3−5. 貴族達の見方
こうして王都内でのパンの小売り価格は例年の1割増し近辺に安定した。だから、王都に雨が降る度に、麦を抱えた者達は不安になった。
「このまま収穫量が回復してしまうのではないか…」
「雨が降ると倉に蓄えている麦が痛むのではないか…」
麦商人達はパン屋の親父に尋ねてみた。
「いくらまで下がれば麦を買ってくれるんだい?」
「1割増しを多少下回ったくらいでは買えないよ。モントローズ公には今回、本当に世話になったからね」
「じゃあ0割6分増しくらいかい?」
「0割5分増しなら、お貴族様方には悪いけど、って言えるところだね」
そういう事で、麦商人達は例年の0割5分増しで麦を放出し出した。そうするとパン屋以外からも買いが入った。モントローズ公他の三家である。
そうなると商人達も値上げをしたが、そうなるとまた買いが無くなる。結局麦の在庫を抱えた商人達は、例年の0割5分増しで売る事になった。もちろん、我慢比べに負けた転売プレーヤー達はそれ以下の価格で麦を手放した。
転売の麦を抱えた貴族達は、貴族議会に訴えた。
「モントローズ公らのパン屋への麦売却は、麦の売買を許可制としている王国法に違反しているから、即時停止させるべきだ」
モントローズ公は当然の反論をした。
「通常では行わない事を行っているのは、麦価格が適正な価格から逸脱しているからだ。実需に拠らない、転売者同士の売買で吊りあがった価格により麦価格が上昇し、王都の市民がその皺寄せを受けている。この事態からの王都市民の救済が一つの目的だ。転売による価格つり上げが起きない状態になればこの活動は停止するつもりだ」
「転売とて正当な商行為だ!その正当な商行為で売買を行う者が損害を受ける様な行動は即時止めるべきだ!」
「私は、その商行為によるもうけは王都市民から吸い上げたものだと言っている。諸君らは王都市民がやせ細り飢え死にしても、自らの儲けを優先する吸血鬼だとでも言うのか?そうでないなら恥を知って転売行為を控える事だな」
「我々は、麦の売買を王国法に従い麦商人を通して行っている。合法的な商行為を誹謗するのは止めていただきたい!」
「麦商人がいくら価格が上がっても取り引きを受け付けたのは、その価格で買わざるを得ない者がいるからだ。そういう実需を除けば、転売価格の高騰が危険な状態であると麦商人が判断しているから、そのような高価な取り引きを停止しているのだ。もう、その価格での実需は存在しないのだからな。つまり、麦の収穫の減少による価格高騰は、実際には例年の5割り増しになるようなものではないのだ。転売屋同士が売買ゲームを楽しむのは良い。好きにやってくれ。だが、王都市民ならびに今後麦を購入せざるを得ない各領主がその価格で購入する必用は無い。その手段を私は示しているのだ」
モントローズ公が例年の1割増しで麦を流しているのは、やがてくる収穫の時期に不足分を補うために麦を購入する貴族も1割増し程度で購入できる様にすべきではないかと提案しているのだ。
伝統貴族は困窮した貴族から金をむしり取るのをよしとしないし、収穫減が見込まれる貴族は当然転売による価格高騰を嫌った。よって、貴族議会はモントローズ公の行動を掣肘する議案を過半数の反対で否決した。
貴族達は顔を合わせる度に話し合った。
「モントローズ公のお陰で、他の貴族もやり易くなりましたな」
「そう、不作に関して貴族同士で融通するとしても、1割までは利益を上げて良いという前例が出来ましたからね」
「しかも、夏以降の収穫があまりに低いものでなければ、王都の麦相場は例年の0割5分増しから1割増しで安定する事が確実だ」
「もちろん、モントローズ公とハンター候の領地の麦が増収予想だから可能だった訳ですが」
実はモントローズ公とハンター候は、ゴードン候に対して例年通りの価格で麦を売っていた。そして、三家の備蓄を王都のパン屋に1割増しで売り、王都の麦商人から0割5分増しで買っていた。輸送費を除くと大した利益にはならなかったが、損をしないと言う事が重要だった。
目的は伝統貴族三家で王都市民を救う、そういう名誉に浴する事なのだから。それを三家で分かち合う、そういう事で貴族間の結びつきを強める事も目的だった。




