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2−6. 平和なデートと内務省の一撃(平和な人々とは一応無関係)

「失礼した。彼は従兄弟でね」

「お身内は大切にした方が良いと思います。私に気遣いは不要です」

フレドリックとしては、流行り病の治療の仲介で親しくなったと思っていたのだが、この皇女は相変わらず控え目だった。

「まあ、それはそれとして。平民街にはそれなりのしきたりがあってね。屋台の食べ物などは立ち食いになっているのだが、貴女には無理かな?」

「衛生的に問題のない物でしたら、お勧めがあればお付き合いします」


 つまり、フレドリックが過去、腹を壊していない食料ならいただこう、と言う意味だと彼は理解した。


 フレドリックは屋台から薄く焼いた麦を折り重ねた焼き物を買って来た。紙に包まれたそれをフレドリックが手に持って噛みつくのを見て、アンジェリーナ皇女も渡された食物に噛みついた。


「程よく甘いだろう?」

小さく顎を動かした後、皇女は吞み込んでから応えた。

「潰した果物に花蜜を混ぜている様ですね。この花の密はそれ程でもないですが、植物全体に弱い毒があった筈です。あまり大量に口に入れない方が良いと思いますよ」


 フレドリックは驚いて口を開いた。

「それは重篤な症状になる事もあると?」

「いえ、お腹を壊す程度です」

「それは聖魔法で分かるのか?」

「いえ、一般的な知識です」

フレドリックは聖魔法師である皇女の博識に感心した。


 月曜の夜、平民街の潰れた飲み屋に依頼主が現われた。

「図面はこれだ」

「早い仕事で助かる。後、土曜の騒ぎはあんたか?」

「知らないな」

「荒事は頼めるのか?」

「手下が少ないから無理だな」

「分かった。また頼みたいが、手形はもらえるか?」

「組織を通してくれ。義理を欠いたらやっていけない仕事だ」

「分かった」


 バカン伯爵邸の騒ぎは、第一騎士団へ苦情として伝えられた。治安維持に問題あり、と言う事だ。一方、週明けにモントゴメリー候が貴族議会にキンロス男爵令嬢エミリーの保護とバカン伯爵への非難を申し入れた。キンロス男爵もバカン伯爵も撥ね退けた。


「娘は虚言癖があるのです。厳しく申し付けますから娘をお返しください」

「事実無根だ!誹謗中傷だ!例え上位貴族といえ、理由なき批判は受け入れられない!」


 この王国の建国神話では、国家統一の途中で初代王に神が妃を与えた事になっていた。この故事にならい、王家も貴族も一夫一婦制になっていた。だから国教会の修道女がエミリー・キンロスの事情聴取にあたり、その証言を国教会が尊重した。


「両親は私を売った様です。男爵家の娘では貴族との結婚もままならないから、それでも金になるならと…」

「国教会としてはエミリー嬢は保護されるべきで、そうでないならキンロス男爵とバカン伯爵は人身売買の背教者として処分されるべきと判断します」


 貴族議会では過半数の反対で差し戻し、三分の二の反対で否決を行えるが、ここでモントゴメリー候の提案を議会は過半数の賛成で可決した。通常、宰相などが提案する国家予算案は拝金貴族の賛成で可決されるが、拝金貴族の支持を宰相周辺の貴族がするとは限らない。今回は伝統貴族のモントゴメリー候に賛同する者が多かった訳だ。


 エミリー・キンロスはモントゴメリー候と教会を後見者として、モントゴメリー候に近い男爵家で保護される事になった。キンロス男爵家とバカン伯爵家には貴族議会と第一騎士団、そして財務省の調査が入る事になった。ぞして財務省の監視の為に内務省調査室も立ち会った。


 貴族議会の監視の下、バカン伯爵邸の捜査が行われた。エミリー嬢も教会の保護の下に立ち合い、現場の調査が行われた。


「家と家の間での話があると言われてこの部屋に連れて来られて、ベッドに押し倒されました」

もちろん犯人のバカン伯爵子息が立ち会えば騒ぐと思われた為、伯爵子息は別途立ち合い調査する事になっていた。


 一方、バカン伯爵の書斎にて執事の立ち合いの下に出納帳が確認された。

その時、内務調査室の者が棚を叩いた。


「反響音がおかしい。調べさせてもらうぞ」

「お待ちください!邸内の機密まで暴くのは越権行為ではないですか!?」

執事が叫んだが、内務調査室の男は棚が動く事を確認、開けた中に書棚がある事を確認した。


 第一騎士団がバカン伯爵を連れて来た上で、財務省の調査官が裏帳簿を確認した。こうしてバカン伯爵邸は閉鎖された上で財務省に徹底調査され、バカン伯爵は尋問にて釈明を続ける事になった。


 財務省としては自分達の財務調査に穴があったと責任を取らされるのが嫌な為、バカン伯爵に対して徹底調査が行われ、莫大な追徴課税が行われた。人身売買と思われる記載は見つからなかったが。裏帳簿に書かれていた関連商人・関連貴族にも追加調査が入ったが、さすがに屋敷内の徹底調査は行えず、こちらは自己申告を信じるしかなかった。

 帳簿という単語を使うとAIだと非難される昨今、せっかく「出納帳」と書いたのに、「裏帳簿」は良い言い換えが見つかりませんでした。


 明日から3章です。

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