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4−5. 騒動 (4)

 魔法演習場は壁に囲まれており、その出入口から生徒が数人ずつ逃げ出していた。

「教室に戻れ!他の教師から指示があればその指示に従え!」

教師が生徒に指示を出していた。


 本来、真っ先に避難しなければいけない高貴な人の顔がここには無かった。


 アンジェリーナ皇女は一瞬思案したが、下手に誰かに話しかけると教師から避難指示が出てしまう。そう考えて、黙って小走りで中に入った。

「おい、戻るな!避難しろ!」

背後から聞こえる声は無視した。


 演習場は4つの領域に別れていた。

入口から遠い方には土の壁が出来ており、その前に標的があった。

水魔法の演習領域では土壁の前に排水用の水があった。

土魔法の演習領域では土の広間があり、度重なる地面操作のために凸凹になっていた。

風魔法の演習領域では土壁の間に風を通す為の隙間があった。

その3領域には今は人はいなかった。


 そして、火魔法の演習領域では、魔法実演時に立つ場所より手前に女生徒が立っており、険しい形相をしていた。


 彼女の視線の先には、黒焦げになった皮の盾を構えた教師がおり、その背後にフレドリック王子と3人の側近候補が固まっていた。その背後の施設に火が点いていた。つまり、この女生徒がフレドリック達に火魔法で攻撃をしていると思われた。


 彼等を見つけてそちらに小走りで向かおうとした皇女にフレドリックが叫んだ。

「危険だ!近寄るな!」

女生徒も口を開いた。

「邪魔をするならお前も殺す!」

女生徒は両手からファイアーボールを2発打ち出した。


「皇女!下がれ!」

フレドリックの声も無視して、皇女は両手を女生徒に向けた。皇女から10ft程の距離でファイアーボールは飛び散った。


「邪魔をするな!」

女生徒は再び2発のファイアーボールを放ったが、同じく皇女の伸ばした両手の先で飛散した。


 2回の防御の間に皇女はフレドリック達に合流した。

「他に盾は無いのですか?」

それには教師が答えた。

「今、応援を呼んでいる!」


 イアン・ダグラスが冷たく言った。

「貴女が来ても何も出来ません。無意味に被害を大きくするだけです。避難してください」

「聖盾は普通の攻撃魔法よりずっと魔力の消耗が少ないんです。時間稼ぎにはなります」


 フレドリック達は大人しい皇女が駆けつけたのも意外だったが、同様に皇女が防御魔法まで使える事も意外だった。治療以外はこの大人しい女性には向いていないと思っていたんだ。


「それで、何故彼女は殿下を攻撃しているんですか?」

「急に激高して、ファイアーボールを打って来たんだ。それを風魔法で逸らしたのだが、それから私に動きがあると攻撃してくるんだ。避難していく生徒には興味がなさそうで、攻撃はしないんだ」


「彼女は王家と距離がある家の娘なのですか?」

「いや、彼女は平民の特待生だ。彼女の出身地の領主は特に野心のない男だから、暗殺目的では無いと思われる」

「しかし、殿下のお命の方が大切です。こうして応援を待つだけでは不測の事態が起きかねません」

「…我々はどちらかと言うと防御的な魔法属性なのだ。私は風、イアンは水、スコットは風、ケントがようやく火属性だが、相手が特待生なので攻撃を始めると不利になる可能性がある」


「……」

皇女から見てもフレドリックは『良い子』である。自分を害している者でも、厳しい措置が出来ないんだ。

「その、彼女の例えばファイアーウォールの展開出来る距離はどのくらいなのでしょう?」

「確かではないが、上位貴族以上の距離でファイアーウォールが出せるという事はなかった筈だ」

「じゃあ、今の距離から彼女が近づこうとしたら、何らかの牽制魔法で近寄らせない様にする必用がありますね」


「ファイアーウォールが問題か?」

フレドリックの疑問に皇女は答えた。

「人々のいる場所に直接ファイアーウォールを展開されたら、盾では防げません」

イアンが応えた。

「分かった。彼女が近づく様なら、私が水魔法で牽制しよう」


 ところが、彼女の攻撃手段はファイアーボールだけでは無かった。まもなく1年が終わるから、2年の攻撃魔法をもう練習していたんだ。


 彼女は長く伸びる高速の炎を打って来た。ファイアーランスだった。皇女が両手をファイアーランスに向けると、先ほどより高火力の炎でさえ10ft先で飛散した。


「貴女は聖盾が得意なのか?」

「得意と言うより、そもそも聖盾は絶対防御なんです。闇魔法で侵さない限りは破れないんです。その上魔力消耗も少ないから、遠距離攻撃魔法だけなら防げます。相手の魔力消耗の方が早いですから」


 とは言え、皇女の言う通りにフレドリック周辺で火を起こす魔法を使われたら防げない。フレドリック達は、特待生ティナが接近してくる様なら攻撃が必用な事は理解した。

 慣例的にファイアーボールの上位魔法の長いやつをファイアーランスと呼んでいます。

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