出せば私を黙らせられるとでも思っているのか!?」
「逆に言えば、あなたが『クロ』と言えば誰もが『クロ』とみなすとでも思っておられるのですか?今、あなたが怒るべき相手は、容疑者とその容疑者を口封じした者ではないのですか?」
ウィグムント王は弟ヴィンセントを見た。二人共感情的になっている事はヴィンセントも感じていたから、ここで大人が介入すべきだった。
兄と同じ事をやっている自覚なし。身分は高くても実力がない者は口を動かす以外出来ることがないから仕方がないとも言えますが。




