3−2. その場しのぎ
そんな風に雰囲気が悪くなっているところに、スチュアート・モントローズがやって来た。
「占い師、解決策があるのじゃないのか?」
「…政治家が最底辺の人達を見捨てているのなら、一平民に出来る事など限られますが」
スチュアートは目を細めながら占い師を見つめていた。苦い思いをしながらも先を促しているのだ。占い師も溜息を吐いた後に答えた。
「山に地下茎が食べられる植物があります」
またマフィアが音頭を取り、男達は里山の麓に地下茎を探した。占い師が如何にも生えていそうな場所を指示し、収穫後、男達はモントローズ家の用意した昼の軽食を取ると帰って行った。
確保した長い芋を一本抱えながら、占い師は浮かない顔をしていた。だからスチュアートは尋ねた。
「何が気に食わないんだ?」
「今年はもうこの手は使えません。そして、来年以降も困る前に取ってしまう者がいるでしょう」
占い師がやっている事は政策で、誰かが介在しなくても子供達が成人まで生きていく仕組みを作ろうとしている事はスチュアートも分かっている。
「孤児院で育てている作物は継続的に食料を供給するのか?」
「売り物にはなりません」
「見せて貰おう」
孤児院に戻り、スチュアートと侍従と侍女の見る中、占い師は少年ピートとその妹のニアと三人でスープを作った。よくある豆と雑穀のスープにした。スチュアートが口に入れても、不味くは無いが美味しくもない。騎士なら遠征で口に入れるのはこの程度だから文句はない。
「小麦を作らない理由は?」
「収量を報告して税を収めないといけませんので」
「これはパンの様にはならないのか?」
「煮てすり潰せば粘り気が出ますので、焼く事は出来ますが。それをやると役人・貴族に小麦と曲解されて罪に問われるでしょう」
「他に煮ている理由は?」
「焼いたものは保存して、悪くなったものを食べて腹を壊す可能性があります。煮るものだと思わせれば、食べる前に必ず沸騰させますので、特に夏場に食当たりを減らせます」
スチュアートの口は穏やかな形をしていたが、眉間に皺が寄っていた。子供達を救う慈善活動は好意的に見るが、その為に裏の仕事をやることは否定的に見ているのが現われているのだろう。
(今は種を撒き、水をやっている段階。水は勝手に降ってくる訳じゃない)
今年のように病が流行ったり、日照りで食料価格が上がらなければ、ここで育てている薬草が効果は低くても安価な事が浸透し、町の住人達もこの孤児院が役に立つと思うだろう。1年目に問題が起こったのが不運だった。
そして、最下層の人間は、社会問題が起きれば真っ先に命の危機に晒される。そうして更に弱い孤児達から搾取しようとするのだ。
占い師の口から思わず恨み節が零れた。
「貴族どもが本来の役目を忘れて私利私欲に走るから、国が乱れる。貴族は分権された政治家なのだから、自国全体、世界全体を考えて行動できないのか。成金商人かよ…」
(素が出ているぞ、占い師)
強く思うと頭の中で考えているだけのつもりなのに口から出てしまう事もある。もっとも他人がいるところでは出さない筈…自分に少しずつ心を開いてくれている、そう思ってスチュアートの口元は綻んだ。
「本来商務省が動かなければいけないところを、そうでないなら有力貴族が動けば良いものを…」
スチュアートは察した。
(…つまり、策はあると言う訳だ)
「どうしたら良いと思う?」
「そんなの決まってる。転売のプレイヤー以外が購入しない流れにすれば良い」
「商務省と言ったという事は、小麦の売買が許可制な事が分かっているのだろう?なら誰もが小麦商人から買わねばならない筈だが?」
はっとした占い師は上を向いた。言葉が漏れていた事に今気づいたんだ。占い師は腰を深く折った。
「申し訳ありません。騎士様にとんだ無礼を」
「まだ友人とまでは思って貰えていない様だが、私の事は知人以上友人以下程度には思ってくれているのだろう?なら、失礼・無礼なんて言葉は無しだ。それより、無辜の民の生命の危機だ。策があるなら教えて欲しい」
策はあっても権力も財力も無い流れ者の占い師。




