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3−4. そんな高い金では買えない

 父親の承諾を得て、スチュアートは兄ギルバートに詳細説明をする事になった。


「王の耳に入れておく必要があるだろう。伯父上なら反対はすまい。歴史は、飢饉や食料高騰が暴動への入口だと教えている。伯父上は自分から動くのは嫌がるが、放置は下策と知っている。だから、父上に押し付けられるなら押し付けたいと思っているだろうよ。一方でパン屋組合に話を持って行く前に、供給体制を秘密裏に構築しないといけない。…ふん。王弟である父上に持って行くのが最上の策だ。スチュアート、その女に気を許すなよ。でくのぼうなら尻の毛までむしり取られかねない相手だぞ」


 スチュアートは占い師を疑っていなかった。証拠がなければ平気でシラを切る不敵な女だが、子供達への心配は本物だった。そして、やる気なら食糧暴動を誘発しながら王都を単騎で混乱に陥れる程度の事はやるだろう。占い師がスチュアートの実力を計り知れる様に、スチュアートも占い師の実力を予測出来ていた。


 そうして、モントローズ家の総領息子のギルバートは、父ヴィンセントに細かいタイムスケジュールまで添えて行動計画を示した。


 ヴィンセント・モントローズの個人的な面会希望に対して、ウィグムント王は応えた。


「今度は何の小言だ?」

「小言ではありませんよ。兄上の心配事の一つを私が対処して差し上げる、との提案ですよ」

「何の事だ?」

「もちろん、麦価高騰対策ですよ」


「原因は夏以降の収穫予想だろう?なら対処は不可能な筈だ」

「それでも、ここまで高騰するのは投機筋の仕業ですから。そこをケアします」

「具体的にはどうするつもりだ?」

「ハンター侯爵と組んで、ゴードン侯爵に麦を供給します」


「一貴族を二家で救うと言うなら、それは推奨されるが、一家しか救えないのだろう?」

「三家をもって、王都のパン屋組合に出資します。そして最低限の利益で麦を供給します」


 ウィグムントは一考した。

「既に高値掴みした商人・貴族から恨まれるだろう?」

「そいつらは元々我々伝統貴族とは反発していますから、それは大したデメリットではないです。一方、王都の治安悪化は防げます。秋に予想される王都の暴動を防ぐ事が先決と思いますよ」


 ウィグムントは小さく息を吐いた。

「支持は出来ないぞ」

「制止もしないでしょう?」

「支持しない。それ以上でもそれ以下でもない」

「ありがとうございます」


 すぐに財務省にモントローズ公爵家とハンター侯爵家、そしてゴードン侯爵家の提携の申請が行われた。財務省の役人の監視下で南部のモントローズ家から両侯爵家への麦の輸送が始まった。


 王都のパン屋組合の幹部への内示は済んでいたから、すぐに三家による資本参加の希望者が募られた。他店との競争で値上げは限定的にしか出来ずに首が回らなくなっていた店がすぐ資本参加を受け入れた。


「おい、本当に例年の1割増しで小麦を売ってくれんのか?」

先行して資本参加を受け入れたパン屋に他のパン屋が尋ねた。

「ああ、本当に1割増しだったぞ」

「それじゃあ、お貴族様の利益にならねぇんじゃねぇのか?」

「例年より1割増しなら一応利益が出るって言ってるぜ」


 そうして次々と資本参加を受け入れるパン屋が増え、結局殆どの店が資本参加を受け入れた。その動向を見守っていた小麦商人は、殆どのパン屋が市場価格で買わない事を確認すると、麦の新規買い入れを停止した。


「おいっ!ついこの間まで買い取りをしていたではないか!」

「もうその価格で買う者がいなくなりましたから、現状は倉に在庫が有り余っています。これが割けるまで新規購入はいたしません」


 商人にとって市場価格の情報は最重要事項であり、麦商人の間ではすぐに例年の1割増し以上の価格での買い取りは行われなくなった。そうなると余計な麦を抱えた商人系貴族は不安になった。秋まで貯め込んでいればある程度値上がりはする筈なのだが。


 秋に不作が確認された領地を持つ貴族が不足分を買うのは確かだが、一方、モントローズ家の様に貴族同士で最低限の利益で融通する者が多ければ値上がり額は予想していた程では無くなる。だから貴族は麦商人に尋ねた。


「いくらなら買うのだ?」

「我々だとて、例年の2割増しまで値下げしたのですが、誰も買いません。今確実に言える買い取り価格は、例年の0割5分増し程度と言えましょう」

「つい最近まで5割増しで売っていたのにか!?」

「売れる価格より買い取り価格は低いものですよ。手間賃がかかり、税も払わないといけませんから」

 トスを受けたらトスで返すだけで何もしたがらない人がいますね。

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